[PPS10-02] 有機物との相互作用によって生じる小天体内部でのフィロケイ酸塩鉱物の形成実験
キーワード:蛇紋岩化、隕石母天体
背景と目的
フィロケイ酸塩鉱物はCI,CMタイプ隕石などに主要に存在する鉱物種である.隕石中のフィロケイ酸塩鉱物の存在は,隕石母天体もしくは隕石母天体への集積以前にかんらん石や輝石などの鉱物が水質変質作用を受けたことを示している.CIやCMタイプに比べて少ないが,フィロケイ酸塩鉱物は普通コンドライトやCV,COタイプコンドライト中でも見つかっている.蛇紋石はこれらの隕石中に含まれる代表的なフィロケイ酸塩鉱物であり,< 300 °C程度の温度条件下で形成されたと考えられる (Brearley, 2006).
Nakano et al. (2002)は分子雲で形成される有機物の模擬物質 (Kouchi et al., 2002)を用いた加熱実験を行い,分子雲有機物からは加熱に伴う水の生成が生じることを示した.本研究では有機物から生成される水が隕石母天体中のフィロケイ酸塩鉱物の形成をもたらす可能性について実験を通して考察する.
実験方法
サンカルロス産かんらん石 (<50 µm, 0.25 g)と分子雲アナログ有機物 (1.25 g,Kouchi et al., 2002)の混合物を作製した.これをスウェージロック社製チューブ継ぎ手に窒素雰囲気下で封入し,オートクレーブ内で300 ℃,10日間の加熱を行った.冷却後生成物をヘキサン (2 mL),メタノール (2 mL),純水 (2 mL)で超音波洗浄し,12時間静置して沈殿した物質を回収した.得られたサンプルに対してX線回折(XRD)分析による鉱物相の同定,走査型電子顕微鏡(SEM)による形態観察,エネルギー分散型X線分光 (EDS)分析による化学組成分析,透過型電子顕微鏡(TEM)による微細組織の観察を行った.
結果
XRD:出発物質に用いたかんらん石とほぼ同じXRDパターンが得られた.また同時にマグネシウム炭酸塩によるピークも観察された.
SEM/EDS:出発物質に用いたかんらん石の表面は滑らかで角張った形状を示しているのに対し,実験後のサンプルには表面にエッチピットが観察され,同時に不溶性の有機物が表面に付着していた.沈殿物によって形成されたと考えられる組織のケイ素-マグネシウム-鉄組成はマグネシウムが乏しく,ケイ素に富む組成を示した.
TEM/EDS:粒子の表面付近において,フィロケイ酸塩に似たチューブ状組織が見出された.チューブ状組織どうしは吻合し,結晶性に乏しい.電子線回折パターンははっきり現れなかった.チューブ状組織の見いだされる領域はかんらん石の化学組成と比較して,ケイ素に富む組成を示した.またこの領域内には全面に炭素の分布が確認された.
考察
蛇紋岩化反応はかんらん石の溶解と表面への二次鉱物の沈殿による2段階の反応であることが知られており(Putnis, 2002; Lafay et al., 2012),本実験でかんらん石表面に見られたエッチピットは流体への溶解の証拠であると考えられる.沈殿により形成されたと考えられる組織はその化学組成から,フィロケイ酸塩に似たチューブ状組織を持つ領域に相当すると考えられる.このことからかんらん石の表面では二次鉱物の生成が進行していることが示唆される.この組織はproto-serpentine (Lafay et al., 2016)と似ており,クリソタイルの形成途中またはタルクの形成途中と考えられる.MgO-SiO2-H2O-CO2システムにおいて1-100 bar程度のCO2分圧下でフィロケイ酸とマグネシウム炭酸塩が熱力学的に安定に存在できることが知られており (Oelkers et al., 2018),本実験では有機物の分解により発生したCO2によりマグネシウム炭酸塩が生成したと考えられる.これらの結果は隕石母天体において蛇紋石などのフィロケイ酸塩鉱物や炭酸塩鉱物が有機物から生成された水やCO2によって形成される可能性を示している.原始太陽系円盤におけるH2O氷の雪線より内側領域で集積した隕石母天体であっても,有機物に由来した水が生成され含水鉱物として固定されたかもしれない.
フィロケイ酸塩鉱物はCI,CMタイプ隕石などに主要に存在する鉱物種である.隕石中のフィロケイ酸塩鉱物の存在は,隕石母天体もしくは隕石母天体への集積以前にかんらん石や輝石などの鉱物が水質変質作用を受けたことを示している.CIやCMタイプに比べて少ないが,フィロケイ酸塩鉱物は普通コンドライトやCV,COタイプコンドライト中でも見つかっている.蛇紋石はこれらの隕石中に含まれる代表的なフィロケイ酸塩鉱物であり,< 300 °C程度の温度条件下で形成されたと考えられる (Brearley, 2006).
Nakano et al. (2002)は分子雲で形成される有機物の模擬物質 (Kouchi et al., 2002)を用いた加熱実験を行い,分子雲有機物からは加熱に伴う水の生成が生じることを示した.本研究では有機物から生成される水が隕石母天体中のフィロケイ酸塩鉱物の形成をもたらす可能性について実験を通して考察する.
実験方法
サンカルロス産かんらん石 (<50 µm, 0.25 g)と分子雲アナログ有機物 (1.25 g,Kouchi et al., 2002)の混合物を作製した.これをスウェージロック社製チューブ継ぎ手に窒素雰囲気下で封入し,オートクレーブ内で300 ℃,10日間の加熱を行った.冷却後生成物をヘキサン (2 mL),メタノール (2 mL),純水 (2 mL)で超音波洗浄し,12時間静置して沈殿した物質を回収した.得られたサンプルに対してX線回折(XRD)分析による鉱物相の同定,走査型電子顕微鏡(SEM)による形態観察,エネルギー分散型X線分光 (EDS)分析による化学組成分析,透過型電子顕微鏡(TEM)による微細組織の観察を行った.
結果
XRD:出発物質に用いたかんらん石とほぼ同じXRDパターンが得られた.また同時にマグネシウム炭酸塩によるピークも観察された.
SEM/EDS:出発物質に用いたかんらん石の表面は滑らかで角張った形状を示しているのに対し,実験後のサンプルには表面にエッチピットが観察され,同時に不溶性の有機物が表面に付着していた.沈殿物によって形成されたと考えられる組織のケイ素-マグネシウム-鉄組成はマグネシウムが乏しく,ケイ素に富む組成を示した.
TEM/EDS:粒子の表面付近において,フィロケイ酸塩に似たチューブ状組織が見出された.チューブ状組織どうしは吻合し,結晶性に乏しい.電子線回折パターンははっきり現れなかった.チューブ状組織の見いだされる領域はかんらん石の化学組成と比較して,ケイ素に富む組成を示した.またこの領域内には全面に炭素の分布が確認された.
考察
蛇紋岩化反応はかんらん石の溶解と表面への二次鉱物の沈殿による2段階の反応であることが知られており(Putnis, 2002; Lafay et al., 2012),本実験でかんらん石表面に見られたエッチピットは流体への溶解の証拠であると考えられる.沈殿により形成されたと考えられる組織はその化学組成から,フィロケイ酸塩に似たチューブ状組織を持つ領域に相当すると考えられる.このことからかんらん石の表面では二次鉱物の生成が進行していることが示唆される.この組織はproto-serpentine (Lafay et al., 2016)と似ており,クリソタイルの形成途中またはタルクの形成途中と考えられる.MgO-SiO2-H2O-CO2システムにおいて1-100 bar程度のCO2分圧下でフィロケイ酸とマグネシウム炭酸塩が熱力学的に安定に存在できることが知られており (Oelkers et al., 2018),本実験では有機物の分解により発生したCO2によりマグネシウム炭酸塩が生成したと考えられる.これらの結果は隕石母天体において蛇紋石などのフィロケイ酸塩鉱物や炭酸塩鉱物が有機物から生成された水やCO2によって形成される可能性を示している.原始太陽系円盤におけるH2O氷の雪線より内側領域で集積した隕石母天体であっても,有機物に由来した水が生成され含水鉱物として固定されたかもしれない.