JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC45] 活動的火山

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

[SVC45-P01] 地磁気全磁力観測から見た雌阿寒岳ナカマチネシリ火口の2019年の活動

*田中 良1 (1.北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センター)

キーワード:熱水系、全磁力観測

雌阿寒岳は北海道東部の阿寒知床火山列の西南端に位置する活火山である.山頂部にポンマチネシリ火口,北東山腹部にナカマチネシリ火口を有している.有史以降の噴火活動としては,1955 年から1966 年までのナカマチネシリ火口とポンマチネシリ火口における水蒸気爆発の断続的な発生,1988,1996,1998,2006,2008 年のポンマチネシリ火口での断続的な水蒸気爆発の発生が挙げられる(北海道防災会議,1976).2008年以降,地震活動はほぼポンマチネシリ火口下に集中しており,2015年には,ポンマチネシリ火口下における消磁を示唆する全磁力変化や膨張を示唆する地盤変動および噴気活動の活発化が観測された.一方,観測網の密度に違いはあるものの,地盤変動ではナカマチネシリ火口下の活動は捉えられておらず,ポンマチネシリ火口下における活動のみが捉えられていた.しかし,2019年2月と7-8月にかけて,ナカマチネシリ火口下の地震の増加が捉えられた(気象庁,2019).また,この地震活動に先駆して,2016年から観測されていた雌阿寒岳北東麓の深さ約3 kmの膨張を示唆する地盤変動が2018年に停滞もしくは収縮に転じていた.本研究では,2013年から継続して行なっているナカマチネシリ火口周辺における全磁力繰り返し観測の結果とナカマチネシリ火口下の地震活動や深部圧力源の消長,また地下比抵抗構造から2019年ナカマチネシリ火口の活動メカニズムを明らかにすることを目的とする.

 ナカマチネシリ火口における全磁力観測は,近年行われていなかった.しかし,ナカマチネシリ火口は現在も噴気活動や湯沼からの活発な熱放出が行われており,火口下での活動が期待されたことから,2013年から繰り返し地磁気全磁力測量を実施してきた.20点あまりの点を繰り返し観測点とし,5秒ごとに2分間測定することで磁気データを取得した.参照点として,気象庁地磁気観測所女満別地磁気観測施設の毎秒値を用い,測定データとの単純差平均値を求めた.

 2013年から2017年までの結果はすでに田中・他(2017,火山学会)で報告した通り,ナカマチネシリ火口南壁下深さ200–300 m に消失磁気モーメントレート1–2×106 A m2 yr-1 の消磁でモデル化されるような全磁力変化が観測された.2017–2018年の全磁力変化の傾向にはほとんど変化がなく,推定した消磁球の位置もこれまでの結果と大きく変わらなかった.ただし,消失磁気モーメントレートは4×106 A m2 yr-1とやや増大した.2018–2019年の全磁力変化は,傾向はそれまでと変わらなかったものの,多くの点で変化量が増大した.この全磁力変化を球状消磁源でモデル化すると,深さ360 m,消失磁気モーメントレート9×106 A m2 yr-1となり,やや深い場所で消磁が加速したことを示唆する結果となった.
 観測ごとの全磁力変化をもとに推定した球状消磁源の位置とTakahashi et al. (2018)で推定された比抵抗構造を比較すると,2014年から2018年までの球状消磁球は,粘土鉱物と熱水の混合物によって構成されると考えられるナカマチネシリ直下の低比抵抗領域内に分布する.一方,2018–2019年の全磁力変化から推定された消磁球はこの低比抵抗領域よりも深部に位置する.また,2019年に増加したナカマチネシリ火口周辺の地震は標高0〜海抜下1 km付近で発生しており,推定された消磁球よりも深い.2016年から観測されていた雌阿寒岳北東麓の深さ約3 kmの膨張を示唆する地盤変動が2019年に停滞もしくは収縮に転じ,その後ナカマチネシリ火口やや深部での地震の増加,キャップロックと熱水が存在する領域を示唆する浅部低比抵抗領域のやや深部でこれまでよりも大きい変化率での消磁が観測された.今後,深部供給源と消磁球の質量収支など,定量的な検討を必要とするが,2019年のナカマチネシリ火口の活動は,深部のマグマ溜まりもしくは熱水溜まりから火口直下への熱水供給過程を反映している可能性がある.