[SSS15-17] 2019年5月箱根群発地震活動時に観測された非地震すべり
キーワード:群発地震、非地震すべり
1.はじめに
火山地熱域においてしばしば観測される群発地震の発生要因として、高圧間隙流体圧の拡散や(例えば、Parotidis et al. 2005)や非地震すべりの寄与(例えば、Lohman andMcGuire 2007)が考えられている。日本有数の火山地熱地帯である箱根火山おいても、これまでしばしば活発な群発地震が観測されており、それらの中には震源移動を示すものが観測された。その移動様式は媒質中に高圧間隙流体圧が拡散する速度と概ね整合するため、高圧流体の寄与が示唆されている。(Yukutake et al., 2011)。
箱根火山では2019年5月11日から19日にかけて芦ノ湖下で活発な群発地震活動が観測された。この群発地震活動を解析した結果、過去の研究と類似した拡散的な震源移動に加えて、前駆的な地震活動、相似地震及び群発地震活動に伴う傾斜変動が生じたことが明らかになった。これらの観測結果は、群発地震活動発生に対して高圧流体に加えて、非地震滑りが関与したことを示すものであり、詳細な観測結果を本発表で報告する。
2.データ及び手法
本発表では箱根カルデラ域及び周辺域に設置された定常地震観測点及び臨時地震観測点、合計34観測点を解析に使用した。また、箱根域に設置されているボアホール型傾斜計の観測記録をトレンド及び潮汐補正し、地殻変動データとして使用した。震源決定にはDouble difference法(Waldhauser and Ellsworth, 2000)を用い、近接するイベントペアの走時差データとして、手動検測及び波形相関処理により推定されたものを使用した。また温泉地学研究所のルーチン処理により検知された地震を雛形として、Matched filter法を用いてイベント検出を行った。相似地震の検出には得られた震源カタログをもとに、理論P波走時の前1秒、後ろ5秒の上下動成分の波形記録に対して、相関係数が0.95以上の波形ペアが4観測点以上ある地震群を相似地震グループと定義した。
3.結果
一連の地震活動の震源は東西走向でほぼ鉛直な面上に集中して分布し、震源分布方向は最大地震のメカニズム解の節面の1つと整合する。この面上で5月11日から分布域のほぼ中央にあたる深さ1.5kmから開始し、18日の未明にかけて深さ2.0km付近までゆっくりと移動する(70m/day)前駆的な活動が認められた。前駆的な活動が達した地点を開始点として、18日未明の時点から、拡散的な震源移動を伴う活発な群発地震に発展した。Shapiro et al. (1997)の手法により求めた拡散係数Dは、3.0m2/sec (震源移動速度1.5km/day)であり過去の活動で得られたものと概ね調和的な値であった。相似地震については、5月11日から19日の期間で56グループが得られ、これらのデータをもとにUchida et al. (2003)の手法をもとに、東西走向の断層面上における非地震すべり履歴の推定を行った。ここでは、Somerville et al. (1999)による滑り量とモーメントとのスケーリング則を用いた。これらのモデルに基づいて推定された非地震滑り履歴は、前駆的活動期間中に0.5mm程度の微小なすべりが生じ、18日未明の群発地震開始時期から加速的し、活動が終了した19日時点で積算滑り量が4mm程度達するというものであった。傾斜計記録は、18日から19日までの群発地震活動の期間に近傍の湖尻及び駒ヶ岳観測点で、0.03~0.13μrad程度の微小な変動が認められた。観測された傾斜変動量及びベクトル方向については、震源分布に整合する東西走向の断層面上に、滑り量8mmでやや正断層成分をもつ右横ずれ断層運動を仮定すると、概ね説明できることが分かった。滑り量は相似地震から求められた非地震すべりの積算量とオーダーで一致し、また滑り方向は最大地震のメカニズム解のレイク角と調和的である。
傾斜記録に基づいた断層変位量から推定されるMwは3.7、一方地震積算モーメントから推定されるMwは3.2であった。群発地震活動中開放されたモーメントのうち、約8割が非地震すべりで賄われたことになる。地震の積算モーメントだけでは観測された傾斜変動量は説明できず、群発地震活動発生域に非地震すべりが発生していたことが示された。相似地震から推定された滑り履歴は、5月11日の前駆的な活動時期から傾斜計では検知できない微小な非地震すべりが先行していたことを示唆しており、その滑り域がある大きさに達した段階で、より高速で規模の大きなすべりに発展し、群発地震をトリガしたかもしれない。
謝辞
本研究では気象庁、国立研究開発法人防災科学技術研究所及び東京大学地震研究所の地震観測点データを使用させていただきました。
火山地熱域においてしばしば観測される群発地震の発生要因として、高圧間隙流体圧の拡散や(例えば、Parotidis et al. 2005)や非地震すべりの寄与(例えば、Lohman andMcGuire 2007)が考えられている。日本有数の火山地熱地帯である箱根火山おいても、これまでしばしば活発な群発地震が観測されており、それらの中には震源移動を示すものが観測された。その移動様式は媒質中に高圧間隙流体圧が拡散する速度と概ね整合するため、高圧流体の寄与が示唆されている。(Yukutake et al., 2011)。
箱根火山では2019年5月11日から19日にかけて芦ノ湖下で活発な群発地震活動が観測された。この群発地震活動を解析した結果、過去の研究と類似した拡散的な震源移動に加えて、前駆的な地震活動、相似地震及び群発地震活動に伴う傾斜変動が生じたことが明らかになった。これらの観測結果は、群発地震活動発生に対して高圧流体に加えて、非地震滑りが関与したことを示すものであり、詳細な観測結果を本発表で報告する。
2.データ及び手法
本発表では箱根カルデラ域及び周辺域に設置された定常地震観測点及び臨時地震観測点、合計34観測点を解析に使用した。また、箱根域に設置されているボアホール型傾斜計の観測記録をトレンド及び潮汐補正し、地殻変動データとして使用した。震源決定にはDouble difference法(Waldhauser and Ellsworth, 2000)を用い、近接するイベントペアの走時差データとして、手動検測及び波形相関処理により推定されたものを使用した。また温泉地学研究所のルーチン処理により検知された地震を雛形として、Matched filter法を用いてイベント検出を行った。相似地震の検出には得られた震源カタログをもとに、理論P波走時の前1秒、後ろ5秒の上下動成分の波形記録に対して、相関係数が0.95以上の波形ペアが4観測点以上ある地震群を相似地震グループと定義した。
3.結果
一連の地震活動の震源は東西走向でほぼ鉛直な面上に集中して分布し、震源分布方向は最大地震のメカニズム解の節面の1つと整合する。この面上で5月11日から分布域のほぼ中央にあたる深さ1.5kmから開始し、18日の未明にかけて深さ2.0km付近までゆっくりと移動する(70m/day)前駆的な活動が認められた。前駆的な活動が達した地点を開始点として、18日未明の時点から、拡散的な震源移動を伴う活発な群発地震に発展した。Shapiro et al. (1997)の手法により求めた拡散係数Dは、3.0m2/sec (震源移動速度1.5km/day)であり過去の活動で得られたものと概ね調和的な値であった。相似地震については、5月11日から19日の期間で56グループが得られ、これらのデータをもとにUchida et al. (2003)の手法をもとに、東西走向の断層面上における非地震すべり履歴の推定を行った。ここでは、Somerville et al. (1999)による滑り量とモーメントとのスケーリング則を用いた。これらのモデルに基づいて推定された非地震滑り履歴は、前駆的活動期間中に0.5mm程度の微小なすべりが生じ、18日未明の群発地震開始時期から加速的し、活動が終了した19日時点で積算滑り量が4mm程度達するというものであった。傾斜計記録は、18日から19日までの群発地震活動の期間に近傍の湖尻及び駒ヶ岳観測点で、0.03~0.13μrad程度の微小な変動が認められた。観測された傾斜変動量及びベクトル方向については、震源分布に整合する東西走向の断層面上に、滑り量8mmでやや正断層成分をもつ右横ずれ断層運動を仮定すると、概ね説明できることが分かった。滑り量は相似地震から求められた非地震すべりの積算量とオーダーで一致し、また滑り方向は最大地震のメカニズム解のレイク角と調和的である。
傾斜記録に基づいた断層変位量から推定されるMwは3.7、一方地震積算モーメントから推定されるMwは3.2であった。群発地震活動中開放されたモーメントのうち、約8割が非地震すべりで賄われたことになる。地震の積算モーメントだけでは観測された傾斜変動量は説明できず、群発地震活動発生域に非地震すべりが発生していたことが示された。相似地震から推定された滑り履歴は、5月11日の前駆的な活動時期から傾斜計では検知できない微小な非地震すべりが先行していたことを示唆しており、その滑り域がある大きさに達した段階で、より高速で規模の大きなすべりに発展し、群発地震をトリガしたかもしれない。
謝辞
本研究では気象庁、国立研究開発法人防災科学技術研究所及び東京大学地震研究所の地震観測点データを使用させていただきました。