JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG70] 地震動・地殻変動・津波データの即時把握・即時解析・即時予測

コンビーナ:小木曽 仁(気象庁気象研究所)、山田 真澄(京都大学防災研究所)、近貞 直孝(防災科学技術研究所)、太田 雄策(東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター)

[SCG70-06] 初期破壊のP波を取り入れた波動場予測法:緊急地震速報のPLUM法の迅速化に向けて

*小寺 祐貴1 (1.気象庁気象研究所)

キーワード:地震動即時予測、緊急地震速報、地震動予測、強震動、波動伝播、自動検知

はじめに
東北地方太平洋沖地震や想定南海トラフ巨大地震といったM8を超えるような巨大地震に対しても精度の良い緊急地震速報を発表するため,気象庁では2018年3月から緊急地震速報システムにPLUM法(Kodera et al., 2018)を導入し運用を開始した.PLUM法は,Hoshiba (2013)が提案した,震源推定を行わずに観測された揺れから将来の揺れを直接計算するという考えに基づく手法であり,地震の発生状況によらず安定的に予測震度を提供できるという利点を持つ.一方で,予測地点の半径30 km以内の観測値のみを用いて震度予測を行うため,得られる猶予時間は短いという欠点がある.
PLUM法の迅速性を向上させるため,Kodera (2018)は対応するP波からS波の震度を予測する手法を開発し,それによる予測値をPLUM法の入力として用いることを提案した.同手法ではP波の検出をS波初動が到達した後も試みており,震源付近の地点では遅れて破壊した強震動生成域からのP波の検知やそこから放出された強震動の予測も精度良く行えることが示された.しかしながら,Kodera (2018)の手法は特殊な状況(地中観測点の利用,高度なサイト補正処理の実施)を前提としており,そのままの形で実装することはハードルが高い.そこで本研究では,より簡便かつ適用範囲が広い形でPLUM法にP波を導入する方法について検討した.

検討した方法
本研究では,Kodera (2018)と以下の点で異なる手法を提案する:
(1)入力データ:Kodera (2018)の方法ではサイト補正済みの地中観測点を前提としていたが,検証した手法ではサイト補正無しの地上観測点をターゲットとした.現在,緊急地震速報に用いられている観測点の多くは地上観測点であるため,これにより改善効果のある観測点数を大幅に増やすことができる.
(2)P波検知:Kodera (2018) の方法では常時P波検知を実施していたが,提案手法ではP波の誤検知を減らすためにトリガオン直後(最初に震度3に達した直後)のみの時間帯に対してP波検知を試みる.

提案手法による改善効果の検証
上記の提案手法について,気象庁震度計のイベント波形を用いた検証を行った.対象としたイベントは,2000年1月~2019年9月に日本周辺で発生した,M6.0以上かつ最大震度5弱以上の地震(116事例.うち,気象庁震度計で震度5弱以上であったものは76事例)である.
Kodera (2018) と同じ条件設定(P波検出の基準はP-filter値が0.4以上)でシミュレーションを行ったところ,18事例(約2割)で警報発表が迅速化された.原理的に改善可能な猶予時間幅(震度5弱観測時刻と理論P波到達時刻の差)を基準とすると,その時間幅のうちおおむね3割程度が改善されることが分かった.合わせて,P波検知の閾値を変化させたときの,予測精度,改善イベント数,改善される猶予時間幅に対する依存性を調査した.予測精度と改善イベント数にはトレードオフの関係が見られた.P波検知の閾値が0.2から0.6までは予測精度と改善イベント数はほぼ一定であった.改善される猶予時間幅に関しては,どのような閾値の値を採用したとしてもほぼ同じであった.

結論
サイト補正をしていない地上観測点を対象として,トリガオン直後のP波だけを用いたとしても,地震波を検知してから警報を発表するまでの時間が3割程度短縮できる見込みがあることが分かった.一方で,現在の提案手法では改善効果があるイベント数が2割程度と限られているため,より高い迅速化効果が見込める簡便な手法について,今後更なる検討が必要だろう.