[SVC45-P14] 斑レイ岩捕獲岩の粒間メルトから探る富士火山の珪長質マグマだまり
キーワード:富士火山、斑レイ岩、粒間メルト、クリスタルマッシュ、捕獲岩
富士山1707年宝永噴火の噴出物中には,しばしば斑レイ岩捕獲岩が含まれる(e.g., 安井ほか, 1998).この斑レイ岩捕獲岩には,粒間にガラスとしてメルトを含んでいるものがあり,マグマだまりを構成するクリスタルマッシュの欠片と考えられる.本研究では,この斑レイ岩捕獲岩に含まれる構成鉱物と粒間メルトの岩石記載および化学組成の分析を行い,噴火直前のクリスタルマッシュの状態とマグマプロセスについて検討した.
本研究の斑レイ岩は,粒間メルトの組成に基づいて二つのグループに分類される.Group-A試料では,粒間メルトは流紋岩質(SiO2~72.7-77.6wt.%)で,試料ごとに均質であった.一方Group-B試料では,玄武岩質安山岩~デイサイト質 (SiO2~54.5-74.5wt.%)まで幅広い組成バリエーションが粒間メルトにみられた.メルト+気泡量は,Group-A(23.8-35.2vol.%)の方がGroup-B(0.8-14.8vol.%)に比べて多かった.Group-Aでは,粒間メルトの組成が斜長石中のメルト包有物の最も珪長質に富む組成と一致した.このことから,Group-Aの粒間メルトは,結晶作用の残液メルトと考えられる(以降,メルトAとよぶ).一方,Group-Bでは,粒間メルトがメルト包有物より苦鉄質な組成を示した.さらに,Group-Bの粒間メルトには組成縞模様がみられた.これらのことは,Group-Bのクリスタルマッシュの粒間では浸透流によるメルトの混合がおき,元々珪長質で埋められていた粒間が苦鉄質なメルトに置き換えられることを示唆する.
Group-Bの粒間メルトの組成トレンドには,SiO2の増加に伴って,Al2O3が減少する試料(Group-B1)と増加する試料(Group-B2)が存在した.これら二つの組成トレンドは,同じ苦鉄質端成分メルトが,組成の異なる二つの珪長質端成分メルトと混合することで形成された.Group-B1は,メルトAと苦鉄質端成分メルトとの混合で説明できる.一方でGroup-B2は,SiO2含有量が~68.0wt.%を持つデイサイト質組成のメルト(メルトB)と苦鉄質端成分メルトの混合によって生じた.したがって,富士火山地下の斑レイ岩質クリスタルマッシュ内には,流紋岩質,デイサイト質,苦鉄質の最低3つの端成分メルトが存在することと考えられる.
珪長質端成分メルトAおよびBの温度・含水量を,Fe-Ti酸化物温度計(Andersen et al., 1993)と斜長石-メルト間An分配温度含水量計(Putirka, 2008)を用いて見積もった.流紋岩質のメルトAの温度は821-827℃を示し,このときのメルト含水量が7.2-7.6wt.%であった.一方,デイサイト質のメルトBの温度は856-871℃を示し,メルト含水量は8.2-9.0wt.%であった.これらの温度・含水量の値を用いてH2O飽和深度を見積もると,メルトAが~7-10km,メルトBが~12-13kmとなった.よって,富士火山地下には~8-10kmに流紋岩質メルトだまりが,~12-15kmにデイサイト質メルトを粒間に含むクリスタルマッシュが存在すると考えられる.これらの深さは,富士火山地下で低周波地震の発生する地震波低速度領域と一致する.
本研究の斑レイ岩は,粒間メルトの組成に基づいて二つのグループに分類される.Group-A試料では,粒間メルトは流紋岩質(SiO2~72.7-77.6wt.%)で,試料ごとに均質であった.一方Group-B試料では,玄武岩質安山岩~デイサイト質 (SiO2~54.5-74.5wt.%)まで幅広い組成バリエーションが粒間メルトにみられた.メルト+気泡量は,Group-A(23.8-35.2vol.%)の方がGroup-B(0.8-14.8vol.%)に比べて多かった.Group-Aでは,粒間メルトの組成が斜長石中のメルト包有物の最も珪長質に富む組成と一致した.このことから,Group-Aの粒間メルトは,結晶作用の残液メルトと考えられる(以降,メルトAとよぶ).一方,Group-Bでは,粒間メルトがメルト包有物より苦鉄質な組成を示した.さらに,Group-Bの粒間メルトには組成縞模様がみられた.これらのことは,Group-Bのクリスタルマッシュの粒間では浸透流によるメルトの混合がおき,元々珪長質で埋められていた粒間が苦鉄質なメルトに置き換えられることを示唆する.
Group-Bの粒間メルトの組成トレンドには,SiO2の増加に伴って,Al2O3が減少する試料(Group-B1)と増加する試料(Group-B2)が存在した.これら二つの組成トレンドは,同じ苦鉄質端成分メルトが,組成の異なる二つの珪長質端成分メルトと混合することで形成された.Group-B1は,メルトAと苦鉄質端成分メルトとの混合で説明できる.一方でGroup-B2は,SiO2含有量が~68.0wt.%を持つデイサイト質組成のメルト(メルトB)と苦鉄質端成分メルトの混合によって生じた.したがって,富士火山地下の斑レイ岩質クリスタルマッシュ内には,流紋岩質,デイサイト質,苦鉄質の最低3つの端成分メルトが存在することと考えられる.
珪長質端成分メルトAおよびBの温度・含水量を,Fe-Ti酸化物温度計(Andersen et al., 1993)と斜長石-メルト間An分配温度含水量計(Putirka, 2008)を用いて見積もった.流紋岩質のメルトAの温度は821-827℃を示し,このときのメルト含水量が7.2-7.6wt.%であった.一方,デイサイト質のメルトBの温度は856-871℃を示し,メルト含水量は8.2-9.0wt.%であった.これらの温度・含水量の値を用いてH2O飽和深度を見積もると,メルトAが~7-10km,メルトBが~12-13kmとなった.よって,富士火山地下には~8-10kmに流紋岩質メルトだまりが,~12-15kmにデイサイト質メルトを粒間に含むクリスタルマッシュが存在すると考えられる.これらの深さは,富士火山地下で低周波地震の発生する地震波低速度領域と一致する.