JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC46] 火山防災の基礎と応用

コンビーナ:宝田 晋治(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、吉本 充宏(山梨県富士山科学研究所)、千葉 達朗(アジア航測株式会社)、久保 智弘(山梨県富士山科学研究所)

[SVC46-P03] 四国西部宇和盆地における阿蘇4降下テフラ層厚の妥当性

*中村 千怜1辻 智大2池田 倫治3西坂 直樹4大西 耕造4榊原 正幸5,6 (1.株式会社ナイバ、2.山口大学大学院創成科学研究科、3.株式会社四国総合研究所、4.四国電力株式会社、5.愛媛大学社会共創学部、6.総合地球環境学研究所研究所)

キーワード:阿蘇4、降下テフラ、層厚、宇和盆地

約89 kaの阿蘇4噴火に伴う降下テフラの体積は,北海道東部での層厚15 cmを基に,400 km3以上と推定されている(町田・新井,2003).近年,宝田(2019)によって,陸域及び海域の阿蘇4降下テフラの既往層厚データから等層厚線図を作成して総噴出量を推定する試みが進められており,阿蘇4噴火が従来よりも大きな噴出量であったとの考えが示されている.このような阿蘇4噴火の総噴出量の推定に際しては,遠方の北海道東部での層厚の扱いとともに,給源に比較的近い九州~四国の層厚評価が重要である.層厚を評価する際,テフラ層には初生的な降下テフラ層だけでなく,再移動して堆積した再堆積性テフラ層が含まれることが問題となる.層厚により噴出量の推定が大きく変わるため,初生的な層厚を求めることが重要となる.

四国における阿蘇4降下テフラの良質な層厚データとして,宇和盆地UTコアの31 cmが報告されている(Tsuji et al., 2018).四国西部に位置する宇和盆地は,九州地方の火山から比較的近距離にある.そのため,爆発的な噴火からあまり爆発的でない噴火まで様々な噴火イベントを示すテフラが堆積することが期待される位置にあり,事実,宇和盆地には約70万年間の連続的な堆積物中に多数のテフラが報告されている(例えば,Tsuji et al., 2018).

宇和盆地における阿蘇4降下テフラの層厚を評価する上では,UTコア1本の層厚でなく,複数のコアで層厚を確認することが望ましい.そこで,本研究では宇和盆地における阿蘇4降下テフラの層厚の妥当性を検討するため,UTコアより約500 m北の位置で採取されたコア(UT-iwkコア)における阿蘇4降下テフラの初生的な層厚を求めた.その結果,UT-iwkコアの阿蘇4降下テフラの層厚は,UTコアよりもやや薄く,20~30 cmであった.層厚の決定は,①半割コア試料およびはぎとり試料での堆積構造の肉眼観察,②異質岩片の有無,③火山ガラスの粒径変化,の記載を基に行った.UT-iwkコアの阿蘇4降下テフラは,ラミナが認められず,異質岩片の含有量が5%以下であった.最下部は最大粒径3 mmの軽石濃集層からなる.下部では軽石および粗粒な結晶を含む粗粒部が見られ,上部に向かって火山ガラスの平均粒径がやや減少し,弱い上方細粒化を示した.このような詳細な記載によって,初生的な層厚を求めることができると考えられる.

加えて,宇和盆地における阿蘇4降下テフラの報告として,UTコアから北西約1 kmの地点で採取されたB1コア(曽山ほか,2012;Soyama et al., 2013)があり,その層厚は約30 cmである.これら3本のコアにおける阿蘇4降下テフラの産出標高に着目すると,UTコアで206.00 m,B1コアで206.93 m,UT-iwkコアで206.17 mである.ほぼ同じ標高の3地点でいずれも20~30 cmの層厚を有し,四国西部における阿蘇4降下テフラの初生的な降灰層厚は30 cm程度であると推定され,この層厚データは噴出量の算出に有用であると考えられる.

【引用文献】
町田 洋・新井房夫(2003)新編火山灰アトラス[日本列島とその周辺].東京大学出版会.
曽山智加・榊原正幸・池田倫治・辻 智大(2012)愛媛県西部・卯之町ボーリングコアにおける阿蘇4火山灰の岩石学的研究.日本火山学会講演予稿集,P56,155.
Soyama C., Sakakibara M., Sano S., Ikeda M. and Tsuji T. (2013) Volcanic petrology of Aso-4 tephra (ca. 90 ka) in western Shikoku, southwest Japan. Proceeding of 1st International Seminar of Environmental Geoscience in Asia, 1-5.
宝田晋治(2019)阿蘇4・姶良・洞爺噴火の噴出量推定.日本火山学会講演予稿集,A3-14,46.
Tsuji T., Ikeda M., Furusawa A., Nakamura C., Ichikawa K., Yanagida M., Nishizaka N., Ohnishi K. and Ohno Y. (2018) High resolution record of Quaternary explosive volcanism recorded in fluvio-lacustrine sediments of the Uwa basin, southwest Japan. Quaternary International, 471, 278-297.