JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS12] XRFコアスキャナーが切り開く環境復元の新展開

コンビーナ:Huang Jyh-Jaan Steven(Institute of Geology, University of Innsbruck)、天野 敦子(産業技術総合研究所)、村山 雅史(高知大学農林海洋科学部海洋資源科学科)、汪 良奇(國立中正大學)

[MIS12-P06] Detecting the seismo-turbidites of off Kumano, the Nankai Trough using ITRAX profile

*奥津 なつみ1芦 寿一郎2福地 里菜3山口 飛鳥2 (1.海洋研究開発機構、2.東京大学大気海洋研究所、3.(株)ダイヤコンサルタント)

キーワード:タービダイト、南海トラフ

海底堆積物中のタービダイトを用いた古地震研究は,北米西海岸沖をはじめ多くの海域で行われており,様々な成果があげられてきている.タービダイトの特徴や堆積様式は,堆積物の種類や地震動の規模,海底地形により異なると考えられる.そのため,タービダイトを用いた地震履歴推定のためには,海域毎での堆積構造・物性・化学組成などの情報の集積と特徴の抽出が重要となる.本研究では,南海トラフ熊野沖より得られた細粒タービダイトを対象とし,各種測定を通じて得られた特徴及び各タービダイトの堆積年代と既知の地震発生年代との関係について議論した.

 使用したサンプルは熊野沖より採取されたマルチプルコアおよびピストンコア試料である.試料に対しては,肉眼観察,X線CT画像による内部構造解析,平均CT値の算出,岩石・古地磁気測定,粒度分析,XRFコアスキャナーITRAXを用いた非破壊化学組成分析を行った.各層の年代決定は,有孔虫の放射性炭素年代測定と火山灰層の同定に基づき行った.本発表では化学的特徴を中心に報告する.

 熊野沖の細粒タービダイトに見られた第1の特徴は,Mnの変動である.McHugh et al.(2016)ではタービダイト直下でMnに鋭い正のピークが見られており, これは,タービダイトの直下に酸化還元境界が移動したためであると考えられている.一方で本研究ではMcHugh et al. (2016)とは異なる傾向が認められた.すなわち,Mnはタービダイト直下の泥層で最小値を示し,タービダイトの基底から増加し始める.Mnの増加はCT画像上でやや明度が高い区間のトップまで続き,その上位の暗色層では次のタービダイト基底まで上方へMnは減少する.これは,タービダイトが発生し堆積すると,それより下位の層では海底面と隔離され還元的な状態となりMnが減少,その一方で,タービダイト上面は海水と接する時間が長く酸化的となったためという可能性が考えられる.

第2の特徴は,CaとFeの変動である.下位から上位にかけて,CT値が低く化学組成ではFeの正のピークを示す粗粒シルト層(以下KTa),CT値が高く化学組成ではCa,Srの正のピークを示すシルト層(以下KTb),生物擾乱を受けた粘土層あるいは無構造の粘土層から構成される.X線CT画像上ではKTbが基底層のように見えるが,実際にはKTaが基底層であることが各種分析結果との対比の結果明らかになった.細粒タービダイトの認定にはX線CTスキャナーの利用は有用であるが,基底層を見誤る可能性が示され,真の基底層の推定にXRFコアスキャナーが有効であることが示された.タービダイトの堆積年代と既知の地震発生年代については浅部では概ね対応しており,試料には地震履歴が欠けずに記録されている可能性が示された.