[SSS12-04] 固体地球の等方散乱係数に見られる冪乗型スペクトル
キーワード:地震波動、散乱、速度構造、地殻、マントル
近年,固体地球のランダムな不均質構造,特に速度ゆらぎのパワースペクトル密度(PSDF)の測定結果が数多く報告されるようになってきた.代表的な方法として,走時解析に基づく速度トモグラフィ,輻射伝達理論に基づく地震波形エンベロープ解析,孔井の速度検層, 岩石標本の写真解析などの手法がある.その対象領域は,大はマントル,小は岩石サンプルまでと幅広い.求められた速度ゆらぎのパワースペクトル密度(PSDF)の報告値を波数に対して両対数プロットしてみると,各々のPSDF測定値はフォンカルマン型で良く表される.等方ランダム性を仮定した測定に限ってみれば,PSDFのスペクトルエンベロープは幅広い領域に渡って波数の逆3乗に従って減少する (Sato,2019,SE,JpGU).
一方,散乱の要因を特定せず,現象論的に地震波のコーダ励起から散乱係数(単位当たりの散乱の強さ)を求める測定が数多くなされてきた.数理的に最も簡単な等方散乱モデルが普遍的に使われてきたが,その場合,等方散乱係数 gisoが唯一のパラメーターである.小は岩石の粒径程度から大はマントルに至るまで,これまでに報告されてきた数多くの測定値を周波数に対して両対数プロットすると,概ね gisoは周波数の増加と共に増大することがわかる (Sato, 2019, GJI).
一般に,多重散乱が卓越すると,エネルギー密度(速度振幅の2乗に比例)の時空分布は拡散方程式に支配されるようになり,拡散係数は輸送散乱係数gtrで与えられることが知られている.これは等方多重散乱の場合と同じ支配方程式であり,輸送散乱係数gtrはあたかも等方散乱係数gisoと同じ様に働く.これは,スカラー波でもベクトル波でも同じである.波数の逆3乗に従う速度ゆらぎのスペクトルエンベロープからBorn近似を用いて計算した輸送散乱係数gtrは周波数の一次で増加し,測定された等方散乱係数gisoの周波数依存の傾向を概ね良く説明できることがわかる. しかし,火山や月の浅部,空隙率の大きな岩石におけるgisoの測定値は,輸送散乱係数gtrの示す直線よりも大きく上に外れるものが多い.このことは,ランダムな速度ゆらぎのみならず,重畳して分布する空隙やクラックによる散乱を考察することの重要性を示唆している (Sato, 2019, GJI).
一方,散乱の要因を特定せず,現象論的に地震波のコーダ励起から散乱係数(単位当たりの散乱の強さ)を求める測定が数多くなされてきた.数理的に最も簡単な等方散乱モデルが普遍的に使われてきたが,その場合,等方散乱係数 gisoが唯一のパラメーターである.小は岩石の粒径程度から大はマントルに至るまで,これまでに報告されてきた数多くの測定値を周波数に対して両対数プロットすると,概ね gisoは周波数の増加と共に増大することがわかる (Sato, 2019, GJI).
一般に,多重散乱が卓越すると,エネルギー密度(速度振幅の2乗に比例)の時空分布は拡散方程式に支配されるようになり,拡散係数は輸送散乱係数gtrで与えられることが知られている.これは等方多重散乱の場合と同じ支配方程式であり,輸送散乱係数gtrはあたかも等方散乱係数gisoと同じ様に働く.これは,スカラー波でもベクトル波でも同じである.波数の逆3乗に従う速度ゆらぎのスペクトルエンベロープからBorn近似を用いて計算した輸送散乱係数gtrは周波数の一次で増加し,測定された等方散乱係数gisoの周波数依存の傾向を概ね良く説明できることがわかる. しかし,火山や月の浅部,空隙率の大きな岩石におけるgisoの測定値は,輸送散乱係数gtrの示す直線よりも大きく上に外れるものが多い.このことは,ランダムな速度ゆらぎのみならず,重畳して分布する空隙やクラックによる散乱を考察することの重要性を示唆している (Sato, 2019, GJI).