[SVC47-06] 北海道南西部,濁川火山における地質学・岩石学的研究
キーワード:じょうご型、カルデラ、マグマ供給系、噴火推移、大規模噴火
はじめに
北海道南西部に位置する濁川火山は,約14 kaに発生した噴火によりカルデラを形成した.本カルデラは,内部構造の検討から,じょうご型カルデラの典型例とされる(黒墨・土井,2003).しかし,濁川カルデラ形成噴火の推移は,研究者間で見解が異なる(柳井ほか,1992と名越,1994).濁川カルデラ形成噴火の噴火推移を再検討し,マグマ供給系を明らかにする為,濁川周辺における野外調査と14C年代測定,噴出物の室内分析(構成物分析,全岩化学組成,鉱物化学組成分析等)を行った.
層相記載
濁川火山噴出物は,再堆積層及び土壌の挟在により,2ステージに分けられる(下位からステージ1,2).ステージ1の堆積物は,層相から,6ユニットに細分できる(下位からUnit-1~6).一方ステージ2は,1ユニット(Unit-7)から成る.Unit-1~4は,細粒火山灰を基質にもつ火砕サージ堆積物と軽石主体の降下軽石堆積物の互層から成る(Unit-1,3が火砕サージ,Unit-2,4 が降下軽石).Unit-5は,異質岩片に富む,厚い火砕流堆積物で,最大規模のユニットである(給源より東方約5kmで層厚約200㎝以上).Unit-6は,火山豆石を含む火砕サージ堆積物である.Unit-7は塊状無層理の火砕流堆積物であるが,その規模はUnit-5よりも小さい(給源より東方約5kmで層厚約50㎝).
また,Unit-6,7間に挟在する土壌の年代は,暦年較正値で,12,850-12,701 cal BP (2σ)である.
岩石学的特徴
本質物質は,白色軽石,灰色軽石及び縞状軽石である.さらに灰色軽石は全岩微量成分元素組成から低Ba灰色軽石,高Ba灰色軽石に分けられる(高Ba灰色軽石:Ba 600ppm以上).白色軽石は全ユニットで共通し認められ,低Ba灰色軽石・縞状軽石は,Unit-2以降で認められる.高Ba灰色軽石はUnit-3以降に認められるが産出量は少ない.白色軽石の斑晶組合せは,斜長石・角閃石・直方輝石・磁鉄鉱・チタン鉄鉱,石英で,単斜輝石をわずかに含む.両灰色軽石は,白色軽石と類似の斑晶組合せを持つが,単斜輝石をより多く含むほか,輝石の反応縁を持つ角閃石が存在する点で異なる.
白色軽石(SiO2量61~64wt.%)と低Ba灰色軽石(SiO2量53~61wt.%)は,ハーカー図で共に直線トレンドを形成し,縞状軽石はその中間に点示される.高Ba灰色軽石(SiO2量55~56wt.%)は,上記の直線トレンドとは,異なる組成域に点示される.
全体に,斜長石コアは,An47-95と組成幅が広く,いずれの軽石においても,An54,76~80付近にピークを持つバイモーダルな分布を示す.直方輝石コアの組成範囲は,Mg#66-70である.白色軽石及びUnit-2~6の両灰色軽石はMg#66付近にピークを持つが,Unit-7の低Ba灰色軽石だけが,Mg#68-70とMg#に富む特徴をもつ.両灰色軽石の単斜輝石コアは,Mg# 64~80である.低Ba灰色軽石の単斜輝石コア組成は,Unit-2~6でMg#74~76付近にピークを示すが,Unit-7ではMg#68~76と比較的Mg#に乏しい.
議論
Unit-1,3は,破砕の進んだ極細粒の基質に富む火砕サージであることから,マグマと水の関与を示唆する一方で,Unit-2,4は,淘汰の良い降下軽石層である.このことから,Unit-1~4では,プリニー式噴火に伴って噴煙中が不安定となるようなマグマ水蒸気爆発が繰り返し発生したと考えられる.Unit-5は,異質岩片量が卓越することから,噴出時に火道が拡大したと考えられる.続くUnit-6は,火山豆石を含むことから,再びマグマ水蒸気爆発が発生しその後,土壌が形成されるような顕著な休止期を経て,再度小規模な火砕流(Unit-7)を発生させて噴火は終息したと考えられる.
白色軽石と低Ba灰色軽石および縞状軽石のなす直線トレンドや,両軽石における非平衡な斑晶鉱物の共存から,珪長質端成分マグマと低Ba苦鉄質端成分マグマの混合が示唆される.一方,高Ba灰色軽石の組成変化傾向は,Baに富むもう一つの苦鉄質端成分マグマを想定すると,上記の直線トレンドの中間点と高Ba苦鉄質端成分を結ぶように点示されることから,珪長質端成分マグマ―低Ba苦鉄質端成分マグマによる混合マグマと,高Ba苦鉄質端成分マグマの混合物と解釈できる.
Unit-1から白色軽石が,Unit-2以降で低Ba灰色軽石が出現することから,Unit-1噴出前には,上部の珪長質マグマ,下部の低Ba苦鉄質マグマからなる成層マグマ溜りが存在し,噴火開始時に白色軽石に代表される珪長質マグマが噴出,続くUnit-2以降は,苦鉄質マグマの吸い上げにより,両マグマが混合しつつ噴火したと考えられる.続くUnit-3では,高Ba苦鉄質端成分マグマの関与が開始した.これは,珪長質マグマと低Ba苦鉄質マグマの混合マグマに混合して,噴出したと考えられる.Unit-7を含むすべてのユニット間で,白色軽石の岩石学的特徴が共通することから,休止期後も同質の珪長質マグマが活動したと考えられる.一方,Unit-7の灰色軽石中に含まれる直方輝石斑晶のコアがUnit-2~6よりも有意に高いMg#を持つことから,新たな苦鉄質マグマの貫入が示唆される.
参考文献:黒墨秀行・土井宜夫, 2003, 火山, 48, 259-274
柳井ほか, 1992, 地質雑,98, 125-136.
名越, 1994, 日本火山学会講演要旨, 137.
北海道南西部に位置する濁川火山は,約14 kaに発生した噴火によりカルデラを形成した.本カルデラは,内部構造の検討から,じょうご型カルデラの典型例とされる(黒墨・土井,2003).しかし,濁川カルデラ形成噴火の推移は,研究者間で見解が異なる(柳井ほか,1992と名越,1994).濁川カルデラ形成噴火の噴火推移を再検討し,マグマ供給系を明らかにする為,濁川周辺における野外調査と14C年代測定,噴出物の室内分析(構成物分析,全岩化学組成,鉱物化学組成分析等)を行った.
層相記載
濁川火山噴出物は,再堆積層及び土壌の挟在により,2ステージに分けられる(下位からステージ1,2).ステージ1の堆積物は,層相から,6ユニットに細分できる(下位からUnit-1~6).一方ステージ2は,1ユニット(Unit-7)から成る.Unit-1~4は,細粒火山灰を基質にもつ火砕サージ堆積物と軽石主体の降下軽石堆積物の互層から成る(Unit-1,3が火砕サージ,Unit-2,4 が降下軽石).Unit-5は,異質岩片に富む,厚い火砕流堆積物で,最大規模のユニットである(給源より東方約5kmで層厚約200㎝以上).Unit-6は,火山豆石を含む火砕サージ堆積物である.Unit-7は塊状無層理の火砕流堆積物であるが,その規模はUnit-5よりも小さい(給源より東方約5kmで層厚約50㎝).
また,Unit-6,7間に挟在する土壌の年代は,暦年較正値で,12,850-12,701 cal BP (2σ)である.
岩石学的特徴
本質物質は,白色軽石,灰色軽石及び縞状軽石である.さらに灰色軽石は全岩微量成分元素組成から低Ba灰色軽石,高Ba灰色軽石に分けられる(高Ba灰色軽石:Ba 600ppm以上).白色軽石は全ユニットで共通し認められ,低Ba灰色軽石・縞状軽石は,Unit-2以降で認められる.高Ba灰色軽石はUnit-3以降に認められるが産出量は少ない.白色軽石の斑晶組合せは,斜長石・角閃石・直方輝石・磁鉄鉱・チタン鉄鉱,石英で,単斜輝石をわずかに含む.両灰色軽石は,白色軽石と類似の斑晶組合せを持つが,単斜輝石をより多く含むほか,輝石の反応縁を持つ角閃石が存在する点で異なる.
白色軽石(SiO2量61~64wt.%)と低Ba灰色軽石(SiO2量53~61wt.%)は,ハーカー図で共に直線トレンドを形成し,縞状軽石はその中間に点示される.高Ba灰色軽石(SiO2量55~56wt.%)は,上記の直線トレンドとは,異なる組成域に点示される.
全体に,斜長石コアは,An47-95と組成幅が広く,いずれの軽石においても,An54,76~80付近にピークを持つバイモーダルな分布を示す.直方輝石コアの組成範囲は,Mg#66-70である.白色軽石及びUnit-2~6の両灰色軽石はMg#66付近にピークを持つが,Unit-7の低Ba灰色軽石だけが,Mg#68-70とMg#に富む特徴をもつ.両灰色軽石の単斜輝石コアは,Mg# 64~80である.低Ba灰色軽石の単斜輝石コア組成は,Unit-2~6でMg#74~76付近にピークを示すが,Unit-7ではMg#68~76と比較的Mg#に乏しい.
議論
Unit-1,3は,破砕の進んだ極細粒の基質に富む火砕サージであることから,マグマと水の関与を示唆する一方で,Unit-2,4は,淘汰の良い降下軽石層である.このことから,Unit-1~4では,プリニー式噴火に伴って噴煙中が不安定となるようなマグマ水蒸気爆発が繰り返し発生したと考えられる.Unit-5は,異質岩片量が卓越することから,噴出時に火道が拡大したと考えられる.続くUnit-6は,火山豆石を含むことから,再びマグマ水蒸気爆発が発生しその後,土壌が形成されるような顕著な休止期を経て,再度小規模な火砕流(Unit-7)を発生させて噴火は終息したと考えられる.
白色軽石と低Ba灰色軽石および縞状軽石のなす直線トレンドや,両軽石における非平衡な斑晶鉱物の共存から,珪長質端成分マグマと低Ba苦鉄質端成分マグマの混合が示唆される.一方,高Ba灰色軽石の組成変化傾向は,Baに富むもう一つの苦鉄質端成分マグマを想定すると,上記の直線トレンドの中間点と高Ba苦鉄質端成分を結ぶように点示されることから,珪長質端成分マグマ―低Ba苦鉄質端成分マグマによる混合マグマと,高Ba苦鉄質端成分マグマの混合物と解釈できる.
Unit-1から白色軽石が,Unit-2以降で低Ba灰色軽石が出現することから,Unit-1噴出前には,上部の珪長質マグマ,下部の低Ba苦鉄質マグマからなる成層マグマ溜りが存在し,噴火開始時に白色軽石に代表される珪長質マグマが噴出,続くUnit-2以降は,苦鉄質マグマの吸い上げにより,両マグマが混合しつつ噴火したと考えられる.続くUnit-3では,高Ba苦鉄質端成分マグマの関与が開始した.これは,珪長質マグマと低Ba苦鉄質マグマの混合マグマに混合して,噴出したと考えられる.Unit-7を含むすべてのユニット間で,白色軽石の岩石学的特徴が共通することから,休止期後も同質の珪長質マグマが活動したと考えられる.一方,Unit-7の灰色軽石中に含まれる直方輝石斑晶のコアがUnit-2~6よりも有意に高いMg#を持つことから,新たな苦鉄質マグマの貫入が示唆される.
参考文献:黒墨秀行・土井宜夫, 2003, 火山, 48, 259-274
柳井ほか, 1992, 地質雑,98, 125-136.
名越, 1994, 日本火山学会講演要旨, 137.