JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG71] 地殻深部のマグマ供給系の解明

コンビーナ:麻生 尚文(東京工業大学)、飯塚 毅(東京大学)、坂田 周平(東京大学地震研究所)、行竹 洋平(神奈川県温泉地学研究所)

[SCG71-01] 蔵王山深部低周波地震の震源分布と発震機構

*池谷 拓馬1山本 希1 (1.東北大学大学院理学研究科)

キーワード:蔵王山、深部低周波地震、発震機構

火山直下で発生する深部低周波地震 (Deep Low-Frequency earthquakes,以降DLFと記す) は最上部マントルから下部地殻における火山性流体の挙動を表すと考えられている.蔵王山では,2011年東北地方太平洋沖地震以後,DLFの活発化が見られているが,その震源は浅部クラスター(深さ20~28 km)と深部クラスター(深さ28~38 km)に分かれて分布する.浅部と深部のクラスターは,高Vp/Vs領域の内部及び側面と下部にそれぞれ位置し (Okada et al., 2014),流体の関与・地震発生プロセスが発生領域によって異なることを示唆する.池谷・山本 (2019, VSJ) では,Matched Filter法を用いて検出したDLF 1202個を波形相関によって7グループに分類し,その内6グループ(A,B,D,E,F,G)が浅部クラスターに,グループCが深部クラスターに位置することを明らかにした.本発表では,S/Pスペクトル比を用いて発震機構を推定した結果を示し,下部地殻における火山性流体の状態・挙動について議論する.

解析には,DLFの震央を囲む防災科学技術研究所,東北大学,気象庁の8観測点を用いた.発震機構として,(1) ダブルカップル (DC),(2) Compensated Linear Vector Dipole (CLVD),(3) Tensile Crack (TC),(4) DC+等方球状震源 (ISO),(5) DC+CLVD,(6) DC+TCを仮定し,各観測点におけるS/Pスペクトル比の理論値と観測値の残差を最小化する最適なモデルパラメータをグリッドサーチで推定した.最終的に (1)~(6) の発震機構の中から,AICが最小となるものを最適解とした.

その結果,グループA,D,EはDC+TC,グループB,FはTC,グループC,GはDC+ISOが最適解と推定された.S/Pスペクトル比の理論値は観測値とよく合っており,タイプC以外については全方位で低い値をとる一方,タイプCについては北東・南西方向で高い値をとる傾向を再現できた.さらに,最適解のモーメントテンソルをDC,ISO,CLVDに分解し,それぞれの寄与率を計算した結果,グループCはダブルカップル成分に卓越 (60 %) するのに対し,グループC以外は非ダブルカップル成分に卓越 (60~100 %) することが明らかとなった.この結果は,浅部と深部のクラスターでDLFの発生プロセスが異なることを表す.この発生プロセスの差異はモホ面付近での差応力の上昇 (e.g. Bürgmann and Dresen, 2008) や高Vp/Vs領域の内部及び側面と下部でメルトの量・形状等が異なることに起因している可能性が考えられる.また,DCとTCの組み合わせの発震機構は,深さ10 km以浅で発生する浅部火山性地震で観測されることが多く,ダイク貫入によると解釈されている (e.g. Hill, 1977).火山浅部での物理モデルをDLFに適用することは困難であるが,浅部クラスターのDLFの発震機構は,このような流体移動に伴うtensile-shear型の発生プロセスを示唆する.

本研究で行ったようなDLFの検出と発震機構の系統的な精査は,下部地殻における火山性流体の挙動の解明に貢献できると考えられる.