日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-GE 地質環境・土壌環境

[A-GE27] 地質媒体における流体移動、物質移行 及び環境評価

2021年6月3日(木) 10:45 〜 12:15 Ch.12 (Zoom会場12)

コンビーナ:斎藤 広隆(東京農工大学大学院農学研究院)、加藤 千尋(弘前大学農学生命科学部)、小島 悠揮(岐阜大学工学部)、濱本 昌一郎(東京大学大学院農学生命科学研究科)、座長:斎藤 広隆(東京農工大学大学院農学研究院)、Zi feng Wu (Guangzhou University)、濱本 昌一郎(東京大学大学院農学生命科学研究科)、小島 悠揮(岐阜大学工学部)

11:05 〜 11:20

[AGE27-02] 地下水流動と非負条件を考慮した地球統計学的手法による汚染物質濃度分布の推定精度向上

*高井 静霞1、島田 太郎1、武田 聖司1、小池 克明2 (1.日本原子力研究開発機構、2.京都大学大学院工学研究科)

キーワード:地下汚染、地球統計学、地下水流動、ギブスサンプリング

放射性核種や化学物質による汚染が地下で発生した場合、環境修復を適切かつ効率的に行うために、汚染の濃度分布の解明が必要となる。そのための手法は2つに大別される。1つ目は、地下水流動に伴う物質移行のシミュレーションである。しかし、汚染の発生源や時間経過、移行形態等が既知でない場合、計算条件を適切に設定することができない。2つ目は、ボーリング等による離散的な測定データからの空間的な内挿・外挿による濃度分布推定であり、クリギングを用いた地球統計学的推定やシミュレーションが挙げられる。しかし汚染が帯水層に移行している場合、濃度分布は地下水流動に伴う移流・分散・吸着・減衰に支配されるので、限られた測定データに対する単なる空間モデリングで、物理・化学則の考慮なしでは濃度分布を正確に推定できない可能性は高い。
そこで本研究では、これら2つの手法を組み合わせ、地下水流動を考慮した汚染分布の地球統計学的推定手法を検討した。この手法では、まず複数点で測定された濃度データからの逆解析により、既知の汚染源からの各時刻の放出量を求め、これに基づき領域全体の汚染分布を推定する。しかし、従来の手法では得られる推定値に制限が設けられておらず、負値となる場合もあった。そこで推定濃度が必ず正の値となるように、ギブスサンプリングによってベイズ推定に基づく統計的な厳密さを満たし、さらに推定値に非負の制限を設けることを試みた。このような非負の制限付きで、地下水流動を考慮した新たな地球統計学手法を仮想的なモデル、およびGloucester処分場(カナダ)での実際の事例に対する汚染分布推定に適用し、その有用性を評価した。地下水流動として多孔質媒体中の浸透流と移流分散を考慮し,これらの解析には3D-SEEPを用いた。
仮想的なモデルは大きさ300×60m2の2次元領域であり、放射性核種として3Hを用い,これは300日間に2つのピークをもって均質媒体中の一様な流れに放出されると仮定した。測定データとしては、最初の放出から330日後に取得された、領域内に等間隔に設けた18点の濃度データを使用した。解析の結果、トレンド付きクリギングによる地球統計学的手法のみでは2つの放出ピークを推定できなかったが、地下水流動を考慮すると絶対誤差平均1.0×10-4で2つのピークを持つ濃度分布が推定可能となった。さらに非負の制限によって、絶対誤差平均を2.7×10-9まで小さくできた。
Gloucester処分場のケースでは、水への可溶・収着性が小さい1,4-ジオキサンによる汚染を対象とした。1,4-ジオキサンは1969~1980年の処分期間中に放出された可能性がある。それらの時刻と量は不明であるが、1978年のある時期に大規模な流出が生じたことはわかっている。測定データとしては、1982年に取得された69点での濃度データを使用した。解析では3次元の帯水層中の汚染移行領域(300×300×40m3)を設定し、現地の調査結果に基づくパラメータを用いて理論解を求め、これと推定結果を比較した。その結果、最小エントロピーやメトロポリスーヘイスティングによる非負の制限を考慮した地球統計学的手法による先行研究よりも、非負の制限と地下水流動解析を用いた本手法の方が1978年のピークを高精度で再現でき、絶対誤差平均も2.8×10-2と小さく抑えられた。
本研究は、原子力規制委員会原子力規制庁からの受託研究「令和2年度廃止措置・クリアランスに関する検討」の成果の一部である。