JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG66] 海洋底地球科学

コンビーナ:沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)

[SCG66-07] MOWALL: 長大トランスフォーム断層に沿って海洋地殻生産の時空間変動を追う

*沖野 郷子1森下 知晃2町田 嗣樹3中村 謙太郎1小原 泰彦4谷 健一郎5石塚 治6 (1.東京大学、2.金沢大学、3.千葉工業大学、4.海上保安庁、5.国立科学博物館、6.産業技術総合研究所)

キーワード:トランスフォーム断層、海洋地殻、マントル不均質、中央海嶺プロセス

長大海洋トランスフォーム断層(TF)は海洋地殻断面が時間軸に沿って露頭として現れ,中央海嶺プロセスとその結果として生産される海洋地殻構造の多様性と時空間変動を包括的に理解するために最適の場である. Bonattiら(2003)による大西洋Vema TFにおける先駆的な研究では,断層に沿った密な岩石採取と重力異常解析により,隣接する中央海嶺セグメントのメルト供給量が300-400万年スケールで変動していることが示された.しかしながら,この変動の原因についての言及はなく,またこの時間スケールの変動が普遍的な現象であるかどうかもわかっていない.また,Vema TF海域にはメルト供給の大減少を示すと考えられている海洋コアコンプレックス(OCC)や平滑海底が存在せず,整然としたアビサル・ヒルのみが続いており,海嶺プロセスの多様性の全容をカバーしていない.私たちは,数百万年スケールの海洋地殻生産プロセスの変動は,上部マントルの組成の空間不均質に起因するとの作業仮説を立て,この仮説を検証すべくMOWALL計画(Moho Observation along transform faults WALLs)を2018年に開始した.計画の狙いは,世界の長大海洋トランスフォーム断層において系統的な岩石採取を行い,その時間変動と原因を明らかにすることである.主な対象海域として,インド洋のMarie Celeste TF, フィリピン海の四国・パレスベラ海盆背弧拡大系,南大洋のVulcan TFを選択した.

Marie Celeste TF: 37-40mm/年で拡大する中央インド洋海嶺を,215kmに及ぶ長大なトランスフォーム断層が切り,断層に沿って0-12Maの海洋地殻が連続して露出していることが期待できる.既存の地形調査から,断層の南に隣接する海嶺セグメントで大きなメルト供給量変動があったことが示唆されている.すなわち,現在の中軸谷内のシート状溶岩流や海嶺軸の東に位置するオフアクシス火山が3Ma以降の比較的豊富なメルト供給量を示すのに対し,その直前の海底には2つのOCCが発達している.この断層がMOWALL計画の最重点海域であり,2020年秋に白鳳丸により25km間隔の稠密岩石採取と重磁力観測を予定している.
四国・パレスベラ海盆 TFs: かつての拡大軸であるリフトが多くのトランスフォーム断層によって細かくセグメント化している.世界最大のOCCであるゴジラメガムリオンを含め,多くのOCCがリフト近傍に発達しており,メルト供給量の大変動が示唆されている.トランスフォーム断層は概して短く,長期の時間変動解析には最適な場ではないが,既存のカンラン岩試料の解析からはOCCの異なる部分から部分溶融度の変動が明らかにされている.2018,2019年に行われた四国海盆南部のOCCの調査と,パレスベラ海盆における多くの既存研究から,背弧海盆拡大終了時のメルト供給変動を明らかにしていく.
Vulcan TF: 南大洋59°S, 17°W付近で,超低速(14mm/年)拡大する南米―南極海嶺が約55kmオフセットし,トランスフォーム断層沿いに0-8Maの海洋地殻断面が露出している.白鳳丸KH-19-4航海では,断層沿いに15-20km間隔で5点のドレッジが実施された.
本講演では,四国・パレスベラ海盆およびVulcan TFの調査結果速報と,来るインド洋Marie Celeste TF調査の紹介を併せて行う.