JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM12] 大気圏ー電離圏結合

コンビーナ:Huixin Liu(九州大学理学研究院地球惑星科学専攻 九州大学宙空環境研究センター)、大塚 雄一(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、Yue Deng(University of Texas at Arlington)、Loren Chang(Institute of Space Science, National Central University)

[PEM12-P34] テラヘルツによる成層圏、中間圏、下部熱圏観測衛星SMILES-2の検討状況

*落合 啓1Baron Philippe1入交 芳久1川上 彰1西堀 俊幸2鈴木 睦2鵜澤 佳徳3藤井 泰範3前澤 裕之4齊藤 昭則5坂崎 貴俊5塩谷 雅人5 (1.情報通信研究機構、2.宇宙航空研究開発機構、3.国立天文台、4.大阪府立大学、5.京都大学)

キーワード:マイクロ波観測、リムサウンディング、風観測、温度観測、酸素原子、冷凍機

我々の提案する全大気圏衛星観測-超伝導サブミリ波リム放射サウンダ(SMILES-2)は、638 GHz帯、763 GHz帯、2 THz帯のサブミリ波により、成層圏、中間圏、下部熱圏の全大気圏(約20 kmから160 kmの連続した高度範囲)を観測する衛星計画である。酸素、酸素原子、水蒸気、オゾン、中層大気の微量化学物質のサブミリ波リム放射のスペクトルを観測することで、それら分子等の濃度と共に、温度、水平風等を計測することができる。衛星は軌道高度550 km、軌道傾斜角66度を予定している。これにより、リム観測では緯度80度までの大気を計測することができ、太陽非同期の軌道であるため、観測点のローカルタイムは約3ヶ月で24時間変化するので、1.5ヶ月から3ヶ月の観測で大気の日周変化を得ることができる。高度分解能約2.5 kmの全大気圏高度プロファイルを軌道に沿って約690 kmおきに取得する。周回する衛星から約8分の時間をおいて同じ大気を2回観測することで、風の視線方向成分を2本得て、水平風の風向風速を推定できるようにする。
SMILES-2ではサブミリ波リム放射を受信するのに超伝導ヘテロダイン受信機を使用する。受信機の構成は、2009年に国際宇宙ステーションへ搭載したJEM/SMILESと基本的に同じである。違いは、JEM/SMILESでは637 GHz帯だけであった受信周波数帯が3周波に増えたこと、風向風速を得るためにアンテナを2方向とすること、スペクトル形状を得るための受信機バックエンドの分光計はデジタル化してドップラーシフトの計測誤差を小さくすることなどである。受信周波数帯が増えたことによって、JEM/SMILESよりも、温度と風を計測できる高度範囲と計測精度が大きく改善され、高度分解能2.5 kmの場合の温度と風の受信機雑音による計測誤差は、成層圏では0.2 K (観測下限高度20 km), 3 m/s (40 km)、下部熱圏では40 K (観測上限高度 160 km), 20 m/s (160 km)程度と推定される。大気波動の伝播による大気の上下結合などの研究に必要な計測誤差の観測データを、1回の観測または1日分の緯度平均(15観測の平均)により得ることができる。高感度の超伝導受信機を使用するので、このような計測誤差で得られるのであって、衛星への搭載が容易な半導体ミキサの受信機の場合には受信機雑音が10倍程度になるので、1日分の平均では緯度高度分布も得ることができない。
SMILES-2でもJEM/SMILESと同じように4 K級極低温冷凍機を使用する。宇宙用極低温冷凍機は、地上試験で4年以上の寿命が実証されているので、SMILES-2ミッション部は設計寿命として3年以上を計画している。超伝導ミキサ等を冷却するためのクライオスタットの構造は、基本的にJEM/SMILESでの設計を踏襲することで開発上のリスクを低減する。2 THzの超伝導ミキサ(HEBミキサ)はNICTおよび大阪府立大学において開発しており受信機性能の初期的な結果はすでに得られている。
SMILES-2を実現するために、JAXA宇宙科学研究所の公募型小型計画の規模の衛星に搭載することができるか検討している。ひとつは、ミッションの消費電力が小型衛星の規模で成立するかであり、消費電力の大きい極低温冷凍機の消費電力について検討した。受信機の冷却部が必要とする冷凍能力をJEM/SMILES以下に抑える設計とすることと、最近の冷凍機効率の上昇により、極低温冷凍機の消費電力は運用3年後で159 W程度にできると見込んでいる。SMILES-2の軌道の小型衛星バスでは、軌道が日陰率最大(約37 %)になる期間にミッション部に供給できる電力は323 W程度であるので、ミッション部のその他の機器の消費電力を差し引いても、極低温冷凍機を連続して運転する電力を十分賄うことができると考えている。
また、開発費用を低く抑えることも課題である。太陽非同期軌道の衛星に載せることと超伝導受信機を使用することは変更しないで費用低減策を検討している。サブミリ波受信機の、ローカル発振器やバックエンドを海外等との協力で開発することを前提とすれば、開発費用は公募型小型計画の規模に収まると考えている。公募型小型計画の衛星はイプシロンロケットで打ち上げることを前提としているが、衛星の重量、大きさはその範囲内であることも確認している。
JAXA宇宙科学研究所にて2020年2月に募集している公募型小型計画にSMILES-2を提案している。