[PCG25-04] 積雲対流スキームの差異による古⽕星降⽔分布への影響
キーワード:火星古気候、積雲対流、降水過程
現在の火星地表面には、バレーネットワークやアウトフローチャネルなどの流水地形が多く残されており、過去の火星は液体の水が存在できるほど暖かく湿った気候だったと考えられている。しかし、過去の火星は現在よりも太陽フラックスが25%ほど弱く、この暖かく湿った気候を維持することは困難だったと考えられる。一方で、この時期には火山の噴火や隕石の衝突などによる一時的な昇温や、これらのイベントで起こるH2やCH4, SO2などの温室効果分子の脱ガスによる昇温があった可能性が示唆されている。このように過去火星において様々な可能性が示唆される中で、過去火星の流水地形形成には大きく二つのシナリオが存在する。一つはcold and icyシナリオである。これはこの時期の火星は地表面が氷点以下の温度であり、南部高地などに雪が堆積し、この雪が季節的、または一時的な昇温イベントによって融解し、流水地形を形成したというものである。もう一つはwarm and wetシナリオであり、これはこの時期の火星は地表面が氷点以上の温度であり、降水によって流水地形が形成されたというものである。これらのアプローチの中で、我々は二つの中間の立場としてcool and wetシナリオを提唱している[Kamada et al., 2020]。我々はCO2, H2O大気にH2を1~20%混ぜることで、CO2とH2の衝突による誘起吸収により氷点以上の地表面温度を再現し、水文過程によって多くの流水地形を再現した。しかし、我々のモデルにも流水地形が一致していない部分がいくつか存在する。この原因として様々なものが考えられる中で、我々は積雲対流スキームの差異による降水・雲・水蒸気分布の違いに注目した。
積雲対流スキームとは、対流により対流不安定状態を解消し、水蒸気が多く含まれる場合は、雲や降水を発生させるスキームである。積雲対流スキームにはそれぞれに特徴があり、今回は地球GCMで広範に利用されるRelaxed Arakawa-Schubertスキーム(RAS)と気象庁などでも利用されるKain-Fritschスキーム(KF)の二つを利用する。RASは、低分解能向けのスキームであり、デトレインメントを全高度で計算しない分、計算を簡単化している。KFは、中・高分解能向けのスキームであり、デトレインメントを全高度で計算するため、計算資源は多く使うが、分解能が上がることで精度良く計算できる。また両スキームでは対流の発生条件や、1グリッドで考慮する積雲の数なども異なり、これらの違いが降水・雲・水蒸気分布の違いを引き起こすと考えられる。
KFスキームの動作確認の意図を含む、地球版GCM T21L20の結果では、KFにおいてRASよりもsigma=0.8付近の高度で雲量が約1.5倍多くなる結果が得られた。これはスキーム毎のデトレインメントの特性による差異だと考えられる。またKFでは分解能が充分ではなく、鉛直輸送が大きく表現できていないと考えられる。降水分布においても両スキーム間で異なる分布となったが、分解能の向上によりこの差異は縮まる結果が得られた。
これらの結果を基に両スキームをPMGCM(0.5, 1, 1.5, 2.0bar、H2 0, 3, 6%、海あり)に適用した結果、温度、降水量にはほとんど差異が見られなかったが、条件毎に雲量や降水分布の傾向が異なり、ある条件ではKFにおける低緯度帯の降水量がRASの降水量よりも多くなるという結果が得られた。
KFにおける低緯度帯での降水量がRASの降水量よりも多い条件(1.0bar H2 6%, 2.0bar H2 3%)では、VNの形成年数を1.2~2.0倍早くすることが可能であると考えられる。これはKFの特徴である全高度でのデトレインメントにより、RASよりも海からの水平方向の水蒸気輸送が多くなったことで、北半球から赤道帯にかけてKFの水蒸気量が多くなったことが原因だと考えられる。またこれにより、Kamada et al. [2020]で述べられている温度が高くなった際に低緯度帯が乾燥し、低緯度帯から高緯度帯に降水領域が変化する現象においても、RASよりも乾燥が抑えられ、より温度が高い条件でもKFでの低緯度帯の降水が多くなる結果となった。しかしKFの低緯度帯で降水が増加したのは一部領域であり、Kamada et al., [2020]で再現できなかったVNを再現することはできなかった。よってVNの形成という観点においてはPMGCMに適用する際、どちらのスキームでも同じ結果を得ることができると考えられる。
積雲対流スキームとは、対流により対流不安定状態を解消し、水蒸気が多く含まれる場合は、雲や降水を発生させるスキームである。積雲対流スキームにはそれぞれに特徴があり、今回は地球GCMで広範に利用されるRelaxed Arakawa-Schubertスキーム(RAS)と気象庁などでも利用されるKain-Fritschスキーム(KF)の二つを利用する。RASは、低分解能向けのスキームであり、デトレインメントを全高度で計算しない分、計算を簡単化している。KFは、中・高分解能向けのスキームであり、デトレインメントを全高度で計算するため、計算資源は多く使うが、分解能が上がることで精度良く計算できる。また両スキームでは対流の発生条件や、1グリッドで考慮する積雲の数なども異なり、これらの違いが降水・雲・水蒸気分布の違いを引き起こすと考えられる。
KFスキームの動作確認の意図を含む、地球版GCM T21L20の結果では、KFにおいてRASよりもsigma=0.8付近の高度で雲量が約1.5倍多くなる結果が得られた。これはスキーム毎のデトレインメントの特性による差異だと考えられる。またKFでは分解能が充分ではなく、鉛直輸送が大きく表現できていないと考えられる。降水分布においても両スキーム間で異なる分布となったが、分解能の向上によりこの差異は縮まる結果が得られた。
これらの結果を基に両スキームをPMGCM(0.5, 1, 1.5, 2.0bar、H2 0, 3, 6%、海あり)に適用した結果、温度、降水量にはほとんど差異が見られなかったが、条件毎に雲量や降水分布の傾向が異なり、ある条件ではKFにおける低緯度帯の降水量がRASの降水量よりも多くなるという結果が得られた。
KFにおける低緯度帯での降水量がRASの降水量よりも多い条件(1.0bar H2 6%, 2.0bar H2 3%)では、VNの形成年数を1.2~2.0倍早くすることが可能であると考えられる。これはKFの特徴である全高度でのデトレインメントにより、RASよりも海からの水平方向の水蒸気輸送が多くなったことで、北半球から赤道帯にかけてKFの水蒸気量が多くなったことが原因だと考えられる。またこれにより、Kamada et al. [2020]で述べられている温度が高くなった際に低緯度帯が乾燥し、低緯度帯から高緯度帯に降水領域が変化する現象においても、RASよりも乾燥が抑えられ、より温度が高い条件でもKFでの低緯度帯の降水が多くなる結果となった。しかしKFの低緯度帯で降水が増加したのは一部領域であり、Kamada et al., [2020]で再現できなかったVNを再現することはできなかった。よってVNの形成という観点においてはPMGCMに適用する際、どちらのスキームでも同じ結果を得ることができると考えられる。