JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC45] 活動的火山

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

[SVC45-P28] メルト包有物から探る霧島・御鉢火山1235年準プリニー式噴火のプレ噴火プロセス

*岩城 吉春1石橋 秀巳2外西 奈津美3安田 敦3石川 徹4 (1.静岡大学院総合科学技術研究科理学専攻、2.静岡大学理学部地球科学科、3.東京大学地震研究所、4.霧島ジオパーク推進連絡協議会 )

キーワード:御鉢火山、メルト包有物、霧島火山群、マグマ溜まり、バンデッドパミス

本研究では,霧島・御鉢火山1235年準プリニー式噴火の噴出物層である高原テフラb層に含まれるスコリア,軽石中の石基ガラス,メルト包有物とそのホスト鉱物について化学組成分析を行い,そのプレ噴火プロセスについて検討した.本研究で試料とした高原テフラb層は,1235年噴火のクライマックスステージの火砕物である.この層は主にスコリアから構成されるが,最上部に少量の軽石,バンデットパミスを含む.スコリアは,斜長石,かんらん石,斜方輝石,単斜輝石,軽石は,斜長石,斜方輝石,単斜輝石を斑晶として含んでいた.バンデッドパミスは,スコリア・軽石にそれぞれ類似した苦鉄質部とケイ長質部から構成され,その境界は曲線的かつシャープであった.これらの噴出物中に含まれるメルト包有物・石基ガラスと鉱物化学組成分析の結果から,次のことがわかった.(1)軽石に含まれる石基ガラスおよび斜長石中のメルト包有物の組成はSiO2~74.9wt.%でケイ長質だった(この組成のメルトを以後,メルトAとよぶ).(2)スコリア中の大部分のメルト包有物の示す組成バリエーションは,SiO2~56.9wt.%の共通組成メルト(メルトBとよぶ)を出発物質とする,メルト包有物捕獲後のホスト鉱物の結晶作用(PEC)で説明できる.(3) バンデットパミスは,その苦鉄質部とケイ長質部に含まれるメルト・鉱物の組成がそれぞれ,スコリアと軽石に含まれるものと一致することから,両者のミングリングによって形成された.(4)斜長石中のメルト包有物のうち,石基とつながっているものの組成バリエーションは,PECでは説明できず,噴火直前に流入してきた玄武岩質安山岩メルトとの混合による可能性がある.

メルトAおよびBについてそれぞれ温度と含水量を見積もったところ,メルトAでは温度~932℃,含水量~1.2wt.%,メルトBでは温度~1040℃,含水量が~4.6wt.%の値を得た.メルトがH2Oに飽和していたと仮定すると,メルトA・Bの蓄積圧力(深さ)はそれぞれ,~12MPa(~0.5km),~210MPa(~8.6km),深度と見積もられた.以上の結果から,御鉢1235年のプレ噴火プロセスを次のように提案する.まず,深度~0.5kmにメルトA,深度~8.6kmにメルトBを主体とするマグマ溜まりが存在した.メルトBに玄武岩質安山岩メルトが流入し,混合した苦鉄質マグマが上昇した.上昇したマグマがメルトAのマグマ溜まりを機械的に取り込んで噴出した.

 メルトBの組成は,新燃岳2011年噴火のかんらん石中のメルト包有物の組成に類似する.また, Suzuki et al., (2013)で推定されている新燃岳の苦鉄質マグマ溜まりの深さは,メルトBについて見積もられた蓄積深度と一致する.このことは,深度8.6kmにある苦鉄質マグマ溜まりを,御鉢火山と新燃岳が共有している可能性を示唆する.一方,新燃岳に比べて御鉢のケイ長質マグマはより分化していて,含水量が低く,粘性率が高い.新燃岳に比べて御鉢の噴出物は系統的により苦鉄質であるが,この違いは,両火山間でのケイ長質マグマの蓄積状態の違いを反映している可能性がある.