JpGU-AGU Joint Meeting 2020

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セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS13] 地震活動

コンビーナ:吉田 康宏(気象庁気象大学校)

[SSS13-P08] 飛騨山脈南部の群発地震:2020年と過去の活動の比較

*大見 士朗1 (1.京都大学防災研究所地震防災研究部門)

キーワード:飛騨山脈南部、群発地震

§はじめに
飛騨山脈南部の上高地およびその周辺において、2020年4月23日のMjma=5.5の地震を5月25日現在までの最大地震として、活発な地震活動が続いている。飛騨山脈南部の乗鞍岳から焼岳、穂高岳、そして槍ヶ岳にかけての地域は、従来より群発地震活動が頻発している場所である。本発表では、5月25日現在進行中の2020年の地震活動とこの地域の過去の地震活動の比較を行う。

§2020年の群発地震活動
今回の地震活動は、4月6日に長野県松本市上高地徳本峠付近での小規模な群発地震で始まったと考えられる。その後4月7日から4月21日にかけては活動域を約7km北方の前穂高岳東斜面に移し、やや活発な活動が見られた。4月22日未明にMjma=3.8を含む地震が再び徳本峠付近の4月6日の活動域とほぼ同じ位置で発生し、翌日4月23日13時44分のMjma=5,5の地震(最大震度4、奥飛騨温泉郷中尾の京大防災研の観測点では計測震度4.7相当)の発生とともに急速に西方の霞沢岳方向とそこから北方の上高地の谷底から岳沢にかけての地域に震源域が拡大した。4月26日から27日にかけては、上高地の河童橋付近を中心に大粒の地震が頻発し、26日2時22分の地震(Mjma=5.0)では中尾において、再び計測震度4.7相当を観測した。その後5月12日にかけて震源域は岳沢付近を徐々に北に拡大し、13日早朝からの活動で飛騨山脈主稜線(岐阜・長野県境)の近くまで拡大した。5月19日未明より活動が再度活発化し、13時12分の地震(Mjma=5.4、中尾での計測震度4.7相当)において震源域が飛騨山脈主稜線の岐阜県側に拡大した。20日以降25日までは気象庁基準の有感地震は減少しているが槍ヶ岳近傍まで発生域が拡大している。

§過去の群発地震との比較
飛騨山脈の南部の、主に鷲羽岳から焼岳付近は断続的な群発地震が頻発する地域で、京大防災研が1970年代後半に当地域で地震観測を開始して以来、既往研究によれば、主な群発地震活動が1990~1991年(焼岳および烏帽子岳付近)、1993年6月~1994年1月(槍ヶ岳)、1998年8月~2000年2月(飛騨山脈群発地震)、2011年3月~4月(東北地方太平洋沖地震直後の群発地震)、2014年5月(西穂高・千石尾根付近)、2018年11月~2019年1月(焼岳西麓および上高地)などに発生している。同地域で発生する群発地震の震央分布をみると、2018年の活動までは大まかにみるとそれぞれの震源域が重なっておらず、震源域が「棲み分け」をする現象が観察される。なお、規模は小さいものの、上述以外にもたとえば2003年12月の焼岳北東や2013年10月の涸沢付近などにもクラスタ的な地震活動は見られており、これらも震源域の「棲み分け」が認められた。2020年の活動は、4月7日から21日頃までの前穂高岳東斜面の活動、および4月22日の徳本峠付近の活動まではこの傾向を示していたが、4月23日以降の活動は、急速に1998年の活動域に重なっていき、約20年ぶりに過去の群発地震活動と同一地域での地震活動が観測されている。また、過去の大部分の活動では一連の活動の震源域が飛騨山脈の主稜線を越えることはなく、岐阜・長野のいずれかの側に限定されることが特徴であり、これまでの唯一の例外が1998年の活動であったが、今回の2020年の活動は4月19日の段階で長野側から岐阜側へ震源域が拡大し、1990年代以降2度目の例となった。この地域の震源は主稜線を境にして飛騨側で浅く、長野側で深いという系統的な差が認められ、発震機構に関しては、当地域は北西-南東の圧縮場にあることから基本的にはこれに従うが、長野側では横ずれ型、岐阜側では逆断層型を呈するものが多い。

§深部低周波地震
当地域で浅い群発地震が発生すると、引き続いて低周波地震活動が活発化することが往々にしてみられる。1998年の群発地震活動の後の低周波地震は焼岳と乗鞍岳の間のモホ面付近に震源が求められる深部低周波地震であった。1990年代以降の京大防災研・上宝観測所の紙描き記録の精査によれば、1993年、1998年、2003年などの群発地震活動の後に低周波地震の活動が見られた。1998年や2003年の浅部群発地震の後の低周波地震は連続微動様の波形を呈するものもあったがこれらの震源を決定することは困難であった。その後の2011年の活動では低周波地震活動は見られず、2014年の活動で再び発生が認められるようになり、今回2020年の活動でも発生が認められている。なお、気象庁による低周波地震の検測が行われるようになった後は、これらの震央は主に焼岳の北西数kmに決定されている。