JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS15] 地震発生の物理・断層のレオロジー

コンビーナ:吉田 圭佑(東北大学理学研究科附属地震噴火予知研究観測センター)、岡崎 啓史(海洋研究開発機構)、金木 俊也(京都大学防災研究所)、野田 博之(京都大学防災研究所)

[SSS15-10] 室温から高温における単結晶マスコバイトの速度・状態依存摩擦物性の測定

*佐久間 博1Moore Diane2Lockner David2 (1.物質・材料研究機構、2.U.S. Geological Survey)

キーワード:直接効果、熱活性化過程、層状ケイ酸塩、温度効果、速度・状態依存摩擦則

地殻内の変形はしばしば断層沿いに局在化する。そのため、断層の挙動は地殻の変形を理解する上で重要である。速度・状態依存摩擦(RSF)則(Dieterich 1979; Ruina, 1983)は、模擬断層やガウジの摩擦を、すべり速度や保持時間の関数として記述することで大きな成功を収めている。しかしながら、RSF則は半経験則であるため、実験データの無い様々な圧力・温度・物質に外挿することが難しい。そこで非経験的な摩擦法則を構築する必要があり、そのためにはRSF則の背景にある物理を明らかとすべきである。

RSF理論ですべり速度変化に対する応答を決める重要なパラメータは、直接効果と呼ばれる”a”パラメータである。直接効果はこれまで摩擦を起こす接触点における熱活性化過程であると解釈されてきた(Stesky 1978; Heslot et al., 1994)。この熱活性化過程は、実験的に得られた速度変化に対する応答が、経験的なアレニウスの式で解釈することできると事実から単純に導かれたものである。それゆえに、その応答には実際には複数のメカニズムが含まれているかもしれない(Nakatani, 2001)。また、そのメカニズムは物質に依存するかもしれない。例えば、蛇紋石中の転位すべり(Reinen et al., 1992)や花崗岩中の臨界前のクラック成長などがこの直接効果に寄与しているかもしれない。

この直接効果に対する物質の重要な性質を明らかとするためには、結晶学的に良く定義されたせん断面で純粋な物質で速度ステップのせん断試験を行うべきである。本研究では、単結晶白雲母シートについて三軸摩擦試験を行った。実験条件は25~200℃、有効法線応力は100 MPa、すべり速度は0.01~3 μm/sec, 真空乾燥状態である。

この速度ステップ試験から、”a”値が温度の増大とともに明確に減少した。この温度依存性は従来の熱活性化過程理論((Heslot et al. 1994; Sleep 1997)では説明できない。これらの結果は、雲母の直接効果は熱活性化過程に起因するものではないことを示唆している。
この結果を解釈するため、予察的な非平衡分子動力学シミュレーションを白雲母に対して室温から400℃まで実施した。計算コストの問題から、シミュレーションでのすべり速度は実験の速度よりも大幅に大きい ≥1 m/sが、シミュレーションから得られた”a”値は実験と同様に、温度の増加に伴い減少した。これらの結果は巨視的な性質である”a”が原子スケールの摩擦から解釈することできるかもしれないことを示唆している。