JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC45] 活動的火山

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

[SVC45-P11] 2018年1月23日の本白根山噴火時の傾斜を伴う地震波記録の順解析

*高橋 龍平1前田 裕太1渡辺 俊樹1 (1.名古屋大学大学院環境学研究科)

キーワード:発震機構、傾斜変動

草津白根山は,群馬県北西部に位置する活火山である。草津白根山は,白根山,逢ノ峰,本白根山からなる。最近の草津白根山の火山活動として,これまで主に湯釜付近での地震活動や地殻変動が報告されている(例えば気象庁,2018,火山噴火予知連絡会会報)。一方,本白根山では,1500年前のマグマ噴火を最後に噴火活動が報告されていなかった(濁川ほか,2016,連合大会;寺田,2018)。2018年1月23日午前10時2分ごろより,本白根山で水蒸気噴火が発生した。噴火後,鏡池北火口北側にて東西方向に延びる火口列が確認されている。2018年1月23日の噴火時に観測された地震波の解析による噴火過程に関する研究は,山田ほか(2019,火山学会)で報告されている。この報告では, Nakano and Kumagai (2005)のモーメントテンソルインバージョン法を2つの時間窓のデータに対してそれぞれ異なる周波数帯域で適用している。それは,午前9時59分からの180秒間(周期10-50 s)と,それに続く80 秒間(周期10-30 s)の時間窓である。前者と後者の時間窓から,それぞれ鏡池北火口のすぐ下にある深さ700 mの開口クラックと深さ1000 mの傾斜した円筒状の発震機構が得られた。周期50 sよりも長周期のシグナルのソースプロセスはまだ調べられていない。噴火時には周期300 sの水平動が観測されており,地震計の240秒の固有周期を考慮すると主に傾斜運動を表していると思われる。我々は,地震計に記録された並進運動・傾斜変動の両者を考慮に入れることができるMaeda et al. (2011)の波形インバージョン法を用いて,これらの長周期帯のソースプロセスを調べることを計画している。本発表では,観測波形と仮定したソースメカニズムで引き起こされた並進運動・傾斜変動の両者を考慮した合成波形とを比較した予備的な順解析の結果を示す。

本研究では,防災科学技術研究所が運用する基盤的火山観測網(V-net)が有するN.KSHV(干俣),N.KSNV(二軒屋),N.KSYV(谷沢原)の3観測点の位置での並進運動・傾斜変動のグリーン関数について計算した。計算には3次元差分法を利用し,メッシュサイズは40 m×40 m×40 mを利用した。草津白根山や他の活火山の代表的な構造としてP波速度を2500 m/s,S波速度を1443 m/s,媒質密度を2500 kg/m3を仮定した。発震機構は,火口列直下海抜1200mの位置に,南北開口の鉛直クラック(東西走向)を仮定し,膨張から収縮に転じる震源時間関数を仮定し,時定数を250sとして波形計算を行った。得られたグリーン関数に地震計の並進運動・傾斜変動の応答をコンボリュ―ジョンしそれらを足すことで,並進運動・傾斜変動が考慮された合成波を生成した。その結果,波形とその時定数は,N.KSHVの南北成分とN.KSNVの南北成分を除いて,10 sのローパスフィルターをかけた観測波形と整合的であることが示された。特筆すべき点として,上下動と比べて水平動がはるかに大きくなるという観測事実が理論波形において再現された。これらの結果は,観測された水平動と上下動の波形の特徴が並進運動と傾斜変動の重ね合わせによって説明できることを示唆している。

一方で,今回仮定した震源位置とメカニズムでは,成分間の振幅比や一部の成分の震動方向が観測記録と合わない。今後は波形インバージョン法を用いて,より適切なソースの位置とメカニズムを調べる予定である。

本研究はJSPS科研費19K04016の補助を受けて実施した。