JpGU-AGU Joint Meeting 2020

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[U-02] 「知の創造」の価値とは何か:研究評価の理想と現実・説明責任

コンビーナ:島村 道代(海洋研究開発機構)、山中 康裕(北海道大学大学院地球環境科学研究院統合環境科学部門)、末広 潔(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、Brooks Hanson(American Geophysical Union)

[U02-P01] さあ始めよう、知の創造の文化と指標を創造するために、地球科学における研究評価の国際チューニングの議論を!

*山中 康裕1島村 道代2末広 潔2 (1.北海道大学大学院地球環境科学研究院統合環境科学部門、2.海洋研究開発機構)

キーワード:IR、論文崇拝主義、知の創造、チューニング、インパクトファクター、科学と研究者の理想

我々は、「研究者コミュニティーが、自ら研究活動を評価し、それに基づく社会への説明責任を果たす文化を創造する挑戦的試み」について、世界の地球科学コミュニティーのメンバーに提案する。

日本学術会議は、「研究活動」に「科学者は研究成果を論文などで公表すること」を、「社会との対話」に「科学的助言の提供に努める」を含めるように、「科学者の行動規範-改訂版-」(2013)を修正した。また、オープンサイエンスに関する提言では「データ活用者は論文や特許により研究業績を残せるが、データ生産者やデータ流通者は個人名では研究業績を残せない」(日本学術会議, 2016)と認識している。それらのように、社会の付託への研究者(科学者)の責務が明確になりつつある。

しかし依然として、研究者コミュニティーでは「研究業績=論文」が暗黙の了解となっている。その宿命的結果、被引用数やインパクトファクター(IF)等の指標の乱用は、組織や研究者の業績評価における論文崇拝主義や、科学技術のような直接的な課題解決を得意とする研究分野への偏重を招いていると考えられる。これらは「知の創造」に貢献する科学と研究者の理想が無いままに、定量化できるものを安易に評価指標としたことによる歪みであり、それらを根底から見直すことが強く望まれる。また、活版印刷の普及で中世大学が死を迎えたように(吉見, 2011)、人口知能を伴うインターネットによる情報インフラの爆発的発展は、大学の在り方のみならず、これまでの「知の創造」に対する価値を根底から揺るがしている。その一方で、SDGsとして良く知られている「2030年アジェンダ」(国連, 2015)の策定では、アカデミアが9つのmajor groupのひとつとされたように、「科学技術コミュニティー」も持続可能な社会の実現に貢献することが社会から強く期待されている。

我々は、次のようなステップで活動を始めたい。

(A)研究活動の把握(Institutional Research, IR)として、研究者各自の「知の創造」に対する認識と研究活動の実態を明らかにする。なぜならば、研究者一人ひとりは、主として出身学問分野(disciplinary roots)に由来する「知の創造」に対する哲学や価値観を持っているからである。それらを明らかにするために、JpGUの会員を対象として聞き取りやアンケートを実施する。

(B)海外研究者コミュニティーやステイクホルダーの「知の創造」に対する認識と研究活動の実態を明らかにしたい。この目的に対し、米国地球物理学連合(AGU)や欧州地球科学連合(EGU)、各国科学政策担当者、資金配分機関等へ各国研究者の行動規範や先進的取り組みのなどに関する情報の聞き取りや調査を行い、「知の創造」に関する価値基準の国際比較を行う。

(C) 今回のように、我々は (A,B)の進捗状況に応じて「知の創造」の可視化や指標の提案に関するセッションをJpGUで開催し、研究者コミュニティーでの議論とともに社会との対話を始める。この目的のため、チューニングの概念にもとづいて議論と対話のプロセスを重視し、各「研究スタイル」を相互理解し尊重する、研究者コミュニティーの多文化共生(学問多様性の確保)をはかる。