JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG55] 岩石・鉱物・資源

コンビーナ:西原 遊(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、門馬 綱一(独立行政法人国立科学博物館)、野崎 達生(国立研究開発法人 海洋研究開発機構 海洋機能利用部門 海底資源センター)、土谷 信高(岩手大学教育学部地学教室)

[SCG55-P09] 北部日高帯下川オフィオライトにおける異常な発泡現象の成因及び, アルバイト-カリ長石脈の玄武岩シルへの影響

*加藤 聡美1宮下 純夫2 (1.新潟大学大学院自然科学研究科、2.北海道総合地質学研究センター)

キーワード:発泡、中央海嶺玄武岩、北部日高帯

1.はじめに
 マグマの発泡は,マグマの揮発性成分の量と,噴出深度に依存している.下川オフィオライトの緑色岩はN-MORBで,深海底で噴出しており(Miyashita and Yoshida,1994),初生的に揮発性成分に乏しく,大半が発泡していない.しかし下川オフィオライトには,高発泡を有する例が報告されており,マグマが未固結堆積物中に貫入したことによって,堆積層からの脱水と有機炭化物の分解で,マグマにCO2を含んだ熱水流体が付加され,マグマが発泡した可能性や,堆積層から除去されたK2O・Rbなどもマグマに付加された可能性が提唱されていた(宮下,1999).しかし,発泡組織・結晶形態・からの検討やその実証的検討は行われていなかった.本発表では,発泡した塊状玄武岩の中でも最大規模の発泡をした塊状玄武岩シル1について詳しく検討する.また,アルバイトとカリ長石で構成される脈がシル1から見つかった.この脈の意義についても考察する.
2.地質概説
 下川オフィオライトは北海道中央部の北部に位置する.不完全ながらオフィオライト層序を有し,下位から蛇紋岩化したハルツバージャイト,斜長岩質斑レイ岩,主体部下部はドレライトと堆積岩との厚い互層・上部は枕状溶岩・中部は両者の中間,最上部は角礫岩から構成される(Miyashita and Watanabe,1988).著しく発泡している岩石は堆積物に貫入する玄武岩シル3箇所から確認されている.これらは10 m以上の層厚を持つ大規模なシルで,堆積岩は接触部に沿って優白化している.
 玄武岩シル1は,3つの発泡玄武岩シルの中では層序的に最も下位に位置しの,層厚は22 m+である.シル1には不定形の泥岩ゼノリスが不均質に多数含まれ,珪化した泥岩も見られた.
3.下川オフィオライト全体の全岩化学組成の検討
 Zr/Nbは,N-MORBの標準的な値>17 (Le Roex et al., 1983)を示す.LIL元素(K2O,Rb)含有量は,高発泡する玄武岩において高い傾向が見られた.希土類元素比から見ると,La/Ybが0.8前後のやや軽希土類元素に乏しいN-MORBパターン(シル2,シル3の大半,枕状溶岩の大半).La/Ybが1.2前後のやや軽希土類元素に富むT-MORB的パターン(シル1,シル3の一部,枕状溶岩の一部)が認められた.一方,二次的変化を被りづらいHFS元素の検討からは全てがN-MORBとしての特徴を示す.これらのことからLIL元素や軽希土類元素は二次的に変化している可能性が考えられる.
4.アルバイト-カリ長石脈のシルへの影響
 アルバイト-カリ長石脈の幅は2 mm前後で,他の脈よりも太い.脈の境界は曲線状で,露頭ではうねうねしており,他の脈(方解石など)によって切られている.脈に隣接する玄武岩の結晶はこの脈によって切られていない.シル1全体にわたる22か所において,発泡度の計測を行った.シル1の接触部は無発泡で,内部の発泡度は下位から上位に向かって大局的には上昇する.しかし,アルバイト脈の周囲では,突出して高発泡である.また,石基斜長石数密度を8枚測定した.シル1の石基斜長石結晶数密度は,接触部が40個/mm2で細粒であり,内部は4-6個/mm2で粗粒である.脈に隣接するサンプルは,全体の傾向から外れ15個/mm2と細粒になっている.また,鉱物化学組成については,シル内部の単斜輝石コアのCr2O3%は0.25%前後であるが,脈周辺では0.8%前後と高い値を示す.以上の事実はこの脈はシルが固結後に生じたものではなく,シル内部が固結する前に形成されたことを示している.
5.考察
 海嶺中軸部からはlava pillarと呼ばれるガラス質の円筒状柱が見出されており,厚い塊状溶岩の中を,下位に閉じ込められていた海水が熱水となってマグマ中を通り抜けたと考えられている(Perfit and Chadawick, 1996).未固結堆積層中にマグマがシルとして貫入した場合には,マグマの上下の堆積層はマグマの熱により急速に脱水・固化することになる.この場合,マグマ中に捕獲された堆積物やシルの下位から発生した熱水流体は上がシールされてしまうためにマグマ中にもたらされたと思われる.
 アルバイト-カリ長石脈の周囲の玄武岩は,発泡度が突出して高く,石基斜長石数密度が高く,未分化である.このことから,脈は玄武岩シルの揮発性成分量,冷却速度,分化に影響を与えている.高発泡するシルに泥岩ゼノリスが多数含まれる産状から,周囲の堆積層は未固結で流動性が高かったために堆積岩とマグマは混じり合う現象が普遍的に生じている.泥岩中の間隙水は熱水へと変化し,必然的に貫入したマグマへもたらされ,マグマの組成変化をもたらしたであろう.熱水流体に溶け込んだLIL元素がアルバイト-カリ長石脈を通じてCO2とともにマグマへもたらされ,発泡が生じた可能性を提唱する.
参考文献
[1]Miyashita and Watanabe, 1988. [2]Miyashita, 1999. [3] Le Roex et al., 1983. [4] Perfit and Chadawick, 1996.