[MAG44-P06] 福島県の森林土壌における優先流による137Cs濃度への影響
キーワード:優先流、137Cs、福島第一原子力発電所事故、スクレーパープレート
2011年3月11日に発生した福島第一原子力発電所の事故により、大量の放射性核種が環境中に放出された。放出された放射性核種の1つである137Csは、放出量が1.5×1016 Bqと多く、半減期が30.1年と長い。そのため、環境汚染は長期的な問題になると考えられる。環境中の137Cs動態を明らかにすることで、福島の復興に役立ち、将来的な原子力災害に備えることができる。
陸域へ降下した137Csは森林地帯に70%沈着したと推定されている。森林では、樹冠に沈着した放射性セシウムが地表に移動し、事故から9年が経過した現在では放射性セシウムのほとんどは土壌に存在する。地表に沈着した放射性セシウムは、時間の経過とともに徐々に土壌に浸透する。一方で、土壌中における放射性セシウムの垂直方向の移動メカニズムは、正確に解明されていない。そのメカニズムとして、降雨により浸透のほか、生物攪乱や土壌粒子の移動、優先流の影響などがあげられる。
優先流とは重力により、土壌中を鉛直下向きに速やかに移動する水の流れのことである。染料を使用したスイスの研究では、Preferential flowが流れたと考えられる染まった土壌のセシウム濃度が染まっていない土壌(Matrix)よりも高いことを示した。しかしながら、これは濃度の差を示しただけであり、深度ごとの放射性セシウムの全量を示すことができない手法であった。そこで、本研究では土壌中における放射性セシウムの垂直方向の移動において、優先流がどの程度影響しているか定量的に明らかにすることを目的とする。
福島原発事故の影響を受けた福島県双葉郡浪江町赤城地区のスギ林に1 m × 2 mのプロットを設置した。土壌は酸性褐色のカンビソルであった。土壌の優先流路を染色するために、2gL-1ローダミンBを含む脱イオン水を携帯用散水装置で10L散布した。染料を塗布した2日後、プロットの樹木付近と樹木遠方付近の2点でスクレーパープレートをしっかりと固定した。固定されたスクレーパープレート内部の土壌を垂直下向きに深度ごとに採取した。深さは0-1cm、1-2cm、2-4cm、4-6cm、6-10cmに設定した。この際、スプーンを用いて染色された土壌と染色されていない土壌に分けて採取した。プロットの周辺は遮光シートを用いて暗所をつくり、その内部でブルーライトを使用することで蛍光染料を励起させた。染色された土壌を明瞭に視認しやすくした。採取した試料は40℃の乾燥機で乾燥させ、2mmのふるいにかけた。その後、Geガンマ線検出器を用いて137Cs濃度の測定を行った。
分析した結果、樹木付近と樹木遠方付近の2地点に大きな違いは見られなかった。2地点ともにpreferential flowとmatrixの137Cs濃度は0-1cmの深度を除き、深度が深くなるごとに濃度は減少した。また、preferential flowの137Cs濃度は0-1cmの深度を除き、matrixの濃度よりも高くなった。preferential flowとmatrixの137Cs濃度の比をとると、樹木付近においては、0-1cm、1-2cm、2-4cm、4-6cm、6-10cmにおいて、それぞれ0.57、 1.07 、1.27、 1.62、 3.02と増加していった。これは、深度が深くなるほど、preferential flowとmatrixの137Cs濃度はpreferential flowにより影響を受けることを示した。
これらの結果は、沈着直後の降雨に伴う優先流によって、137Csが移動した可能性があることを示唆した。また、優先流路は事故から7年以上経っても安定した環境であったと考えられる。これらのことより、福島県の森林土壌においては優先流の影響が多大にみられることを示した。そして、スクレーパープレートを用いて深度ごとの137Cs濃度を測定する際に、深度が深くなるごとpreferential flowの影響は大きく、影響を加味する必要性を示した。
陸域へ降下した137Csは森林地帯に70%沈着したと推定されている。森林では、樹冠に沈着した放射性セシウムが地表に移動し、事故から9年が経過した現在では放射性セシウムのほとんどは土壌に存在する。地表に沈着した放射性セシウムは、時間の経過とともに徐々に土壌に浸透する。一方で、土壌中における放射性セシウムの垂直方向の移動メカニズムは、正確に解明されていない。そのメカニズムとして、降雨により浸透のほか、生物攪乱や土壌粒子の移動、優先流の影響などがあげられる。
優先流とは重力により、土壌中を鉛直下向きに速やかに移動する水の流れのことである。染料を使用したスイスの研究では、Preferential flowが流れたと考えられる染まった土壌のセシウム濃度が染まっていない土壌(Matrix)よりも高いことを示した。しかしながら、これは濃度の差を示しただけであり、深度ごとの放射性セシウムの全量を示すことができない手法であった。そこで、本研究では土壌中における放射性セシウムの垂直方向の移動において、優先流がどの程度影響しているか定量的に明らかにすることを目的とする。
福島原発事故の影響を受けた福島県双葉郡浪江町赤城地区のスギ林に1 m × 2 mのプロットを設置した。土壌は酸性褐色のカンビソルであった。土壌の優先流路を染色するために、2gL-1ローダミンBを含む脱イオン水を携帯用散水装置で10L散布した。染料を塗布した2日後、プロットの樹木付近と樹木遠方付近の2点でスクレーパープレートをしっかりと固定した。固定されたスクレーパープレート内部の土壌を垂直下向きに深度ごとに採取した。深さは0-1cm、1-2cm、2-4cm、4-6cm、6-10cmに設定した。この際、スプーンを用いて染色された土壌と染色されていない土壌に分けて採取した。プロットの周辺は遮光シートを用いて暗所をつくり、その内部でブルーライトを使用することで蛍光染料を励起させた。染色された土壌を明瞭に視認しやすくした。採取した試料は40℃の乾燥機で乾燥させ、2mmのふるいにかけた。その後、Geガンマ線検出器を用いて137Cs濃度の測定を行った。
分析した結果、樹木付近と樹木遠方付近の2地点に大きな違いは見られなかった。2地点ともにpreferential flowとmatrixの137Cs濃度は0-1cmの深度を除き、深度が深くなるごとに濃度は減少した。また、preferential flowの137Cs濃度は0-1cmの深度を除き、matrixの濃度よりも高くなった。preferential flowとmatrixの137Cs濃度の比をとると、樹木付近においては、0-1cm、1-2cm、2-4cm、4-6cm、6-10cmにおいて、それぞれ0.57、 1.07 、1.27、 1.62、 3.02と増加していった。これは、深度が深くなるほど、preferential flowとmatrixの137Cs濃度はpreferential flowにより影響を受けることを示した。
これらの結果は、沈着直後の降雨に伴う優先流によって、137Csが移動した可能性があることを示唆した。また、優先流路は事故から7年以上経っても安定した環境であったと考えられる。これらのことより、福島県の森林土壌においては優先流の影響が多大にみられることを示した。そして、スクレーパープレートを用いて深度ごとの137Cs濃度を測定する際に、深度が深くなるごとpreferential flowの影響は大きく、影響を加味する必要性を示した。