JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC42] 火山噴火のダイナミクスと素過程

コンビーナ:並木 敦子(広島大学 総合科学研究科 環境自然科学講座)、Christian Huber(Brown University)、Michael Manga(University of California Berkeley)、鈴木 雄治郎(東京大学地震研究所)

[SVC42-P12] 噴出物の組織と粒子物性から推定されるプリニー式噴火の推移変化の要因―浅間天明噴火の例

*水野 樹1前野 深1安田 敦1 (1.東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 東京大学地震研究所)

キーワード:浅間火山、噴火様式、マグマ上昇過程、岩石組織解析

プリニー式噴火はマグマの爆発的な放出により形成される大規模な噴煙柱に特徴づけられる。しかし、一連の活動の中で噴煙柱崩壊による火砕流の発生や溶岩流出など多様な噴火様式を伴い、活動が複雑に変化する場合がある。このような噴火様式の変化を引き起こすメカニズムを明らかにすることは噴火推移の予測の観点において重要な意義を持つ。本研究では浅間火山1783年天明噴火を対象として、噴出物の地質学的記載、化学組成分析、岩石組織の解析を通して噴火直前のマグマ上昇の物理過程を推定し、活動推移を考察する。天明噴火のクライマックスでははじめに噴煙柱形成を伴うプリニー式噴火が発生し、その後吾妻火砕流の噴出へと様式が変化した。噴火様式の変化に伴ってマグマの化学組成が変化し、比較的苦鉄質な組成が卓越するようになる。本研究では天明降下火砕堆積物、吾妻火砕流堆積物について記載、採取を行い、降下火砕堆積物層については層厚1.5mの露頭において粒径などの特徴から16枚の層準に区別した。下半部はクライマックス噴火より前のプリニー式噴火、上半部はクライマックス噴火時に噴出した軽石であり、中部には小規模な火砕流に由来するサージ堆積物とみられる赤褐色シルトが複数枚確認できる。吾妻火砕流の本体は比較的発泡度の低い灰色の本質物を含む。基底部の本質物は薄褐色の軽石を主体としており、噴火様式の変化とマグマの組成変化のタイミングは必ずしも同時ではないことが考えられる。火砕流堆積物の本質物は非溶結部分から採取を行った。
降下軽石層の各層、吾妻火砕流の2種類の本質物について、密度測定および顕微鏡観察・電子顕微鏡による観察・分析を行った。見かけ密度は降下軽石で0.6~0.9g/cm3、軽石質の火砕流本質物で0.7-0.95 g/cm3、スコリア質の火砕流本質物で0.7-1.2 g/cm3である。外部と連結した気泡の全気泡量に対する体積比は降下軽石で87~96%、軽石質の火砕流本質物で83~98%程度、スコリア質の火砕流本質物で91~95%程度である。軽石質の本質物はばらつきが大きいが、火砕流の方がより低い値を示す傾向がみられる。スコリア質の本質物は軽石質の本質物より高い値を示す。すべての試料に共通して斑晶鉱物には斜長石、直方輝石、単斜輝石、Fe-Ti酸化物を含み、ごく稀にかんらん石がみられる。石基ガラスは組成的に不均質な場合がみられ、SiO2量は67wt%, 72wt%にピークを持つバイモーダルな分布を示す。降下軽石は72wt%のものが卓越するが、火砕流本体に含まれる本質物は67wt%のものを多く含む。マグマの温度、含水量については、Putirka (2008) の斜長石―メルト温度計、Waters and Lange (2015) の斜長石―メルト含水量計を用いて計算を行い、SiO2= 67 wt%のマグマでT=1060~1100℃、H2O=0.8~1.0 wt%、SiO2=72 wt%のマグマでT=1000~1015℃、H2O=1.2~1.4 wt%という結果を得た。降下軽石の下半部には変形度の低い気泡が多く含まれるが、上半部に含まれる気泡は連結しているものや引き延ばされたものが多く、一方向に揃っている。火砕流本質物は降下軽石の下半部と似た特徴を示すが、スコリア質のものは気泡壁が比較的厚い。結晶や気泡の量やサイズ、形状の解析にはImageJおよびHigginsによるCSD correctionsを使用した。斑晶量は7~14%程度であり、いずれの試料もマイクロライトに乏しい。空隙率は中部層以外の降下軽石で75%前後、降下軽石の中部層と火砕流本質物が65~67%程度である。気泡数密度は2.0~4.0×1013(m-3)程度で、火砕流本質物は降下軽石より高い傾向を示した。さらに、組織解析や化学分析によって得られたSiO2組成、含水量、温度、気泡数密度の値をToramaru (2006) による気泡数密度減圧速度計に適用し、各層序毎の噴出物について火道上昇時の減圧速度を見積もった。その結果、降下軽石では3.2~4.7×10(Pa/s), 軽石質の火砕流本質物は5.0×10(Pa/s) 前後, スコリア質の火砕流本質物は1.0×108(Pa/s) 前後と推定された。
このように、噴煙柱形成期と火砕流発生時では減圧速度が変化していた可能性がある。また、高い減圧速度を示す中部層の降下軽石は、火砕流の灰神楽に由来すると解釈される赤褐色シルト層に挟まれている。これらの結果から、マグマの減圧速度の上昇が火砕流の発生と密接に関係していたと考えられる。