日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG38] 海洋と大気の波動・渦・循環の力学

2021年6月6日(日) 15:30 〜 16:45 Ch.10 (Zoom会場10)

コンビーナ:田中 祐希(福井県立大学 海洋生物資源学部)、青木 邦弘(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、久木 幸治(琉球大学)、杉本 憲彦(慶應義塾大学 法学部 日吉物理学教室)、座長:杉本 憲彦(慶應義塾大学 法学部 日吉物理学教室)、青木 邦弘(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、田中 祐希(福井県立大学 海洋生物資源学部)

16:15 〜 16:30

[ACG38-16] 縁辺海域ホットスポットが温帯低気圧に与える影響:理想実験の中の爆弾低気圧やバイナリー低気圧の発達・形成

*山本 勝1 (1.九州大学応用力学研究所)

キーワード:温帯低気圧、バイナリー低気圧、縁辺海域ホットスポット

北太平洋西岸の縁辺海域では、温帯低気圧の経路が日本海と日本列島南岸の2つに分かれており、しばしば、低気圧が急激に発達する。また、二つ玉低気圧と呼ばれる「日本列島を挟んで2つの温帯低気圧が近接するバイナリー低気圧」も現れる。これらの成因に関しては、上層のダブルジェットに関連した二つ玉低気圧の事例(小倉他2006, 櫃間2006)、シングルジェットでの二つ玉低気圧の形成(Yamamoto 2012, 2018)、ダブルジェットからシングルジェットに遷移する状況下の二つ玉低気圧事例の研究(Yokoyama & Yamamoto 2019)はあるものの、二つ玉構造がなぜ日本付近でしばしば形成するのか?十分に理解されていない。

冬季の海面熱フラックスは、北太平洋西岸の縁辺海域で高い値をもつ。このように縁辺海域に集中する海面熱フラックスは、気候系ホットスポットと呼ばれる(e.g., Nakamura et al. 2015)。縁辺海域のホットスポットに対する大気応答は、地球流体力学の視点から理想化大気大循環モデルで研究されており、大陸東岸の温度低下や北太平洋域の低気圧活動について議論されてきた(e.g., Kaspi & Schneider 2011)。

本研究では、北太平洋西岸の縁辺海域の局所加熱に対する大気応答を再考し、縁辺海ホットスポットが日本付近の二つ玉低気圧に与える影響を明らかにすることを目的とする。理想化実験として、Held & Suarez (1994)の設定を、全球Weather Research and Forecasting modelに適用した(e.g., Dias Pinto & Mitchell, 2014)。北太平洋の縁辺海ホットスポットが下層大気を加熱すると仮定し、定常的で局所的な加熱を三角柱の領域で与え、この加熱域の位置や厚みを変えた感度実験を行った。

偏西風が強化される領域では、傾圧不安定が強まり、下層の短周期擾乱活動が強まる。また、ホットスポット周辺域で爆弾低気圧の出現頻度も増大する。北太平洋西岸の縁辺海域では、気圧の谷が南北に延び、低気圧の活動度(短周期擾乱の強度)の極大が2つに分かれる。この2つの極大は、加熱パラメータを変えても形成されることから、ホットスポットが日本付近の低気圧活動域の分岐(日本海経路と南岸経路)を形成する重要なファクターである。ホットスポットにおける海面気圧の時間―緯度断面では、深い気圧の谷が発達した状況下で低気圧のペアが出現する。低気圧の発達初期に二つ玉構造が見られ、急発達する中で2つの低気圧が併合する様子は、これまでの二つ玉爆弾低気圧の事例研究(Yamamoto 2018; Yokoyama & Yamamoto 2019)と整合的である。

「北太平洋西岸の縁辺海ホットスポットに対する大気応答」を単純な枠組みで調査したところ、ホットスポットによる下層大気加熱は、南北に分岐する低気圧活動域を形成し、爆弾低気圧出現頻度も増大させる結果が得られた。日本列島や上層のダブルジェットが無くても、二つ玉低気圧が形成されることから、縁辺海域の加熱に伴う気圧の谷の強化が重要であることが示唆される。