JpGU-AGU Joint Meeting 2020

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[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-EM 固体地球電磁気学

[S-EM22] 地磁気・古地磁気・岩石磁気

コンビーナ:佐藤 雅彦(東京大学地球惑星科学専攻学専攻)、加藤 千恵(九州大学比較社会文化研究院)

[SEM22-P07] 古第三系神戸層群の古地磁気方位;西南日本の古位置への制約

*仙田 裕樹1林田 明1 (1.同志社大学)

キーワード:古第三紀、西南日本、古地磁気方位

西南日本の古位置に関して、1980年代以降に中新世と白亜紀の岩石を対象に行われた古地磁気の研究の結果、西南日本は中期中新世に短期間で約40°の時計回りの回転を伴って大陸から分離したこと(Hoshi et al., 2015)や、白亜紀後期にはアジア大陸と一体となっていたこと(Uno et al., 2018)が示された。しかしながら、見かけの極移動曲線(APWP)に基づく議論は行われておらず、特に古第三紀の古地磁気方位については香川県土庄層群(Torii,1983)および島根県川本花崗閃緑岩(Otofuji and Matsuda, 1983a)のデータが報告されているだけである。
 神戸層群は兵庫県東南部の淡路島北部・神戸市西部・三田盆地に分布する古第三系の地層であり、砂岩、泥岩、礫岩を主体とし複数の凝灰岩層を挟んでいる。その層圧は約800mと推定され、鍵層となる凝灰岩層を基準として3つの累層(細川累層、吉川累層、三田累層)に分けられる(尾崎・松浦, 1988)。また、三田盆地と神戸市西部に分布する神戸層群からは、後期始新世〜前期漸新世の年代を示すK-Ar年代、Ar/Ar年代とフィッション・トラック年代(約30〜39 Ma)が報告されているが(尾崎他, 1996;郷津他, 2011)、これまでに古地磁気方位の検討は行われていない。そこで、西南日本を代表する古第三紀の古地磁気方位を得るため、比較的露頭条件の良好な三田盆地の神戸層群の堆積岩を対象に残留磁化の測定を行った。
 残留磁化測定用の試料の採取は、三田盆地西部にあたる兵庫県加東市東部(旧東条町)を中心に行った。本地域の神戸層群の岩相層序と地質構造は阪本他(1998)によって明らかにされており、4枚の凝灰岩層が認定されている。本研究では、主に阪本他(1998)が記載したルートにおいて定方位ブロックを採取し、実験室に持ち帰って1インチのコア試料を作製した。これらについて、Kappabridgeによる初磁化率とその異方性(AMS)の測定の後、超伝導磁力計を用いて残留磁化を測定し、段階熱消磁および段階交流消磁によって磁化成分の分離を試みた。消磁後の一部の試料に対して、保磁力の分布を確認するため、非履歴性残留磁化(ARM)と等温残留磁化(IRM)の段階的に着磁する実験も行った。

 段階交流消磁または段階熱消磁の結果に対して主成分解析を行い成分の分離を行ったところ、試料は(1)低温成分または低保磁力成分のみが認められたもの、(2)高温成分または高保磁力成分が認められたもの、(3)磁化成分の認定が困難だったものに分けられた。低温または低保磁力成分は全ての地点で認められ、その方位が地心軸双極子磁場と調和的であることから、二次的に付加された粘性残留磁化由来と考えられる。高温または高保磁力成分は約40〜60°の東偏した方位を示したが、この成分が認められた試料は少数であった。なお、初磁化率測定の結果から、消磁前の残留磁化強度と初磁化率は比例関係にあり、サイト平均磁化方位が得られたサイトで大きな値を示した。また初磁化率の異方性楕円体には、最小軸が鉛直方向に集中し扁平(Oblate)な形状を持つものが多く、堆積岩に特徴的な結果となった。消磁後の試料に対して行った着磁実験では、全てのサイトでIRMが1.2Tまでに飽和に達したため、ヘマタイトなどの寄与は小さいと考えられる。IRM着磁曲線のunmixingによって求めた保磁力スペクトルには、多くのサイトで約40mT程度の保磁力成分が確認されたが、自然残留磁化の高保磁力成分はその一部にしか認められなかった。

 神戸層群から得られた高温または高保磁力成分は、認定された試料数が限られるため、地磁気永年変化の影響などが含まれている可能性がある。しかし、その平均方位は後期古第三紀とされる土庄層群と川本花崗閃緑岩から報告された古地磁気方位と調和的であり、古地磁気極の位置は前期中新世(20Ma)と後期白亜紀(70Ma)の間にプロットされる。この結果から70〜20 Maにかけて西南日本は東アジアと一体になっていたことが示唆されるが、古第三紀における西南日本の古位置にさらに制約を与えるためにはより多くの地点で初生磁化の方位を確認する必要がある。