[O05-P46] 1989年手石海丘噴火から30年
キーワード:ジオパーク、火山災害
1.はじめに
1989年7月13日、伊東市の沖合で海底噴火が発生し、水深約80mに手石海丘が生じた。今年2019年は伊東沖海底噴火から30年である。災害の集団記憶は20~30年程度でその多くが失われてしまうとされている。特にこの噴火は海底で発生したため、災害遺構のような「記憶の場」は残されておらず、また、幸いにも直接の犠牲者がいなかったため、地域としての集団記憶の維持がより困難な災害でもある。
手石海丘を含む伊豆東部火山群は伊豆半島ジオパークにおける重要な資産でもあり、正しい知識を地域の方に持ってもらったうえで適切に活用していく必要がある。本発表では、噴火30年にあたり伊豆半島ジオパークとして行った各種の取り組みについて報告する。
2.ROVによる手石海丘の映像撮影
伊豆半島ジオパークでは、エリア全体を対象に案内を行う「ジオガイド」のほか、エリアやアクティビティを限定した「準ジオガイド」という制度を運用している。こうした取り組みの中、準ジオガイドの団体として、ダイビングなどのアクティビティ事業者による「伊豆半島ジオマリンクラブ」が組織された。
本クラブ現会長の大西敏郎氏(アクアティック・プロ代表)の提案で、大西氏所有のROV(Remotely Operated Vehicle)による手石海丘の水中映像撮影を行うことができた。ROVによる調査は2019年7月9日に実施した。ROVは1986年製の機体を大西氏が独自に改良したもので、360度カメラからのライブ映像を確認しながらの潜航が可能である。
大西氏の操縦で約1時間の潜航を行い、手石海丘の南西壁~最深部付近にかけての映像の撮影に成功した。火口底は噴火終了後の堆積物に覆われていたが、火口壁付近や外側斜面では噴火によって露出した岩石や噴火によって飛散したと思われる礫が確認できた。噴気や高温水などによるゆらぎなどは確認されなかった。また、ROVに設置した簡易的な試料採取装置により、火口内の堆積物を少量ではあるが採取することもできた。
3.シンポジウムの実施
2019年7月19日に災害記憶の継承等を目的とし、海底噴火を経験した科学者や地域住民による一般向けの講演会・パネルディスカッションを伊東沖海底噴火30周年シンポジウムとして行った。
シンポジウム前半の講演会では、小山真人氏(静岡大学防災総合センター)と山岡耕春氏(名古屋大学大学院環境学研究科)に登壇いただき、30年前の噴火の科学的な解説をしていただいた。続くパネルディスカッションでは、講演を行った2名に、岩田孝仁氏(静岡大学防災総合センター:当時静岡県地震対策課)、高田充朗氏(いとう漁業協同組合組合長)、須賀潮美氏(水中レポーター)の3名を加えた5名で、噴火当時の状況を振り返るとともに、今後の火山防災や火山を抱える地域の姿についてディスカッションを行った。
シンポジウム開場では、前述したROVによる水中映像や、地元企業である株式会社ウインディーネットワークが実施した手石海丘の測量結果、ガイド団体による伊豆東部火山群を楽しむツアー紹介、行政による火山防災等に関する展示も行われた。
シンポジウムには370名が参加し、107件のアンケートを回収した。アンケート回答者の約80%が噴火のあった伊東市内からの参加で、そのうち約55%が1989年の噴火を体験したと回答した。
5.おわりに
これらの取り組みは、伊豆半島ジオパーク推進協議会だけでなく、ジオパーク内で活動するガイドや企業等の多くの協力によって成立している。ジオパークでは、自然環境や露頭等の「モノ」の保全だけでなく、そこで起こった無形の「コト」の保全もまた重要である。災害記憶もそうした「コト」のひとつであり、様々な方法で保全を進めて行く必要がある。
1989年7月13日、伊東市の沖合で海底噴火が発生し、水深約80mに手石海丘が生じた。今年2019年は伊東沖海底噴火から30年である。災害の集団記憶は20~30年程度でその多くが失われてしまうとされている。特にこの噴火は海底で発生したため、災害遺構のような「記憶の場」は残されておらず、また、幸いにも直接の犠牲者がいなかったため、地域としての集団記憶の維持がより困難な災害でもある。
手石海丘を含む伊豆東部火山群は伊豆半島ジオパークにおける重要な資産でもあり、正しい知識を地域の方に持ってもらったうえで適切に活用していく必要がある。本発表では、噴火30年にあたり伊豆半島ジオパークとして行った各種の取り組みについて報告する。
2.ROVによる手石海丘の映像撮影
伊豆半島ジオパークでは、エリア全体を対象に案内を行う「ジオガイド」のほか、エリアやアクティビティを限定した「準ジオガイド」という制度を運用している。こうした取り組みの中、準ジオガイドの団体として、ダイビングなどのアクティビティ事業者による「伊豆半島ジオマリンクラブ」が組織された。
本クラブ現会長の大西敏郎氏(アクアティック・プロ代表)の提案で、大西氏所有のROV(Remotely Operated Vehicle)による手石海丘の水中映像撮影を行うことができた。ROVによる調査は2019年7月9日に実施した。ROVは1986年製の機体を大西氏が独自に改良したもので、360度カメラからのライブ映像を確認しながらの潜航が可能である。
大西氏の操縦で約1時間の潜航を行い、手石海丘の南西壁~最深部付近にかけての映像の撮影に成功した。火口底は噴火終了後の堆積物に覆われていたが、火口壁付近や外側斜面では噴火によって露出した岩石や噴火によって飛散したと思われる礫が確認できた。噴気や高温水などによるゆらぎなどは確認されなかった。また、ROVに設置した簡易的な試料採取装置により、火口内の堆積物を少量ではあるが採取することもできた。
3.シンポジウムの実施
2019年7月19日に災害記憶の継承等を目的とし、海底噴火を経験した科学者や地域住民による一般向けの講演会・パネルディスカッションを伊東沖海底噴火30周年シンポジウムとして行った。
シンポジウム前半の講演会では、小山真人氏(静岡大学防災総合センター)と山岡耕春氏(名古屋大学大学院環境学研究科)に登壇いただき、30年前の噴火の科学的な解説をしていただいた。続くパネルディスカッションでは、講演を行った2名に、岩田孝仁氏(静岡大学防災総合センター:当時静岡県地震対策課)、高田充朗氏(いとう漁業協同組合組合長)、須賀潮美氏(水中レポーター)の3名を加えた5名で、噴火当時の状況を振り返るとともに、今後の火山防災や火山を抱える地域の姿についてディスカッションを行った。
シンポジウム開場では、前述したROVによる水中映像や、地元企業である株式会社ウインディーネットワークが実施した手石海丘の測量結果、ガイド団体による伊豆東部火山群を楽しむツアー紹介、行政による火山防災等に関する展示も行われた。
シンポジウムには370名が参加し、107件のアンケートを回収した。アンケート回答者の約80%が噴火のあった伊東市内からの参加で、そのうち約55%が1989年の噴火を体験したと回答した。
5.おわりに
これらの取り組みは、伊豆半島ジオパーク推進協議会だけでなく、ジオパーク内で活動するガイドや企業等の多くの協力によって成立している。ジオパークでは、自然環境や露頭等の「モノ」の保全だけでなく、そこで起こった無形の「コト」の保全もまた重要である。災害記憶もそうした「コト」のひとつであり、様々な方法で保全を進めて行く必要がある。