JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG24] 宇宙・惑星探査の将来計画および関連する機器開発の展望

コンビーナ:吉岡 和夫(東京大学大学院新領域創成科学研究科)、笠原 慧(東京大学)、小川 和律(宇宙航空研究開発機構)、尾崎 光紀(金沢大学理工研究域電子情報学系)

[PCG24-11] レーザー抽出法を用いた宇宙線照射年代のその場観測手法の開発

*山本 直輝1長 勇一郎2小倉 暁乃丞1湯本 航生2三浦 弥生3 (1.東京大学理学部地球惑星物理学科、2.東京大学理学系研究科地球惑星科学専攻、3.東京大学地震研究所)

キーワード:惑星科学、宇宙線照射年代、レーザー誘起プラズマ発光分光法、四重極質量分析計

火星の様に大気が薄く固有磁場が存在しない惑星では, 地表にある生命の痕跡や有機物は宇宙線や紫外線により分解されてしまう. そのため, 着陸探査で生命の痕跡や有機物を調査するのに適した場所は, それらが埋没し宇宙線等から保護され, 地形変化によって最近表面に露出したような場所である. しかし, ある地点の露出した年代はカメラによる観察では評価できない. そこで用いられるのが岩石の示す宇宙線照射年代である. 将来のサンプルリターン探査に適した試料の発見にも, 宇宙線照射年代のその場観測技術が役立つ.

 NASAの火星探査機Curiosityではドリルで採取した粉末試料対してカリウム・アルゴン年代と宇宙線照射年代を計測した(Farley et al, 2014). しかし, この方法では, 試料の不均質に由来する年代値の不確定性や, 加熱温度・時間が不十分なことにより希ガスが完全に抽出できていない可能性が指摘されている(Vasconcelos et al, 2016). また, ドリルによる岩石の掘削の難しさや, オーブンを高温で長時間保つことによる大きな消費電力といった探査機運用上の問題もあった.

 これらの問題点を解決するために, 我々はLIBS (Laser-Induced Breakdown Spectroscopy)による主要元素分析とレーザー掘削によって抽出された宇宙線生成希ガスのQMS (Quadrupole Mass Spectrometer)による分析を組み合わせる手法を新たに開発する. この手法は, LIBSによって照射点ごとに得られる元素組成から宇宙線照射起源核種の生成率を決定し, その照射点から抽出される希ガスを分析する. そのため試料の不均質に左右されずに宇宙線照射年代が求められると期待できる. 本研究では, 隕石中のごく微量(~10-15 mol)の宇宙線生成希ガスの検出可能性を調査した. また, 抽出された希ガスの濃度から宇宙線照射年代を算出し, 既知の値と比較して確度・精度を検討した.

 LIBS-QMSによる宇宙線照射年代測定の具体的な方法は以下の通りである. (1)Camel Donga隕石に波長266 nm, 20 mJのパルスレーザーを5000回照射した. (2) 放出された希ガスをQMSで分析, ブランク補正, 同じ質量電荷比を持つイオンの補正の後, 希ガスの絶対量を測定, (3)照射後の穴の体積を顕微鏡で測定し, 一様な密度を仮定して質量に変換した. (2), (3)で得られた値、および文献(Eugster and Michel, 1995)による宇宙線照射起源核種の生成率を用いて宇宙線照射年代を計算した. 信号/ブランク比は小さい(< 5)が10-16 mol程度の希ガスが検出された. 測定された同位体比をもとに捕獲起源(おそらく地球大気)成分の寄与を補正して宇宙線照射起源3He, 21Ne, 38Ar量を求めた.
 予察的結果では, 22Ne/21Neを平均的な1.14と仮定すると, 3Heが示す宇宙線照射年代T3は148 ± 8 Ma, 21Neが示す年代T21は21.8 ± 7.0 Ma , 38Arが示す年代T38は60.4 ± 91.7 Ma が得られた. 希ガス同位体比は38Ar/36Ar = 1.13 ± 0.07であり, 宇宙線起源の値1.55に近く, 観測された38Arは宇宙線起源と考えられる. T21, T38は既知の年代と整合的であるが, T3は数億年程度古い年代を示す. これは隕石から放出された妨害イオンHD+の干渉による寄与が大きいためである. 正確なT3を得るには, HD+を, QMS導入口にゲッターを追加することでさらに除去する必要があることが分かった. Camel Donga隕石では22Ne/21Ne=1.14という仮定の下ではT21が, そうでない場合はT38が最も信頼性の高いことがわかった. 以上の結果は, 本手法によって宇宙線照射年代を計測することが可能であることを示唆する.

参考文献
Farley, K. A., et al. (2014) 343 , 1247166
Miura Y. N., et al (1998) G. C. A. 62, 2369-2387
Vasconcelos P. M., et al (2016) J. Geophys. Res. Planets, 121, 2176-2192