日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC26] アイスコアと古環境モデリング

2021年6月3日(木) 15:30 〜 17:00 Ch.13 (Zoom会場13)

コンビーナ:竹内 望(千葉大学)、阿部 彩子(東京大学大気海洋研究所)、植村 立(名古屋大学 環境学研究科)、川村 賢二(情報・システム研究機構 国立極地研究所)、座長:竹内 望(千葉大学)、植村 立(名古屋大学 環境学研究科)

16:15 〜 16:30

[ACC26-10] 地下氷および永久凍土堆積物中のクリオペグブラインの産状と形成過程

*岩花 剛1、クーパー ザッカリー2、カーペンター シェリー2、デミング ジョディ2、ハイヨ エイケン1 (1.アラスカ大学・国際北極圏研究センター、2.ワシントン大学・海洋学部)

キーワード:クリオペグ、ブライン、地下氷、地球化学、同位体、バロー

地表面が氷河・氷床に覆われなかった周氷河地域には永久凍土が広く分布する。永久凍土のほとんどは凍結した堆積物や基岩であるが、地域によっては巨大な地下氷が永久凍土の体積の一部を構成する。地下氷は、永久凍土堆積物の比較的小さな空隙に存在する氷も含まれるが、氷河氷や雪田が埋蔵された氷やアイスウェッジ(氷楔)などは巨大な氷塊として存在している。地下氷の成因は様々であるが、形成時の環境情報を保持しながら現在まで保存されてきたと考えられるため、氷河・氷床、あるいは湖底堆積物などからの情報が得にくい地域の代替的な古環境プロキシーとして地下氷の研究が蓄積されてきた。例えば、アイスウェッジ氷はその成因モデルから古環境の中でも冬季に特化した気温や近隣の環境情報を時系列で保持していることが報告されている。本研究は、アラスカ・ウトキャグヴィク(旧バロー)近郊に設置された研究用の地下7m以下のトンネル内で採取した地下氷を対象とした。この地下氷は幅が数m程度のアイスウェッジが網目状に分布しており、更新世末期から完新世初め(10–12 ka BP) に形成されたと考えられている。この地下氷の底部で複数のブライン(高塩分水)ポケットを発見した。これまで報告された永久凍土ブラインは堆積物で構成された永久凍土内にレンズ状に存在するもの「堆積層ブライン」で、本研究でも地下氷層の下の堆積層に存在した。一方、本研究で確認されたブラインの一部は、地下氷の氷体に囲まれた形でポケット状の空間に高塩分濃度の液体水として存在しており、「氷中ブライン」とした(図)。トンネル下部から採取した地下氷および堆積層永久凍土のコアサンプルについて地球化学的な分析を行ったところ、以下のような発達モデルを構築することができた。40 ka BP以前の海進によって海成堆積物がもたらされ、堆積層中の水はその後のラグーン環境で天水と交換された。氷期の海水準低下は地表面を露出させ、永久凍土が発達した。地表面に取り残された塩類の存在によってレンズ状のクリオペグ(未凍結永久凍土)が形成され、特に塩類集積が進んだ部位で堆積層ブラインが産出するものと考えられた。氷中ブラインのポケットは、堆積層ブラインが温度勾配によって11 ka BP頃に上方の地下氷中への移動を開始し、現在の位置へ移動したものという仮説を立てた。先行研究では、同じ地下氷塊をアイスウェッジ氷と仮定して、氷塊上部のサンプルを用いて古環境復元を実施している。発表では、本研究の結果と合わせて地下氷が持つ古環境プロキシとしての可能性と今後の課題を考察する。