JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS31] 惑星火山学

コンビーナ:野口 里奈(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所)、諸田 智克(東京大学理学系研究科地球惑星科学専攻)、下司 信夫(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

[MIS31-05] リモートセンシングとしての露頭観測技術と惑星火山への応用

*下司 信夫1 (1.産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

キーワード:露頭観察、火山構造、写真計測

近年の月・惑星探査におけるリモートセンシングデータの蓄積は,露頭スケールでの構造の解析やそれに基づく火山形成史や噴火メカニズムを議論することを可能としつつある.それは,地球上の野外調査による露頭観察と同じ手法を地球外天体に直接応用することが可能となりつつあることを意味する.逆に,地球上の野外調査においても,露頭を観察してその構造を読み取る野外調査の手法は,露頭から一定の距離離れた視点から可視光の映像を観察するという点においてある種のリモートセンシングであり,そのような視点から調査手法や対象を再検討することにより,より的確で再検証が可能な野外調査手法を確立することが可能となるだろう.ここでは,地球の陸上火山のフィールドを例に,火山形成史や噴火メカニズムの情報を得るための野外露頭観察の手法や問題点についていくつかの例を紹介し,地球外天体におけるフィールド調査への展開を議論したい.
伊豆諸島の三宅島では西暦2000年の噴火によって山頂部に陥没火口が形成され,その急峻な火口壁には最大標高差500mに及ぶ大露頭が出現した.この火口壁には,過去約1万年間の噴出物が露出しているほか,様々な形状のマグマの貫入構造,あるいは火道断面構造が露出しており,それらの構造を解析することにより火山体の形成史や地下でのマグマの上昇過程,あるいは浅部における火道内でのマグマの破砕や爆発過程を読み取ることができる.しかし,火口壁は60°以上の急傾斜でありもろい未固結な火砕物が広く露出するため極めて不安定で,人間が直接露頭に取り付いて観察することは危険である.また,露出する構造が大規模であることから,露頭の至近距離から観察するだけではその全体像を把握することができない.そのため,これらの構造の解析は,火口縁の複数地点から撮影した多量の写真を照合することによるある種のリモートセンシングによって行われた.複数地点から同一の対象を撮影することにより,三次元的な構造の解析が可能となる.三次元的な構造の復元においては,姿勢とスケールの評価が欠かせない.水平面あるいは垂直面を見出すことにより,露頭画像の姿勢を制御することが可能となる.三宅島の場合,火口底や火口縁近傍に存在するすおう穴などの火口に形成された水たまりの水面を用いて,正確な水平面を定義できる.また,スケールは実際に測定した対象物を用いるのが最も正確であるが,それが困難な場合には距離と角度からスケールを評価した.これらの作業においては,撮影画像のひずみをできるだけ小さくすることが必要である.二次元の可視画像から構造を読み取るにあたり,同一の対象が様々な条件に応じて極めて異なる見かけを呈することがある.そのためには,直接接触して観察できる模式的な露頭における様々な岩相の見かけと,撮影された画像との照合により構成物を把握する必要がある.見かけは異なるが地質学的に同じもの,逆に見かけは似て非なるものの識別は,模式的な露頭の情報をできるだけ蓄積しておく必要がある.月や火星といった,比較的地球と類似した火山活動が期待される天体探査においては,画像が取得されるであろう様々な火山構造について,あらかじめ地球上における模式露頭のデータを蓄積しておくことが重要になるだろう.