JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS10] 太陽系物質進化

コンビーナ:藤谷 渉(茨城大学 理学部)、松本 恵(東北大学大学院)、小澤 信(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、日比谷 由紀(国立研究開発法人海洋研究開発機構 海底資源センター )

[PPS10-10] NWA 8613隕石中の細粒難揮発性包有物が示す16Oに乏しい酸素同位体ガスリザバー

*和田 壮平1川崎 教行1圦本 尚義1,2 (1.北海道大学大学院 理学院 自然史科学専攻 地球惑星システム科学講座、2.宇宙科学研究所)

CVコンドライトに含まれる細粒CAI (Ca–Al-rich inclusion) は,原始太陽系円盤ガスからの直接凝縮物の一つであると考えられている [1].細粒CAIを構成する鉱物の酸素同位体比は,粗粒CAI同様に,三酸素同位体図上で,CCAM(Carbonaceous Chondrite Anhydrous Mineral)ラインと呼ばれる傾き1の非質量依存分別線上にプロットされる(e.g., [2] and references therein).細粒CAIの16Oに富む同位体組成をもつ鉱物は,凝縮時のガスの酸素をそのまま保存した,16Oに富むガスからの凝縮物であると考えられている [3–5].一方で16Oに乏しい構成鉱物は,原始太陽系円盤ガスからの凝縮後に,円盤ガス中や隕石母天体上で二次的な同位体交換プロセスを受けることで,16Oに富む組成から16Oに乏しい組成へと変化した可能性が示唆されている [3–5].そのため,細粒CAI形成環境のガスにおける,酸素同位体の組成変動の有無はまだ定かではない.本研究では,細粒CAI形成環境のガスの酸素同位体組成を解明することを目的に,NWA 8613 CVコンドライト中の細粒CAI,HKD01について,走査電子顕微鏡FE-SEM-EDS-EBSDシステム (JEOL JSM-7000F; Oxford X-Max 150; Oxford HKL) による岩石鉱物学的観察と二次イオン質量分析計 (CAMECA ims-1280HR,北海道大学設置) による局所酸素同位体分析を組み合わせた系統的研究を行った.さらに細粒CAI形成に年代学的制約を与えるために,Al–Mg年代測定を二次イオン質量分析計により行った.
HKD01は,10 × 12 mmのサイズで不規則な外形をもつ.HKD01は主に,メリライト,ヒボナイト,スピネルから構成され,これらの鉱物がCAI全体でモード比を変えながら分布する.HKD01は,岩石鉱物学的特徴から,コア部とマントル部に分けられる.さらにそれぞれ,コア部はヒボナイトに富むコア部と,スピネルに富むコア部,マントル部はメリライトに富むマントル部と,ヒボナイトとスピネルに富むマントル部に分けられる.構成鉱物の酸素同位体組成は,CCAMライン上の同位体非平衡分布を呈し,Δ17O ~ −23から0‰の間にプロットされる.ヒボナイトとスピネルの酸素同位体組成は,その産状・組織にかかわらず均一に16Oに富む (Δ17O ~ −23‰).コア部のメリライト結晶は,典型的に10 μm以下の粒径をもち,その酸素同位体組成は粒間でΔ17O ~ −23から−10‰の間で変化する.ヒボナイトとスピネルに富むマントル部のメリライト結晶も,同様に, 10 μm以下の粒径をもつが,その酸素同位体組成は粒間でΔ17O ~ −17から0‰の間で変化する.一方で,メリライトに富むマントル部に見られるメリライト結晶は比較的大きい粒径(15–25 μm)をもち,その酸素同位体組成は粒内でも粒間でも均一に16Oに乏しい (Δ17O ~ 0‰).
細粒CAIの構成鉱物が経験したとされる二次的な酸素同位体交換プロセス [3–5] は,自己拡散によるものだと考えられている [6, 7].このCAI中のメリライト結晶において,均一な酸素同位体分布が大きい粒径に現れ,一方,不均一な酸素同位体分布が小さい粒径に現れる事実は,CAI形成後の酸素の自己拡散の進行では説明できず,オリジナルに16Oに乏しいメリライト (Δ17O ~ 0‰) が存在していたことを示す.これは,HKD01形成時に16Oに乏しい組成のガスが存在していたことの証拠である.また,同様に,16Oに富むヒボナイト,スピネルおよびメリライト (Δ17O ~ −23‰) は,これまでの細粒CAI研究 [1–5] 同様,16Oに富む組成のガスの存在を示す.以上から,HKD01形成環境には,16Oに富むガスリザバーと乏しいガスリザバーが共存していたことが判明した.スピネルとメリライトのAl–Mg鉱物アイソクロンは,(4.81 ± 0.09) × 10−5の初生26Al/27Al比を示す.CAI形成領域に26Alが均一に分布していたとすれば,HKD01の初生26Al/27Al比は,その形成イベントが太陽系最初の固体形成 [8] から9万年後の± 2万年以内に起こったことを示す.本研究により,細粒CAI形成領域においても,16Oに富むガスリザバーと乏しいガスリザバーが共存していたことがわかった.

[1] Krot et al. (2004) MaPS 39, 1517−1553. [2] Yurimoto et al. (2008) Reviews in Mineralogy and Geochemistry 68, 141–186. [3] Itoh et al. (2004) GCA 68, 183−194. [4] Wasson et al. (2001) GCA 65, 4539−4549. [5] Aléon et al. (2005) MaPS 40, 1043-1058. [6] Yurimoto et al. (1989) GCA 53, 2387–2394. [7] Ryerson and McKeegan (1994) GCA 58, 3713–3734. [8] Larsen et al. (2011) ApJL 735 L37–L43.