[SVC47-P14] エトナ火山・溶岩チューブ洞窟形状による溶岩流温度の同定法
キーワード:溶岩チューブ、エトナ火山、溶岩温度、降伏値
[はじめに]
富士山と同様にエトナ火山には過去に形成された溶岩チューブ洞窟が多く存在する。エトナ火山の溶岩チューブ洞窟の高さと傾斜度から得られる降伏値を用いて溶岩チューブ形成時の溶岩流温度の同定を試みた。またその温度からその溶岩流の粘性係数も推定した。
[溶岩チューブ洞窟から得られる溶岩降伏値]
エトナ火山の主要な溶岩チューブ洞窟1)のリストとその長さ、空洞高さ,傾斜角を表1に示す。
チューブ洞窟はチューブ内からのビンガム流体である溶岩の抜け出しと考えると,次の傾斜チューブ内の流動限界条件2)から降伏値を得ることが出来る: fB=H(ρgsinα)/4 ··········(eq-1)
ここで,fBは降伏値,Hは空洞高さ,ρは溶岩密度,gは重力加速度,αは傾斜角度である。(eq-1)から求めた洞窟からの降伏値を表1の右の欄に示す。降伏値は1.6x104~1.1x105 dyne/cm2(1.6x103~1.1x104Pa)の範囲にある。
[エトナ火山の降伏値と粘性係数の温度変化]
エトナ火山は溶岩流の実測での降伏値と粘性係数の温度依存データが得られている唯一の例である3,4,5)。そのデータから回帰式を作成すると,
log10fB=35.1836-0.0289θ, (θは摂氏温度,降伏値fBはdyne/cm2) ··········(eq-2)
log10ηB=24.0469-0.0175θ, (θは摂氏温度,粘性係数ηBはpoise)··········(eq-3)
溶岩チューブ洞窟形成温度は洞窟から得られた降伏値1.6x104~1.1x105 dyne/cm2(1.6x103~1.1x104Pa)により降伏値温度曲線(eq-2)から判断すると1044℃~1073℃の範囲にある。その時の温度に対する溶岩粘性係数は粘性係数温度曲線(eq-3)によると1.9x105~6.2x105 poise(1.9x104~6.2x104 Pa.s)の範囲となる。
なお,1991-1993年溶岩流で形成されたCutrona洞窟から得られた降伏値2.4x103~4.8x103Paから求められる温度1056~1067℃と,粘性係数2.6x104~4.0x104Pa.sは, Calvari6)らがその洞窟近傍のSerra Pirciata(噴火口から600mの距離の標高2000m)地点の溶岩流で実測された温度である1020~1080℃と0.8 x104~1.9x104Pa.sの粘性係数に近い値を示している。
[おわりに]
あらかじめ、溶岩降伏値の温度変化依存曲線を得ておくことにより,洞窟の空洞高さと傾斜度から降伏値を得ることにより洞窟形成時の溶岩温度を同定することが可能である。またその温度により溶岩粘性係数の温度依存曲線から粘性係数を得ることが出来る。したがって,過去に温度が実測されていない溶岩チューブ洞窟の形成時の溶岩流の温度と粘性係数を同定するのにこの方法が利用できると考えられる。
参考文献:
1)S.Calvari,M.Luizzo(1999):”Excursion Guide,Lava tubes and lava caverns Etna volcano,1999”,9th International Symposium on Vulcanospeleology,Catania,Italy,11-19 September,1999.
2)本多力(2001):B-10富士山溶岩洞窟の形成機構と得られる知見,2001年日本火山学会秋季大会講演集.
3)水山高久,栗原淳,河村和夫,北原一平(1989):溶岩流のシミュレーションと対策手法,新砂防 Vol.42 No.4(165) Nov.1989
4)H.Pinkerton,and R.S.J.Sparks(1978):Field measurements of the rheology of lava., Nature (London), Vol. 2, 76, No.5686, pp.383-385,1978
5)M.Dragoni,M.Bonafede,and E.Boschi(1986):Downslope flow models of a Bingham liquid: Implications for lava flows. Jour. Volcanol. Geotherm Res., 30, pp. 305-325, 1986
6)S.Calvari,M.Coltelli,M.Neri,M.Pompilio,V.Scribano(1994):The 1991-1993 Etna eruption chronology and lava flow field evolution,Acta Vulcanonologica Vol.4 1994 pp1-14
富士山と同様にエトナ火山には過去に形成された溶岩チューブ洞窟が多く存在する。エトナ火山の溶岩チューブ洞窟の高さと傾斜度から得られる降伏値を用いて溶岩チューブ形成時の溶岩流温度の同定を試みた。またその温度からその溶岩流の粘性係数も推定した。
[溶岩チューブ洞窟から得られる溶岩降伏値]
エトナ火山の主要な溶岩チューブ洞窟1)のリストとその長さ、空洞高さ,傾斜角を表1に示す。
チューブ洞窟はチューブ内からのビンガム流体である溶岩の抜け出しと考えると,次の傾斜チューブ内の流動限界条件2)から降伏値を得ることが出来る: fB=H(ρgsinα)/4 ··········(eq-1)
ここで,fBは降伏値,Hは空洞高さ,ρは溶岩密度,gは重力加速度,αは傾斜角度である。(eq-1)から求めた洞窟からの降伏値を表1の右の欄に示す。降伏値は1.6x104~1.1x105 dyne/cm2(1.6x103~1.1x104Pa)の範囲にある。
[エトナ火山の降伏値と粘性係数の温度変化]
エトナ火山は溶岩流の実測での降伏値と粘性係数の温度依存データが得られている唯一の例である3,4,5)。そのデータから回帰式を作成すると,
log10fB=35.1836-0.0289θ, (θは摂氏温度,降伏値fBはdyne/cm2) ··········(eq-2)
log10ηB=24.0469-0.0175θ, (θは摂氏温度,粘性係数ηBはpoise)··········(eq-3)
溶岩チューブ洞窟形成温度は洞窟から得られた降伏値1.6x104~1.1x105 dyne/cm2(1.6x103~1.1x104Pa)により降伏値温度曲線(eq-2)から判断すると1044℃~1073℃の範囲にある。その時の温度に対する溶岩粘性係数は粘性係数温度曲線(eq-3)によると1.9x105~6.2x105 poise(1.9x104~6.2x104 Pa.s)の範囲となる。
なお,1991-1993年溶岩流で形成されたCutrona洞窟から得られた降伏値2.4x103~4.8x103Paから求められる温度1056~1067℃と,粘性係数2.6x104~4.0x104Pa.sは, Calvari6)らがその洞窟近傍のSerra Pirciata(噴火口から600mの距離の標高2000m)地点の溶岩流で実測された温度である1020~1080℃と0.8 x104~1.9x104Pa.sの粘性係数に近い値を示している。
[おわりに]
あらかじめ、溶岩降伏値の温度変化依存曲線を得ておくことにより,洞窟の空洞高さと傾斜度から降伏値を得ることにより洞窟形成時の溶岩温度を同定することが可能である。またその温度により溶岩粘性係数の温度依存曲線から粘性係数を得ることが出来る。したがって,過去に温度が実測されていない溶岩チューブ洞窟の形成時の溶岩流の温度と粘性係数を同定するのにこの方法が利用できると考えられる。
参考文献:
1)S.Calvari,M.Luizzo(1999):”Excursion Guide,Lava tubes and lava caverns Etna volcano,1999”,9th International Symposium on Vulcanospeleology,Catania,Italy,11-19 September,1999.
2)本多力(2001):B-10富士山溶岩洞窟の形成機構と得られる知見,2001年日本火山学会秋季大会講演集.
3)水山高久,栗原淳,河村和夫,北原一平(1989):溶岩流のシミュレーションと対策手法,新砂防 Vol.42 No.4(165) Nov.1989
4)H.Pinkerton,and R.S.J.Sparks(1978):Field measurements of the rheology of lava., Nature (London), Vol. 2, 76, No.5686, pp.383-385,1978
5)M.Dragoni,M.Bonafede,and E.Boschi(1986):Downslope flow models of a Bingham liquid: Implications for lava flows. Jour. Volcanol. Geotherm Res., 30, pp. 305-325, 1986
6)S.Calvari,M.Coltelli,M.Neri,M.Pompilio,V.Scribano(1994):The 1991-1993 Etna eruption chronology and lava flow field evolution,Acta Vulcanonologica Vol.4 1994 pp1-14