JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS08] 古気候・古海洋変動

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、Benoit Thibodeau(University of Hong Kong)、山本 彬友(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、長谷川 精(高知大学理工学部)

[MIS08-13] 南半球高緯度域IODP Site U1516の白亜系OAE2層準から産したC40アルケノンおよびC41ノルマルアルカンの炭素・水素同位体比

*長谷川 卓1後藤 晶子1 (1.金沢大学地球社会基盤学系)

キーワード:海洋無酸素事変、白亜紀、IODP、炭素同位体比、水素同位体比、アルケノン

南半球高緯度域で行われたIODP第369次航海のU1516で白亜紀の海洋無酸素事変2(OAE2)の連続記録が採取された.この層準の有機地球科学的検討を進めたところ,ハプト鞭毛藻に由来すると考えられる炭素数40のアルケノン(tetracontadienone)および炭素数41の長鎖ノルマルアルカン(hentetracontane)が高い含有量で検出され,その炭素および水素同位体比を検討した.C41ノルマルアルカンはn-alkaneの中でも最も高い濃度で含まれていることがあり,その起源は不明であるが,非常に特徴的な炭素および水素同位体比を持つ.炭素同位体比は-34から-36‰程度であり,-26から-30‰の値を持つ陸上高等植物由来のC29ノルマルアルカンや-29から-32‰の値を持つ藻類由来のC18-C20ノルマルアルカンと比較しても3-5‰も低い値である.その直鎖状の長鎖構造からハプト鞭毛層に由来するアルケノンの構造置換によって生じたとも考えられたが,アルケノンの炭素同位体比は上述の高等植物や藻類とほぼ同様の値を持つため,その可能性は否定された.一方で,その水素同位体比は藻類由来のノルマルアルカンのそれに近く,同様の水域環境で合成された可能性が示唆される.C41ノルマルアルカンとC40アルケノンはOAE2に相当する層位範囲含まれる黒色泥岩のみに高い含有量で含まれる.黒色泥岩の有機物は高い水素指数で特徴づけられる藻類由来物質を主としていることが分かっており,C40アルケノンの起源がハプト藻類であることと調和的である.C41ノルマルアルカンも藻類由来物質であると考えられる.この黒色泥岩層準では陸上高等植物由来のノルマルアルカンの含有量も増加しており,海洋表層だけでなく,陸域表層の生産性も上昇した可能性がある.