JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS26] 地震・火山等の地殻活動に伴う地圏・大気圏・電離圏電磁現象

コンビーナ:児玉 哲哉(宇宙航空研究開発機構研究開発部門第一研究ユニット)、長尾 年恭(東海大学海洋研究所)

[MIS26-04] 地震前のTEC上昇の統計的評価

*久田 智也1唐鎌 元気2生田 領野3 (1.国立大学法人静岡大学大学院総合科学技術研究科、2.名古屋大学院、3.静岡大学理学部)

キーワード:電離圏、地震、先行現象

本研究では、Heki [2011]で地震の先行現象として報告された電離圏総電子数(TEC)の増加について、確率論的な検証を行った。

Heki [2011]では、2011年東北沖地震発生の約40分前に震源域周辺でTECが上昇したことを報告しており、その後のHeki and Enomoto [2015]では、地震前のTECの時系列にAICを適用して、上昇が起こった時刻と増加率を評価した。また、増加率の閾値(3TECU/h以上の絶対的上昇かつ75%以上の相対的上昇)を超えるTECの変化は、稀にしか起こらないことを示し、5つの巨大地震の前に検出されたTECの上昇が偶発的に一致したのではなく、地震の先行現象である可能性を強く示唆した。

我々は、61日間の平時のTECの観測値から、Heki and Enomoto [2015]が設定した閾値を上回るTECの上昇が、本当にまれにしか起こらない現象かどうかを、対象とする衛星を変えて検討した。TEC変動の時系列は衛星毎にその形状が異なるため、閾値を超えるTECの上昇を観測する回数や時刻も衛星毎に異なる。そこで先行研究から、観測に用いる衛星の数と観測期間を変えて、閾値を上回るTECの上昇の発生頻度を比較した。先行研究では地震の前後計21日間について1つの衛星(15番衛星)のみで頻度を算出し、計84時間で7回のTECの上昇が検出された。本研究では地震の前後計61日間について、先行研究と同じGEONET観測点(ID:3009)から、視野に入る全ての衛星を対象として頻度を算出した.その結果、仰角マスク25°、計305時間では201回のTECの上昇が検出された.先行研究では現象の発生率は1時間あたり0.08回であったのに対し、本研究では0.66回となった.Heki and Enomoto [2015]では、調査した巨大地震8つのうち5つで、地震発生90分以内に閾値を上回るTECの上昇が見られたと報告されている.ポアソン過程を仮定すると、先行研究の84時間で7回の検出頻度の事象が、8つの地震のうち少なくとも5つで偶然観測される確率は0.09%であるので、これらの地震の発生と無関係な事象であるとは考えにくい。しかし本研究の305時間で201回の検出頻度を仮定して同様の確率を算出すると●%であり、地震の発生前に偶発的に検出されたとしても不思議ではない。

観測されるTECの上昇の回数は衛星の仰角マスクに依存する。仰角マスクを低くすると視野内の衛星数の増加により現象の検出回数も増加するが、低仰角ではTECの挙動が不安定になるため、より過剰に上昇が検出される。先行研究で採用している衛星の最低高度は20°から25°程度であり、本研究でも25°とした。しかし視野内に存在している衛星の数と、検出されたTECの上昇数を比較すると、37°程度より低い仰角マスクではこの不安定の影響があるようである.よって仰角マスクを37°に設定すると、TECの上昇回数は計305時間で100回であった。この時、8つの地震のうち少なくとも5つの地震で地震発生90分前にTECの上昇が観測される確率は、51.6%となる。やはり5つの巨大地震と、その前のTECの上昇が偶然一致した可能性は否定できない。

閾値を超えるTECの変動は、視野に入る衛星のうちの一つだけで起こっていることが多い(全体の67%)。このため先行研究は、15番衛星以外の多くの衛星で単独で起こっているTECの上昇を見逃したことで発生確率を過小評価する結果となった.





25°=64.5%

37°=14.8%