JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS20] 大気電気学:雷放電及び関連物理現象

コンビーナ:芳原 容英(電気通信大学 大学院情報理工学研究科)

[MIS20-09] 雷活動に由来するガンマ線の観測プロジェクト:モニタリングポストを組み合わせたロングバーストの長距離追跡

*辻 結菜1中澤 知洋1久富 章平1Alexia Fabiani1榎戸 輝揚2和田 有希2,3 湯浅 考行4古田 禄大5土屋 晴文5楳本 大悟6篠田 太郎7加藤 雅也7 (1.名大理、2.理研、3.東大理、4.民間企業、5.原子力機構、6.神戸大、7.名大ISEE)

キーワード:高エネルギー大気物理学、ガンマ線、雷雲

冬季の日本海沿岸部ではMeVガンマ線を放出する雷活動が観測されてきた。このガンマ線は雷雲中の静電場で加速された電子による制動放射が起源と考えられており、宇宙の粒子加速においてもほとんど観測されていない静電場加速が関わる貴重な現象である。中でも、ロングバーストと呼ばれる現象は雷雲そのものから数分に渡ってガンマ線が観測されるもので、その加速器が雲中のどこにあり、電子の増幅率がどのくらいか、そして何分間、あるは何kmにわたって安定して存在するかなど、基本的な情報がわかっていない。

 我々は2006年からGROWTH実験として冬季日本海沿岸部に検出器を設置し、雷雲ガンマ線観測を行なってきた。特に新潟県柏崎刈羽原子力発電所の敷地内に設置した2014年度の観測では、5ヶ月の観測で6個ものロングバーストが検出された。これは例年の~6倍に相当する。これらのロングバーストは、GROWTH検出器に加えて原発内のモニタリングポストでも観測された。これにより、その照射領域は概ね直径1 kmほどで、照射空間は単純な一山でないことが確認され、複数の加速器が同時に存在していたことが示唆された [楳本博士論文 2017, Umemoto et al. 2019 in prep.]。

 本研究ではこれらのロングバーストをより大きなスケールで追跡するために、原発外の~5 km ほどに広がる、新潟県の8つのモニタリングポストを用いた解析を行った。2014/12/2、12/30、そして2015/1/25にGROWTHで検出された3つのロングバーストが、風下に位置する2-3箇所のモニタリングポストでも検出されていたことを確認した。これは気象庁の雨雲レーダーを解析して得られた雷雲の移動と一致する方向と時間差で観測されており、ロングバーストの加速器が 10 m/sから24 m/sの西風に乗って移動したと考えられる。

 2014/12/30のロングバーストでは、GROWTH検出器とそこから4 km離れたモニタリングポストでの検出時刻から、同一の加速器による放射を見ていたと思われる。この時の放射の継続時間はおよそ9分半であった。これは過去に平野部で鳥居ら(2011)によって観測されたロングバースト追跡の最長時間に匹敵し、移動距離では3倍に相当する。

 空間分布に着目すると、GROWTHと原発モニタリングポストの結果を付き合わせることで、2014/12/2と2015/1/25のロングバーストでは複数の加速器が存在する可能性がすでに示唆されているが[Umemoto et al. 2019 in prep.]、本研究では観測点がまばらすぎてこの点の検証は難しい。しかし、風向き垂直方向の放射強度のプロファイルを(非常にまばらながら)見てみると、やはり加速器が一つでなく複数のピークを持つか、あるいは大きく時間変動をしていることが強く示唆される結果を得た。また12/2のイベントでは、4 km風下でも検出されていることを確認しており、4-5 km に渡って加速器が存在し続けることがここでも確認された。