JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC45] 活動的火山

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

[SVC45-P37] 気象庁一元化震源とETASモデルによる火山活動定量化の試み

*前田 裕太1 (1.名古屋大学)

キーワード:火山地震学、事象分岐

先行現象を用いた火山活動分岐判断指標の作成には多数の噴火事例について同一の手法・基準で定量的に先行現象を比較・評価する必要がある。このような解析が可能な数少ないデータの1つに気象庁一元化震源が挙げられる。一元化震源では1923年以降の全国の地震の発生時刻・位置・マグニチュード等が網羅され、その中には火山性地震も含まれる。ところで噴火に先行する地震活動は先行期間や地震数が事例毎にまちまちであるので、地震活動と火山活動の間に成り立つ定量的関係を見出すには時間長や地震数を陽に含まない形で地震活動の活発化度合いを定量化する必要があると思われる。そのような定量化手法の候補としてEpidemic Type Aftershock-Sequences (ETAS)モデル(Ogata, 1988)が考えられる。ETASモデルでは地震活動を定常的な活動と過去の全ての地震がその規模に応じて引き起こす余震の重ね合わせで表現する。ETASモデルから予測される累積地震発生強度(変換時間)と実際の累積地震数との関係が1本の直線にならない場合、その傾きの変化が地震活動の活発化度合いを表すと考えられる。本研究では一元化震源とETASモデルを用いた火山性地震活動の定量化を試みた。

まず一元化震源において火山性地震活動がどの程度正確に反映されているのかを評価するため、御嶽山周辺域において一元化震源と名古屋大学が独自に決定している震源(名大震源)を比較した。その結果、一元化震源では地震の総数が名大震源の1/7ほどになるものの、地震活動の空間分布と時間変化の特徴は両カタログでよく合致することを確認できた。

次に全国の活火山において一元化震源から火山性地震を共通の手法・基準で抽出することを試みた。そのためにまず各火山の位置から東西南北20 km以内、深さ15 km以内の地震を3次元空間分布に基づいて混合正規分布モデルにより15クラスタに分割した。重心位置が火山に最も近い正規分布に対応するクラスタの地震を火山性地震と見なした。但し重心位置が火山から5 km以内(十分に火山に近い)かつ1標準偏差の長軸半径が5 km以内(広がりすぎていない)という条件を付けた。その結果、45火山で火山性地震を抽出できたが、阿蘇山や霧島山などいくつかの主要火山を含む36火山では条件に合うクラスタが無く、島嶼部の29火山では地震数が混合正規分布のパラメータ数を下回るためクラスタリングを行うことができなかった。

抽出した火山性地震についてETASモデルのパラメータを求め、変換時間と累積地震数の関係をプロットした。その結果、御嶽山では2007年と2014年の噴火前の地震活動活発化が捉えられ、2014年の方が活発化度合いがより顕著であった。このことは噴火規模とも整合的である。桜島では2015年ダイク貫入に伴う地震活動活発化とその後の数段階にわたる沈静化が捉えられた。箱根における2015年の地震活動活発化は火山から2番目、3番目に近いクラスタにおいて最も良く捉えられた。今後は火山性地震クラスタの抽出方法の改良を進めるとともに、より多くの火山でETASモデルの性能評価を進め、火山性地震活動と噴火活動の関係の定量化を試みる予定である。

本研究は文部科学省の建議「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第2次)」に基づく課題THK13「多項目観測データに基づく火山活動のモデル化と活動分岐判断指標の作成」の補助を受けて実施した。ETASモデルの解析には統計数理研究所の公開ソフトウェアSASeis2006を使用した。