JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS11] 地球掘削科学

コンビーナ:黒田 潤一郎(東京大学大気海洋研究所 海洋底科学部門)、道林 克禎(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻 地質・地球生物学講座 岩石鉱物学研究室)、氏家 恒太郎(筑波大学生命環境系)、Clive Robert Neal(University of Notre Dame)

[MIS11-P04] 南半球高緯度域における白亜紀チューロニアン期の「環境スパイク」について
~有機地球化学的な視点から~

*高木 優佑1竹田 ゆきな定見 謙吾後藤 晶子2長谷川 卓2 (1.金沢大学自然科学研究科自然システム学専攻地球環境学コース、2.金沢大学地球社会基盤学系)

キーワード:有機地球化学、白亜紀、国際深海科学掘削計画

本研究は IODP Exp. 369 Site U1512 で得られた試料を用いて南半球高緯度域におけるチューロニアン期の環境変動を解明することを目的として行われた.有機炭素同位体比層序を構築したところ,白亜系下部チューロニアン階で約 3‰の正のエクスカーション(CIE)が発見された.炭素同位体比の正への変位およびバイオマーカー分析に基づいて考察し,CIE の原因はOAE2のような汎世界的なものではなく,地域的な植物プランクトンのブルームであると解釈した.

 白亜紀チューロニアン期(93.9-89.8±0.3Ma)は極域に至るまで温暖な気候が広がっていたと考えられる.チューロニアン期は海洋無酸素事変 2(OAE2:セノマニアン/チューロニアン境界イベント)が発生した直後の時代であり,炭素循環の乱れによる大きな環境変動からの回復期にあたると理解されている.この時代の高緯度地域での情報は十分とは言えない中で,本研究で用いたグレートオーストラリア湾で掘削された IODP Exp. 369 Site U1512 は 南緯約 60°に位置しており,同時代の新たな高緯度域の古環境情報を供給するものと期待されている.本研究では同サイトの全岩の有機炭素同位体比層序を構築したうえで下部チューロニアン階の約 3‰の正の炭素同位体比エクスカーション(CIE)を確認し,この現象がどのような環境変動を反映しているのかを考察した.
 CIE 層準周辺の詳細な有機炭素同位体比層序と堆積速度から CIE の時間幅は約 0.4-2 万年であると見積もられる.したがってこのCIEは歳差ないし地軸傾度のような軌道周期に対応する短時間のイベントであったことが考えられる.またCIE 層準での個々のn-alkaneにおける炭素同位体比の変動を見たところ,明らかに全岩の有機炭素同位体比層序とは異なっていた.これらのことからCIE はグローバルな変動ではなく,比較的重い同位体比を持った有機物の一時的な供給増加に起因する,地域的な変動であると考察される.バイオマーカー組成の解析により,CIE層準では海洋プランクトン由来バイオマーカー(炭素数27の diacholentenesおよび炭素数18 以下のn-alkanes)の相対的な増加が確認され,この時期には海洋プランクトン由来有機物の供給が相対的に増加した可能性が示唆された.さらに全岩有機炭素同位体比が高いという結果はブルーミング時に植物プランクトン類の同位体分別が小さくなったと考えると合理的である.これらのことから本研究で見出した下部チューロニアン階のCIE は、植物プランクトンのブルームを記録していると判断した.