JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS24] 山の科学

コンビーナ:鈴木 啓助(信州大学山の環境研究センター)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、奈良間 千之(新潟大学理学部理学科)

[MIS24-P07] 立山西斜面における定点カメラ画像を用いた残雪分布の高解像度予測モデルの開発

*井手 玲子1岡本 遼太郎2小熊 宏之1島田 亙3青木 一真3 (1.国立研究開発法人 国立環境研究所、2.筑波大学、3.富山大学)

キーワード:画像解析、積雪判別、微地形、ランダムフォレスト、Degree-day法

厳しい環境条件に適応した高山生態系は気候変動に対して最も脆弱な系である(IPCC, 2007)。多雪を特徴とする日本の高山帯においては、積雪や消雪時期が生物の活動時期を決定する重要な要因となるが、季節風と地形の影響により残雪が複雑に分布し、それを反映して高山植物が数m~数10mのオーダーで多様な群落を形成している。そのため、将来的な気候変動下での高山生態系への影響を考える際、消雪時期を高解像度で予測することが求められている。しかしながら、山岳域では気象観測が困難であり、消雪の時間的空間的な変動には不明な点が多い。日本全国を対象とした現在の力学的気候モデルでは2㎞の空間解像度が限界である。そこで、国立環境研究所では高頻度かつ高解像度で高山帯の積雪・消雪と植生の長期モニタリングを行うため、2011年から山小屋などに自動撮影カメラを設置し、現在、国内29地点で定点観測を実施している。本研究では、定点カメラの画像解析をもとに、残雪の時空間分布を高解像度で予測するモデルの構築を目的とした。

解析対象地は、北アルプスの立山室堂山荘(富山県中新川郡立山町)から撮影した立山連峰の西斜面、標高約2400~3000mの約1.8㎞四方の範囲である。2015-2017年の5-8月の毎日1時間毎に一眼レフカメラで撮影したJpeg形式2100万画素の画像約2000枚を用いた。画像から各画素の赤緑青(RGB)の値を自動的に読み込み、グレースケールの強度を元にした統計的方法により積雪の有無を判別して二値化した。次に、その積雪の時系列変化から消雪日を特定し消雪日マップとして表現した。さらにデジタル標高地形図(5mDEM,国土地理院)上に投影変換(オルソ化)することにより5mメッシュのオルソ消雪日マップを作成した。

10年以上の定点観測の結果、高山帯における残雪の空間分布は、季節風による積雪の再配分の影響で微地形に依存して毎年ほぼ同じパターンを示すことが判明した。一方、消雪速度は年ごとの気象条件によって大きく変動した。そこで、消雪の空間分布は地形因子との関係から、消雪速度は気象因子との関係から回帰分析を行った。その結果、残雪分布は10-500mのさまざまなスケールで平滑化した傾斜角や曲率などの微地形因子をパラメータとした機械学習(ランダムフォレスト)により良く再現された。一方、消雪速度は現地調査による4月の積雪深(富山大学調査)と積算気温とを説明変数とした重回帰分析により説明することができた。これらを統合した統計モデルにより立山西斜面の残雪分布を5m解像度、1日ステップで推定し、高空間分解能の衛星観測画像と比較検証を行った結果、高精度で一致することが示された。

本モデルにより、高山帯における消雪の時空間分布が明らかになり、任意の年の積雪深と日平均気温から残雪分布を高解像度で高精度に予測することが可能になった。今回は定点カメラの不可視域に関してはモデル構築ができなかったが、今後、衛星画像の利用や他地点での同様の解析により広域での応用を目指したい。さらに植生図や将来気候に対応させることによって、気候変動による消雪時期の変化と生態系に対する影響評価に期待できる。