JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS29] 泥火山×化学合成生態系

コンビーナ:宮嶋 佑典(産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門 地圏微生物研究グループ)、土岐 知弘(琉球大学理学部)、ジェンキンズ ロバート(金沢大学理工研究域地球社会基盤学系)、井尻 暁(国立研究開発法人海洋研究開発機構)

[MIS29-03] 種子島沖海底泥火山群からの深部起源流体の湧出フラックス

*満留 由来1土岐 知弘1倉橋 周吾1井尻 暁2芦 寿一郎3 (1.琉球大学理学部、2.国立研究開発法人海洋研究開発機構、3.東京大学大学院新領域創成科学研究科/大気海洋研究所)

キーワード:泥火山、種子島沖、深部起源流体、湧出フラックス

海底泥火山は高間隙水圧をもった堆積物が泥ダイアピルとして上昇し,海底に噴出した小丘である。泥火山は世界中のプレート収束域や堆積物が厚く堆積しているところに集中しており,日本では南海トラフの熊野海盆や種子島沖において見つかっている。今回の研究フィールドである種子島沖では15個の泥火山の存在が確認されており,そのうち2つの泥火山から採取した間隙水の化学組成を調べて起源温度,水の起源,水の定量的な移流速度などを明らかにすることを,本研究では目的としている。それらを過去の種子島泥火山のデータと比較して評価した。
 2019年8月9日から18日にかけて白鳳丸を用いて種子島沖の海底泥火山2ヵ所(MV2及びMV3)から表層堆積物(<5 m)を採取した。採取した堆積物から間隙水を抽出し,船上でpH及びNH4+濃度を測定した。陸上ではアニオン,カチオン,δ18OH2O及びδDH2Oを測定した。
 採取した間隙水のプロファイルでは,いずれの泥火山のCl濃度も深くなるごとに低くなっていた。SO42−濃度は海底面直下では海水と同程度であったが,60 cmbsfまでに1 mM程度まで著しく減少していた。Li濃度はいずれの泥火山においても海水よりもはるかに高い値を示した。B濃度はMV2では海水より高い値を示したが,MV3では海水と同程度かそれより少し高い値を示した。MV2におけるδ18OH2Oは海水よりも高い値を示し,δDH2Oは海水よりも低い値を示した。
 化学的に安定なClの濃度が海水よりも低い理由として,Cl濃度の低い流体が海底下深部から上昇してきていることが挙げられる。SO42−濃度が急激に減少したことは,嫌気的メタン酸化で硫酸還元が起きている可能性が示唆される。Cl濃度の深さに対する変化に移流拡散方程式を適用すると,水の移流速度はMV1が1 cm/yr,MV2が5 cm/yr,MV3が21 cm/yr,MV14が2 cm/yrであった。水の同位体比について,δ18OH2O値が海水よりも高く,δDH2O値が海水よりも低いことから,粘土鉱物の脱水起源の水の影響を受けている可能性が示唆される。また,B濃度とLi濃度が海水よりも高いことも,粘土鉱物脱水により粘土鉱物内部のBとLiが排出されたことによると考えられる。Na濃度とLi濃度を使った地質温度計を用いて水の起源温度を見積もり,得られた温度と種子島沖の海底の地温勾配から起源深度を見積もった。起源温度はMV1が235±17℃,MV2が310±3℃,MV3が313±3℃,MV14が119±53℃と見積もられ,起源深度はMV1が4.0±0.3 km,MV2が5.2±0.1 km,MV3が5.2±0.1 km,MV14が2.0±0.9 kmと見積もられた。これらの違いは泥火山の活発度の違いに起因していると考えられる。山体の大きさを比べると,活動度と逆相関している傾向が見られた。このことから,現在活発な泥火山は成長段階にあり,一方山体の大きな泥火山は現在は活動が停滞期にあると考えられる。種子島沖海底泥火山群から湧出する水のフラックス全体を考えたとき,沈み込むプレートから付加体下部に供給される水の約20〜40%に当たり,南海トラフに存在する熊野泥火山群や台湾の泥火山と比べて比較的多いことが明らかとなった。
 起源深度や移流速度,山体の大きさは各泥火山ごとにばらつきがあることが明らかとなった。泥火山群から排出される水のフラックスの見積もりから,種子島沖泥火山群は付加体下部に存在する水を排出する比較的主要な経路として働いていることが示された。