[MIS31-P01] 溶岩チューブ形成に関わる地球の溶岩流と月・マリウス丘の溶岩流の検討
キーワード:溶岩チューブ、粘性係数、降伏値、溶岩流、月縦孔
1.はじめに:溶岩チューブ形成に関わる地球の溶岩流と月・マリウス丘の溶岩河川(リル)内を流れた溶岩流の比較を行い,月で想定される溶岩チューブ形成のシナリオと温度を推定することが本検討の目的である。通常のニュートン流体では円管内の流れであれ傾斜面表面重力流であれレイノルズ数(Re)が2000程度を超えると流れは層流から乱流へと遷移する1)。溶岩流はビンガム流体と考えられ,そのビンガム数(B)やヘドストロム数(He)はビンガム性とニュートン性の程度を示し,Heが増大すると層流から乱流への遷移Reが増大することが知られている1,2)。ここでは溶岩流のRe,さらにB,Heに注目して,溶岩チューブ3)形成に関わる溶岩流の検討を行った。
2.地球の溶岩流の検討:表1(a),(b),(c)に三原山1951年溶岩流(SiO2:52-53wt%)4),マウナロア1984年溶岩流(SiO2:52wt%)5),トルバチク2013年溶岩流(SiO2:52wt%)6)における温度,溶岩厚さ,粘性係数,降伏値等のその場測定値を整理したものを示し,それに基づいたRe,さらに降伏値が得られている場合にはB, Heを示す。それぞれは低いレイノルズ数を示し,マウナロアの例では長距離にわたり降伏値が測定されている。流れに沿って温度が低下しそれに伴って粘性係数と降伏値が大幅に増大している。これらの流れは噴出口から下流まですべて層流域にあり,三原山1951溶岩流では三原ホルニトケイブが,マウナロア溶岩流及びトルバチク溶岩流でも溶岩チューブが観察されている。地球上の溶岩チューブは層流域で形成されている。
3.月・マリウス丘の溶岩河川リル-Aの溶岩流の検討:マリウス丘のリル-Aの溶岩流のB,He,Reを知るには溶岩流動厚さ,粘性係数,降伏値,重力加速度,溶岩密度,溶岩流速,傾斜度が必要である。溶岩河川リル-Aにある縦孔下の空洞高さ17mを溶岩流動厚さとし,降伏値131Paを固定値として用いた7)。粘性係数は5Pa.sから16000Pa.sの範囲として流速はビンガム流体の層流として傾斜角度0.31°の傾斜面を自由表面重力流と並行平板間重力流の式8)で計算した。得られたB,Re,Heを表1(d),(e)に示す。自由表面重力流では粘性係数100Pa.sで遷移域にあり,3000Pa.sで層流を示し、並行平板間重力流では100Pa.sで層流を示している。温度の関数としての月の溶岩の粘性係数は様々な化学組成の溶岩についてChevrel (2014)9)にまとめられている。マリウス丘の溶岩化学組成が不明なので明確なことは言えないが,100Pa.s~3000Pa.sはCukierman (1973) 10)のFig.3の高チタン成分の溶岩(試料15555)として判断すると表1(d)(e)に示すように溶岩温度1050-1000℃に対応している。低チタン成分の溶岩(試料68502)であればもっと高い溶岩温度1200-1100℃に対応する。溶岩チューブは流れが乱流では攪乱されチューブ天井となるクラストは形成されにくいと考えられるので、高温時は乱流であっても、流れに沿って冷却後低温になり層流となり溶岩チューブを形成するシナリオが妥当と考えられる。
4.まとめ:噴出孔近傍で乱流であれば層流への遷移後,溶岩チューブが形成される。溶岩チューブ形成推定温度は,溶岩の化学組成にもよるが1000-1200℃程度である可能性がある。今後の課題としては,温度の関数としての月の溶岩の化学組成に基づいた粘性係数,降伏値の合成試料実験データ等の蓄積・整理(粘性係数と降伏値の温度変化に対する同時計測例としてIshibashi(2010)11)によるFuji1707溶岩がある)が必要である。
参考文献:
1)岐美格,他:日本原子力学会誌, Vol.7, No.11, 1965,627-633
2)G.Hulme:Geophysical Surveys 5 (1982) 245-279
3)T.Kaku et al:Geophysical Research Letters 44.20 (2017): 10-155. DOI:10.1002/2017GL074998
4)T.Minakami:東大地震研彙報, Vol.29,pp.487-493,1951
5)H.J.Moore:Volcanism in Hawaii,Chapt 58: USGS Professional Paper1350(1987)
6)A.Belousov et al:Bulletin of Volcanology (January 2018) 80(1) https://doi.org/10.1007/s00445-017-1180-2
7)本多力:SVC50-05,第61回地球惑星科学連合大会,2017
8)本多力:1B11,宇宙科学技術連合講演会講演集,2017
9)M.Chevrel et al:Geochimica.Cosmochimica Acta 124,(2014), 348-365
10)M.Cukierman et al:Geochimica.Cosmochimica Acta 3,(1973) 2685–2696.
11)H.Ishibashi et al:J.Mineralogical&Petrological Science 105,(2010) 334-339.
2.地球の溶岩流の検討:表1(a),(b),(c)に三原山1951年溶岩流(SiO2:52-53wt%)4),マウナロア1984年溶岩流(SiO2:52wt%)5),トルバチク2013年溶岩流(SiO2:52wt%)6)における温度,溶岩厚さ,粘性係数,降伏値等のその場測定値を整理したものを示し,それに基づいたRe,さらに降伏値が得られている場合にはB, Heを示す。それぞれは低いレイノルズ数を示し,マウナロアの例では長距離にわたり降伏値が測定されている。流れに沿って温度が低下しそれに伴って粘性係数と降伏値が大幅に増大している。これらの流れは噴出口から下流まですべて層流域にあり,三原山1951溶岩流では三原ホルニトケイブが,マウナロア溶岩流及びトルバチク溶岩流でも溶岩チューブが観察されている。地球上の溶岩チューブは層流域で形成されている。
3.月・マリウス丘の溶岩河川リル-Aの溶岩流の検討:マリウス丘のリル-Aの溶岩流のB,He,Reを知るには溶岩流動厚さ,粘性係数,降伏値,重力加速度,溶岩密度,溶岩流速,傾斜度が必要である。溶岩河川リル-Aにある縦孔下の空洞高さ17mを溶岩流動厚さとし,降伏値131Paを固定値として用いた7)。粘性係数は5Pa.sから16000Pa.sの範囲として流速はビンガム流体の層流として傾斜角度0.31°の傾斜面を自由表面重力流と並行平板間重力流の式8)で計算した。得られたB,Re,Heを表1(d),(e)に示す。自由表面重力流では粘性係数100Pa.sで遷移域にあり,3000Pa.sで層流を示し、並行平板間重力流では100Pa.sで層流を示している。温度の関数としての月の溶岩の粘性係数は様々な化学組成の溶岩についてChevrel (2014)9)にまとめられている。マリウス丘の溶岩化学組成が不明なので明確なことは言えないが,100Pa.s~3000Pa.sはCukierman (1973) 10)のFig.3の高チタン成分の溶岩(試料15555)として判断すると表1(d)(e)に示すように溶岩温度1050-1000℃に対応している。低チタン成分の溶岩(試料68502)であればもっと高い溶岩温度1200-1100℃に対応する。溶岩チューブは流れが乱流では攪乱されチューブ天井となるクラストは形成されにくいと考えられるので、高温時は乱流であっても、流れに沿って冷却後低温になり層流となり溶岩チューブを形成するシナリオが妥当と考えられる。
4.まとめ:噴出孔近傍で乱流であれば層流への遷移後,溶岩チューブが形成される。溶岩チューブ形成推定温度は,溶岩の化学組成にもよるが1000-1200℃程度である可能性がある。今後の課題としては,温度の関数としての月の溶岩の化学組成に基づいた粘性係数,降伏値の合成試料実験データ等の蓄積・整理(粘性係数と降伏値の温度変化に対する同時計測例としてIshibashi(2010)11)によるFuji1707溶岩がある)が必要である。
参考文献:
1)岐美格,他:日本原子力学会誌, Vol.7, No.11, 1965,627-633
2)G.Hulme:Geophysical Surveys 5 (1982) 245-279
3)T.Kaku et al:Geophysical Research Letters 44.20 (2017): 10-155. DOI:10.1002/2017GL074998
4)T.Minakami:東大地震研彙報, Vol.29,pp.487-493,1951
5)H.J.Moore:Volcanism in Hawaii,Chapt 58: USGS Professional Paper1350(1987)
6)A.Belousov et al:Bulletin of Volcanology (January 2018) 80(1) https://doi.org/10.1007/s00445-017-1180-2
7)本多力:SVC50-05,第61回地球惑星科学連合大会,2017
8)本多力:1B11,宇宙科学技術連合講演会講演集,2017
9)M.Chevrel et al:Geochimica.Cosmochimica Acta 124,(2014), 348-365
10)M.Cukierman et al:Geochimica.Cosmochimica Acta 3,(1973) 2685–2696.
11)H.Ishibashi et al:J.Mineralogical&Petrological Science 105,(2010) 334-339.