日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG41] 沿岸海洋生態系─2.サンゴ礁・藻場・マングローブ

2021年6月3日(木) 10:45 〜 12:15 Ch.10 (Zoom会場10)

コンビーナ:梅澤 有(東京農工大学)、宮島 利宏(東京大学 大気海洋研究所 海洋地球システム研究系 生元素動態分野)、渡邉 敦(笹川平和財団 海洋政策研究所)、樋口 富彦(東京大学大気海洋研究所)、座長:梅澤 有(東京農工大学)、宮島 利宏(東京大学 大気海洋研究所 海洋地球システム研究系 生元素動態分野)、渡邉 敦(笹川平和財団 海洋政策研究所)、樋口 富彦(東京大学大気海洋研究所)

10:50 〜 11:10

[ACG41-02] 海草藻場を中心とする沿岸生物の分布モニタリングの現在と将来、基礎的観測から政策、日本から国際計画へ。

★招待講演

*山北 剛久1、堀 正和2、田中 義幸3、青木 美鈴4、仲岡 雅裕5 (1.国立研究開発法人海洋研究開発機構、2.国立研究開発法人 水産研究・教育機構、3.八戸工業大学、4.日本国際湿地保全連合、5.北海道大学 )

キーワード:アジア太平洋海洋生物多様性観測ネットワーク(AP-MBON)、生態系サービス、自然がもたらすもの、リモートセンシング、現場観測、アマモ

近年の国際的な地球環境についての関心の高まりとともにGEOやGOOS、MBON等の国際的な枠組みにおいても、生態系や環境の必須観測項目が検討され、モニタリングの推進とデータ統合の機運が高まっている(例えば「Session ID:M-GI32 GEO-地球観測データの統合」)。日本における沿岸生態系モニタリングは、広域的な生態系の分布と変化の調査が1990年代前後に環境省による緑の国勢調査の時期に数回行われていたが、以降、大規模な調査は近年まで実施されていない。一方で時間変動については、2008年からモニタリングサイト1000による毎年の沿岸生態系調査が開始され継続している。また、アジア太平洋地域においては、従来から日本や欧米からの単発的な調査や数点のモニタリングプログラムがあり、一部の国では国内の機関による調査も行われており、近年になってそれらのデータが集約されつつある(Fortes et al. 2018; Sudo and Nakaoka 2020)。また深層学習やDrone,、環境DNAなどの新たな解析や調査手法の活用が期待されているとともに、IPBESやIPCCなどでは自然の人間に対する寄与の評価(NCP)や将来の社会経済のシナリオ(SSP等)による変化を含めた評価が検討されている。

 本発表では、上記の概要をレビューするとともに、まずアマモ場についてモニタリングサイト1000の例を取り上げ、モニタリングの現状と将来計画を発表する (Takeuchi et al. 2021)。次に、新たなモニタリング手法として、深層学習を用いたタイのアマモ場の変動解析を例にアジア太平洋地域での検討例を紹介する。最後に、得られたモニタリングデータを単に環境変動による危機としてとらえるだけではなく、評価指標として用いる例として炭素固定量の推定とシナリオによる変化、海洋健全度による評価の例を紹介する。

 まず、モニタリングサイト1000におけるアマモ場の約10年間のモニタリングの結果、調査地域全体の変化として東日本大震災の影響が大きくみられた。その他に、いくつかの調査地域の調査地点において増減の傾向が見られた。しかし、全国的な変化の傾向はみられず同じ地域内でも地点によって傾向が異なることもあった。モニタリングの期間と空間解像度では容易にとらえられなかったものの、地域的には急激な変化の兆しが見られている。例えば指宿での台風後の消失や富津の潮間帯地域での猛暑後の急減などである。

 従来の現地のモニタリングだけではわずかな地点でしかとらえられない変化を、より広範囲・長期のモニタリングによって検出するため1つの方法としてリモートセンシングが取り上げられる。深層学習を用いた過去の航空写真画像の解析によって、白黒の画像であったも従来よりも高精度に藻場を抽出できることが示した。例えばタイのトランにあるハット・チャオ・マイ国立公園では、河口から先の澪筋の流路の変化が大きな変化要因であることが分かった(Yamakita et al. 2019)。
 最後に、モニタリングの結果をどのように活用するのかについて、日本全国の藻場の分布の情報から、炭素固定量の分布を推定した例では、藻場の分布が多い狭い地域で高い値を示してそれらは全国で湾を中心にまばらに分布した。さらに将来の変化についてのシナリオによる検討によっても、変化には単に気候の勾配に沿ったものだけではなく地域的な差が生じる可能性を示した(Yamakita et al. 2020;堀・山北 2021)。こうした地域性の考慮が生態系の保全や利用あるいは関連する人口、土地利用の計画において重要である。

参考文献:
Fortes MD, Ooi JLS, Tan YM, et al (2018) Seagrass in Southeast Asia: A review of status and knowledge gaps, and a road map for conservation. Bot. Mar. 61:269–288
Sudo K, Nakaoka M (2020) Fine-scale distribution of tropical seagrass beds in Southeast Asia. Ecol Res 35:994–1000. https://doi.org/10.1111/1440-1703.12137
堀正和、山北剛久 (2021) 海の歴史と未来 朝倉書店 https://www.google.com/search?q=ISBN978-4-254-18544-7
Takeuchi Y, Muraoka H, Yamakita T, et al (2021)The Asia-Pacific Biodiversity Observation Network: 10-year achievements and new strategies to 2030 Ecol.Res. in press
Yamakita T, Sodeyama F, Whanpetch N, et al (2019) Application of deep learning techniques for determining the spatial extent and classification of seagrass beds, Trang, Thailand. Bot Mar 62:291–307. https://doi.org/10.1515/bot-2018-0017
山北剛久、山野博哉、仲岡雅裕、 他 (2020) 環境研究総合推進費 戦略的研究開発領域課題(S-15) 社会・生態システムの統合化による自然資本・生態系サービスの予測評価 政策提言 No.3 (PANCES Policy Brief, No.3) http://pances.net/top/policybrief/