日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS06] 成層圏・対流圏過程とその気候への影響

2021年6月3日(木) 09:00 〜 10:30 Ch.06 (Zoom会場06)

コンビーナ:木下 武也(海洋研究開発機構)、坂崎 貴俊(京都大学 大学院理学研究科)、高麗 正史(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻大気海洋科学講座)、江口 菜穂(Kyushu University)、座長:木下 武也(海洋研究開発機構)

09:00 〜 09:20

[AAS06-01] 地球観測衛星を統合した大気組成変動研究の進展

★招待講演

*Miyazaki Kazuyuki1 (1.NASA Jet Propulsion Laboratory)

キーワード:大気組成、衛星観測、データ同化

オゾンなど大気組成の時空間変動に関する情報は、大気環境・気候システムを理解する上で重要である。地上観測に加えて衛星観測により地球全体について様々な物質の濃度変動が記録されており、大気汚染警報発令や紫外線予報にも活用されている。 近年には、中国やインドに加えて、アジア・アフリカ域での経済発展に伴う大気組成の変動が検出されており、その地球環境・気候への影響が懸念されている。さらに2020年には、コロナウイルスの拡散予防を目的とした経済活動の制限に伴い、地表から上空におよぶ大気組成の急激な変動が観測されており、地球システムの人間活動に対する応答を理解するための研究が多く進められている。しかし、個別の観測から取得される情報は、期間・空間・分解能・物質・化学特性などに制限があり、大気 環境変動の包括的な把握と理解の妨げとなっている。特徴の異なる様々な観測から統合的な解釈を得ることを目的として、先駆的なデータ同化技術を用いて疎らで不均質な観測データから均一で整合性を持つ解析場を提供することは、科学的・社会的に重要な課題である。

衛星観測の長期的なデータ同化をもとにした対流圏および成層圏を対象とした大気組成の再解析は、これまでにEUプロジェクト(MACC,CAMS)およびJPL/JAMSTEC(TCR-1,TCR-2)などで開発されている。これまでの利用研究から、同化に利用した衛星データおよび同化システムの性能について改善の余地があることが明らかとなっている。NASA・ESAなどにおいて新たなセンサ・リトリーバル技術により提供されている最新の衛星観測データを適切に利用することで、精度を向上し多様な研究に有益な再解析データを提供することは、大気科学の進展に欠かせない取り組みであると考えている。本発表では、以下に示すような、これまでに発表者が米国・日本・欧州との共同研究として推進してきた地球観測衛星を統合した大気組成変動研究の進展について紹介する。

(1) これまでに作成された対流圏・成層圏オゾン分布や各種物質排出量のCAMSプロダクトやエミッションインベントリなどとの比較から、再解析に必要な改良や気候の現在・将来予測への適用に関する指針を得てきた。Suborbital観測との比較などから、精度に問題があるケースなどについて詳しく調べることで、今後必要となる観測網やモデル改善に向けた議論に繋げ、IPCC予測研究など幅広い応用研究への貢献を目指している。

(2) Sentinel-5PやSuomi-NPPなど最新の衛星による観測データや、複数のスペクトル観測情報を統合するなど革新的な技術を導入した衛星観測リトリーバルが近年開発されている。世界に先駆けてデータ同化などサイエンス利用での有用性を示すことは、再解析の改善のみならず今後の衛星データ処理技術の進展にも提言を与える。全球高分解能観測や静止環境衛星の導入など衛星観測が多様化する状況の中で、コンソーシアムとしての衛星観測網の価値を数値化して示すことは、今後の観測計画とそれらを統合する新たな研究機会の創出にも役立つ。

(3) 大気濃度だけでなく様々な排出量を整合的に同時推定することに取り組んでいる。これは、個別排出源への新技術導入の効果など環境政策の評価、大気汚染予測、エアロゾル生成過程評価、気候シミュレーションの高度化に役立つ。化学的損失の評価を通して温室効果気体収支の精緻化にも繋がり、大気汚染物質と温室効果気体の同時観測と気候緩和策への貢献を目指す今後の衛星ミッションにも提言を与えることを目指している。