16:45 〜 17:00
[U12-09] 地球惑星科学サンプルアーカイブとオープンアクセスシステム構築計画
★招待講演
キーワード:地球惑星資料のアーカイブ化
地球惑星科学の中の地質学における試料の保管、公開、配布の現状と問題点、そしてジャーナルやデータのオープンアクセスの現状と問題点について紹介する。
最初に試料の保存と公開、アクセス管理の現状と問題点について述べる。明治における近代科学の導入以来、国内外で採取した多くの貴重な地質、岩石、隕石、化石及び陸上掘削等の試料や古地形・地質写真や図版、地盤データ等の資料が国内の大学・研究機関や博物館等に所蔵されている。さらに、90年代以降の多数の大型研究プロジェクト(「マグマ」「全地球史解読」「地球ダイナミクス」「地球深部スラブ」「地殻流体」「冥王代生命学の創成」等)を通じて、大量の研究資料が国内外から集められ、それらのプロジェクト研究を推進するための中核的データを供するのに用いられた。しかし、そうした研究資料は当初目的の達成後に不要となるわけではなく、新たな研究フロンティアとしての存在意義を持つようになる。そうした例として、アポロ計画の月試料の最新技術による測定で、かつて検出不能だった水が発見され、月には水がないとの常識が覆されたしことや、数十年間英米の博物館に保管されていたバージェスの化石群集の再研究によって、カンブリア爆発という生命史における画期的な概念の創出に繋がったことが挙げられよう。このように、国家が資料を組織的にアーカイブしたことによって、大きなブレークスルーが生まれることを歴史が証明している。試料は一度失われると二度と手に入らないことを考えると、学術的価値の高い試料を保管・提供することは研究のフロンティアを創造する上で非常に有利であり、学術的に重要である。加えて、こうした試料は多大な人的・学術的費用をかけて基礎記載がされており、再研究時に記載にかかる時間と費用を削減でき、経済的でもある。まさに宝の山というべきものである。
しかし、日本の地質試料アーカイブとキュレーションシステムの現状は非常に厳しい状況にある。現在、日本において、他の研究機関に所属する研究者が保管する試料を引き取っているのは国立科学博物館だけである。国立科学博物館では、それぞれの研究者にある一定数以上の試料の受け入れを毎年課しており、この取り組みは現在最も効果的な、退職される研究者の試料の受け皿になっている。しかし、2011年に完成した自然史標本棟は、地球科学の試料のみならず、生物学や工学の資料の保管も担っているため、じきに満杯になってしまうことが予期されている。また、国立極地研究所の隕石試料と海洋研究開発機構のドレッジやピストンコア試料は、それぞれの研究機関で管理されている。そして、これらの試料については、キュレーションシステムがすでに構築されており、国内のみならず海外の研究にもキュレーションを行なっている実績がある。また、機関による管理ではないが、東工大の丸山茂徳教授のグループが国内外から収集した試料(30トン以上)も組織的なキュレーションを行う準備が進められている。しかし、東工大や海洋研究開発機構の岩石試料の保管も、現在非常に厳しい状況にあり、永続的な保管場所の確保が喫緊な問題となっている。こうした一部の機関を除くと日本の地球科学試料は基本的に、採取した個人によって管理されている。国立極地研究所の隕石以外の試料(南極資料も含む)や海洋研究開発機構の個人が採取した試料でさえ、個人の管理に委ねられている。こうした試料を継続的、永続的に保管・管理するのにはいくつかの問題がある。そのうちの最大の問題はスペースであろう。多くの大学・研究機関では、個人が保有するスペースには限りがあるため、保管できる量にも限りがある。二つ目は、退職される教員・研究者の試料の引き継ぎに関することである。スペースの問題や管理の問題で、多くの場合そうした試料を引き継ぐことができず、散逸されてしまっている。三つ目は、共通のシステムによるアーカイブ化とキュレーションがされておらず、所有者しか管理できないといった現状にある。四つ目はキュレーターの問題であろう。最近、こうした困難な現状を改善しようとする動きも出はじめた。一つ目は、地質学会などで、試料のアーカイブ化やキュレーションについてのシンポジウムが開かれ、情報共有が活発にされるようになったことである。二つ目は、個人レベルであり、かつ小規模ではあるが退職された教員の試料を大学に残すことのできるシステムを作る動きが見られることである。山口大学では退職された教員の試料を一部屋分ではあるが、展示、貸し出しをすることをしている。三つ目は、大型研究の一つに挙げられたことを機に、産総研地質調査総合センターをはじめとした関連機関で活動が活発になったことである。
デジタルデータのオープンアクセス化やデータの元となった資料の保管の必要性が、近年ヨーロッパ諸国から強く唱えられ、アジアでは中国もそのような国際的な取り組みに参加する大きな潮流が生まれている。日本でも、ジャーナルのオープンアクセス化は推奨されているが、実際にはかなり立ち遅れているのが現状であろう。日本の雑誌(欧文誌と和文誌)の多くはJ-stageに登録されているため、事実上オープンアクセス化がされている。しかし、海外の雑誌で公表された論文のオープンアクセス化はそれぞれの著者に委ねられており、かつ多額の経費もかかることから、オープンアクセス化の浸透には大きな格差が生じている。国内の雑誌が海外の研究者にも広く受け入れられ、日本の研究者が皆国内の雑誌に投稿するようになれば、自然と解決できる問題ではあるが、国内にNatureやScienceに替わる雑誌がないのはもちろん、通常の科学誌でさえ代え難いのが現状である。
将来の研究のため、研究内容を保証し後に再現できるようにするため、科学遺産を後世に残すため、科学の社会還元のため、研究試料やデジタルデータを共通のプラットフォームでアーカイブし、保管・公開・配布する施設の設立は非常に重要であり、早急に取り組むべき問題であろう。
最初に試料の保存と公開、アクセス管理の現状と問題点について述べる。明治における近代科学の導入以来、国内外で採取した多くの貴重な地質、岩石、隕石、化石及び陸上掘削等の試料や古地形・地質写真や図版、地盤データ等の資料が国内の大学・研究機関や博物館等に所蔵されている。さらに、90年代以降の多数の大型研究プロジェクト(「マグマ」「全地球史解読」「地球ダイナミクス」「地球深部スラブ」「地殻流体」「冥王代生命学の創成」等)を通じて、大量の研究資料が国内外から集められ、それらのプロジェクト研究を推進するための中核的データを供するのに用いられた。しかし、そうした研究資料は当初目的の達成後に不要となるわけではなく、新たな研究フロンティアとしての存在意義を持つようになる。そうした例として、アポロ計画の月試料の最新技術による測定で、かつて検出不能だった水が発見され、月には水がないとの常識が覆されたしことや、数十年間英米の博物館に保管されていたバージェスの化石群集の再研究によって、カンブリア爆発という生命史における画期的な概念の創出に繋がったことが挙げられよう。このように、国家が資料を組織的にアーカイブしたことによって、大きなブレークスルーが生まれることを歴史が証明している。試料は一度失われると二度と手に入らないことを考えると、学術的価値の高い試料を保管・提供することは研究のフロンティアを創造する上で非常に有利であり、学術的に重要である。加えて、こうした試料は多大な人的・学術的費用をかけて基礎記載がされており、再研究時に記載にかかる時間と費用を削減でき、経済的でもある。まさに宝の山というべきものである。
しかし、日本の地質試料アーカイブとキュレーションシステムの現状は非常に厳しい状況にある。現在、日本において、他の研究機関に所属する研究者が保管する試料を引き取っているのは国立科学博物館だけである。国立科学博物館では、それぞれの研究者にある一定数以上の試料の受け入れを毎年課しており、この取り組みは現在最も効果的な、退職される研究者の試料の受け皿になっている。しかし、2011年に完成した自然史標本棟は、地球科学の試料のみならず、生物学や工学の資料の保管も担っているため、じきに満杯になってしまうことが予期されている。また、国立極地研究所の隕石試料と海洋研究開発機構のドレッジやピストンコア試料は、それぞれの研究機関で管理されている。そして、これらの試料については、キュレーションシステムがすでに構築されており、国内のみならず海外の研究にもキュレーションを行なっている実績がある。また、機関による管理ではないが、東工大の丸山茂徳教授のグループが国内外から収集した試料(30トン以上)も組織的なキュレーションを行う準備が進められている。しかし、東工大や海洋研究開発機構の岩石試料の保管も、現在非常に厳しい状況にあり、永続的な保管場所の確保が喫緊な問題となっている。こうした一部の機関を除くと日本の地球科学試料は基本的に、採取した個人によって管理されている。国立極地研究所の隕石以外の試料(南極資料も含む)や海洋研究開発機構の個人が採取した試料でさえ、個人の管理に委ねられている。こうした試料を継続的、永続的に保管・管理するのにはいくつかの問題がある。そのうちの最大の問題はスペースであろう。多くの大学・研究機関では、個人が保有するスペースには限りがあるため、保管できる量にも限りがある。二つ目は、退職される教員・研究者の試料の引き継ぎに関することである。スペースの問題や管理の問題で、多くの場合そうした試料を引き継ぐことができず、散逸されてしまっている。三つ目は、共通のシステムによるアーカイブ化とキュレーションがされておらず、所有者しか管理できないといった現状にある。四つ目はキュレーターの問題であろう。最近、こうした困難な現状を改善しようとする動きも出はじめた。一つ目は、地質学会などで、試料のアーカイブ化やキュレーションについてのシンポジウムが開かれ、情報共有が活発にされるようになったことである。二つ目は、個人レベルであり、かつ小規模ではあるが退職された教員の試料を大学に残すことのできるシステムを作る動きが見られることである。山口大学では退職された教員の試料を一部屋分ではあるが、展示、貸し出しをすることをしている。三つ目は、大型研究の一つに挙げられたことを機に、産総研地質調査総合センターをはじめとした関連機関で活動が活発になったことである。
デジタルデータのオープンアクセス化やデータの元となった資料の保管の必要性が、近年ヨーロッパ諸国から強く唱えられ、アジアでは中国もそのような国際的な取り組みに参加する大きな潮流が生まれている。日本でも、ジャーナルのオープンアクセス化は推奨されているが、実際にはかなり立ち遅れているのが現状であろう。日本の雑誌(欧文誌と和文誌)の多くはJ-stageに登録されているため、事実上オープンアクセス化がされている。しかし、海外の雑誌で公表された論文のオープンアクセス化はそれぞれの著者に委ねられており、かつ多額の経費もかかることから、オープンアクセス化の浸透には大きな格差が生じている。国内の雑誌が海外の研究者にも広く受け入れられ、日本の研究者が皆国内の雑誌に投稿するようになれば、自然と解決できる問題ではあるが、国内にNatureやScienceに替わる雑誌がないのはもちろん、通常の科学誌でさえ代え難いのが現状である。
将来の研究のため、研究内容を保証し後に再現できるようにするため、科学遺産を後世に残すため、科学の社会還元のため、研究試料やデジタルデータを共通のプラットフォームでアーカイブし、保管・公開・配布する施設の設立は非常に重要であり、早急に取り組むべき問題であろう。