日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW23] 同位体水文学2021

2021年6月6日(日) 09:00 〜 10:30 Ch.12 (Zoom会場12)

コンビーナ:安原 正也(立正大学地球環境科学部)、風早 康平(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、大沢 信二(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設(別府))、浅井 和由(株式会社 地球科学研究所)、座長:安原 正也(立正大学地球環境科学部)、中村 高志(山梨大学大学院・国際流域環境研究センター)、浅井 和由(株式会社 地球科学研究所)、大沢 信二(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設(別府))

09:05 〜 09:30

[AHW23-02] メコン川流域における化学風化反応量の季節・空間変動:源流から河口まで

★招待講演

*梶田 展人1、太田 雄貴2、吉村 寿紘3、荒岡 大輔2、眞中 卓也4、Ouyang Ziyu1、岩崎 晋弥3、簗瀬 拓也1、稲村 明彦2、内田 悦生5、Zheng Hongbo6、Yang Qing6、Wang Ke1、鈴木 淳2、川幡 穂高1 (1.東京大学、2.産業技術総合研究所、3.海洋研究開発機構、4.森林総合研究所、5.早稲田大学、6.雲南大学)

キーワード:メコン川、化学風化、炭素循環、季節変動、空間変動

地球表層における炭素循環について定量的に明らかにすることは、過去の気候変動の仕組みを解明する上で重要である。多くの炭素交換プロセスの中でも、ケイ酸塩岩の化学風化に伴い大気中二酸化炭素が消費される反応は、全球規模の炭素循環に大きな影響を与える可能性があり、注目されている。特にヒマラヤ山脈における反応率は大きく、新生代の地球規模の寒冷化の一因となったという説が提唱されている。岩石の化学風化反応には水が必要であるため、河川が重要な役割を果たす。これまでの多くの研究では、アクセスが容易で調査の行いやすい、河川の下流部の溶存元素濃度から、その流域における化学風化反応量を推定していた。しかし、長大な河川においては、流下過程における二次的な鉱物沈殿や生物活動によって、溶存元素濃度が大きく変動する可能性がある。また、気候の季節差も大きいため、下流部のデータのみで流域全体の反応量を評価することは大きな誤差を生むと考えられる。
 本研究では、ヒマラヤに端を発する大河川の中で最大級の流量と流域面積を持つメコン川に注目し、雨季と乾季において河川の上流域から下流域にかけて広域的な採水調査を行い、化学風化に伴う炭素交換フラックスの季節変動・空間変動を明らかにした。河川水の溶存元素の起源について、理想的なマスバランス計算を行うことで、ケイ酸塩岩、炭酸塩岩、蒸発岩、人為起源、降雨起源に分類した。これらの寄与率の相対的な変動は、メコン川流域の上流から下流における地質の変化や、降水量の変化をよく反映していた。また、下流域においては、雨季に恒常的に発生する大氾濫によって、後背地の人為起源物質や蒸発残留物が大量に河川水に混入していることが示された。ケイ酸塩鉱物の風化に伴う大気中二酸化炭素消費量に注目すると、雨季の消費効率は乾季の3~5倍であった。これは、雨季の高温多湿環境で、化学風化反応が促進されることに起因する。さらに、険しい山岳地帯である上流域では、下流域に比べて消費効率が約2倍であった。これは、上流域の活発な物理風化(浸食)による、鉱物の供給量の増加が原因である。
これらの地域差と季節差を考慮して、メコン川流域全体における炭酸塩・ケイ酸塩風化による年間の二酸化炭素消費量を計算すると、それぞれ48~70*109 mol/a・148~159*109 mol/aと見積もられた。これらは、数点の測定データを用いて計算していた先行研究の約半分程度の値である。この結果は、季節と上下流を区別した採水調査を行い、人為起源の元素を適切に除かなければ、流域における二酸化炭素消費量を過大評価してしまうことを示している。これはメコン川以外のヒマラヤ大河川にも当てはまると考えられ、ヒマラヤ山脈における二酸化炭素消費量は、再検討される必要がある。