JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS09] 惑星科学

コンビーナ:仲内 悠祐(宇宙航空研究開発機構)、嵩 由芙子(会津大学)

[PPS09-18] 「日本のアルテミス計画参加に向けた理学的・工学的検討」報告

*並木 則行1,2稲富 裕光3臼井 英之4諸田 智克5西野 真木3大竹 真紀子3臼井 寛裕3 (1.国立天文台 RISE月惑星探査プロジェクト、2.総合研究大学院大学、3.宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所、4.神戸大学 大学院 システム情報学研究科、5.東京大学理学系研究科地球惑星科学専攻)

キーワード:国際宇宙探査、ゲートウェイ、アルテミス

2019年10月18日の宇宙開発戦略本部では「米国提案による国際宇宙探査への日本の参画方針」を決定し,我が国が国際宇宙探査に積極的に参加することが定められた.この方針においては,当面の協力項目として①第1段階ゲートウェイへの我が国が強みを有する技術・機器の提供,②HTV-X、H3によるゲートウェイへの物資・燃料補給,③着陸地点の選定等に資する月面の各種データや技術の共有,④月面探査を支える移動手段の開発の4点を挙げて「今後の宇宙基本計画の改定に向けた検討において、それ以降の本計画への参画のあり方も含め、我が国の科学探査を含む国際宇宙探査全体のあり方を検討・整理し、翌年以降の宇宙基本計画工程表に反映させる」とある.この方針決定に伴い,太陽系探査の中で月や火星については今後,政策的な意義も含めて国際協力の枠組みで検討,実施される時代が始まろうとしている.それは,宇宙科学アカデミアにとって宇宙科学を推進するたいへん大きな機会である.様々な学界においてはこれまで関連する研究活動が進められて来ているが,このタイミングで「国際宇宙探査への日本の参加」をキーワードとして,より組織的な対応求められるようになる.このような背景を受けて,宇宙科学研究所 国際宇宙探査専門委員会は検討チームを発足して,「国内の理学・工学のコミュニティが国際宇宙探査の活動にどのように参加し,機会を活用するのか」について理学・工学の各分野にとって重要な科学目標や技術課題の観点から議論を行った.その検討結果は「日本のアルテミス計画参加に向けた理学的・工学的検討」報告書として公開され(http://www.isas.jaxa.jp/home/rikou/kokusaitansa/),政府や宇宙機関に発信されている.しかしながら,この検討は短期間で,且つ,限定されたメンバーで行われたため,幅広い関係者の意見を集約できてはいない.理学・工学検討チームメンバーは学会や研究会の場を借りて報告書の内容を紹介し,多くのコメントを集めて改訂を重ねていく積もりである.
宇宙理学関係者にとって第一に重要な課題は,「国際宇宙探査を通して、理学コミュニティが参加する科学的意義は何か?」という問いである.報告書では,その答えを「ISASの太陽系科学探査と戦略を共有して一連の小天体探査計画や重力天体探査を補完し、相乗効果を上げること」と結論づけた.「生命の起源」という21世紀科学の大問題を解き明かすためには,太陽系科学,地球科学,天文学,宇宙化学,そして生命科学が一体となって取り組んでいかなければならない.その学際間連携の鍵を握っているのが太陽系外縁から内惑星領域への水・有機物の輸送である.この物理過程は45億年前の太陽系形成期と,38-35億年前の隕石重爆撃期に劇的に輸送効率が上がっていたと考えられる.JAXA宇宙科学研究所が描く太陽系探査の戦略は,まさにこの輸送過程の解明を目指して小天体探査とサンプルリターンのシリーズ化を実現しようとしている.一方,火星衛星サンプルリターン計画(MMX)を嚆矢とする火星探査では、重力天体の環境変動を調査することが重要なテーマである.地球,火星,月といった重力天体の内部進化が固有磁場の消長や大規模火成活動を通して惑星の生命生存可能環境とどのように影響し合い変遷してきたかを知ることはもう一つの鍵である.将来的には系外惑星の天文観測と結びついて地球外生命の探査と発見に寄与する.日本にとっての国際宇宙探査は,科学探査と戦略を共有して一連の小天体探査計画や重力天体探査を補完し,相乗効果を上げる事が強く期待される.具体的には,(1) 月への揮発性成分(特に水)の供給過程の調査,(2) 月内部進化の理解,(3) 地殻構成物の多様性の把握,(4) 衝突とレゴリスプロセス,(5) 浅い地下構造の探査,(6) 他の科学分野と連携しそれら研究において必要とされる諸技術の獲得・実証,(7) 惑星保護と地球外生命検出を両立するサンプルリターン技術の開発,(8) 月資源利用可能性の把握,(9) 有人月探査への準備,が報告書の中で挙げられている.講演ではこの検討報告を紹介して,コミュニティのフィードバックを求める.