JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC45] 活動的火山

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

[SVC45-P31] 桜島の噴火に伴うGPS衛星電波の搬送波位相遅延量の変化
-2013年から2019年のデータ解析-

*朝倉 由香子1西村 太志1太田 雄策1加納 将行1 (1.東北大学大学院理学研究科)

キーワード:火山噴煙、GNSS、桜島

近年、気象用レーダ等を利用して火山噴煙を検知し、噴煙量を定量化する研究が進められている。また、GPSによって噴煙の運動がとらえられることが知られている(Ohta andIguchi 2015)。これは、GPS衛星から送信されている信号が水蒸気中を伝搬することにより、視線方向の位相残差が大きくなる、すなわち遅延が生じることを利用したものである。彼らは2012年7月21日の噴煙高度5000mまで達した桜島での噴火を解析し、噴煙中を伝搬した搬送波の位相が、噴煙中の水蒸気によって遅延することを示した。この結果は多くの火山で、山体変形を調べるために展開されているGPSを利用することで、噴煙もモニタリングできる可能性を示唆している。しかしながら、この論文では規模の大きな噴火1例のみしか示されておらず、頻繁発生する他の噴火に対しても適用できるか、などその有用性はよくは示されていない。そこで、今回、桜島で近年発生した比較的規模の大きな噴火を対象として、GPS信号の搬送波位相の変化を網羅的に調べたので報告する。
 2013年1月から2019年12月までの桜島で発生した噴火のうち、鹿児島地方気象台により噴煙高度が4500m以上と報告された9つの噴火を対象とした。国土地理院が提供するGEONETの観測点のうち、桜島本土にある3つの観測点(0719, 0720, 0721)を利用し、30秒サンプリングの2種類の電波(L1、L2)の搬送波位相データを使用した。
 解析は、以下の手順で行った。はじめに、解析対象の噴火に対して、噴火発生時刻の前後1時間に、観測点から見えるGPS衛星を選ぶ。次に、水平線近くでは大気などの影響を強く受けることを考慮して、これらの衛星のうち軌道が仰角17度以上となる期間を抽出する。解析期間のGPSデータに対して、Gipsy-Xを用いて搬送波位波相遅延量の時間変化を算出した。
 9つの噴火について、GPS衛星のSky Plotをもとに、GPS観測点から衛星への視線方向を考慮しながら、噴火発生時と搬送波位相遅延量の関係を調べた。その結果、2018年7月16日の噴煙高度4600mの噴火では、遅延量が大きく増加する異常が0719観測点でとらえられた。 しかしながら、この噴火に対しては他の観測点や衛星の組み合わせ、あるいは他の噴火について、異常が認められなかった。そこで、個々の観測点と衛星のペア毎をみて異常が認められないとしても、遅延量全体でみると異常が検知できるのではないかと考え、噴火の発生前1時間と発生後1時間のそれぞれについて、すべての観測点と衛星のペアで求められる遅延量の平均と標準偏差を求めた。その結果、27個のデータ(9つの噴火×3観測点)のうち22個で平均値上昇し、その上昇値の平均が0.084cmであった。また、標準偏差は17個で大きくなり、その平均値は0.085cmであった。
 このように、噴火前後で搬送波位相遅延量の大きな変化を示す衛星が認められない場合においても、噴煙によって搬送波位相遅延量がやや大きくなることがわかった。しかしながら、平均値の変化量は標準偏差に比べてわずかである。
 規模の小さな噴火を対象に加えるとともに、天候や磁気嵐などの環境要因、GPS観測点と衛星のパスなどを精査し、変化が有意であるか調べる必要がある。