日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW23] 同位体水文学2021

2021年6月6日(日) 17:15 〜 18:30 Ch.08

コンビーナ:安原 正也(立正大学地球環境科学部)、風早 康平(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、大沢 信二(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設(別府))、浅井 和由(株式会社 地球科学研究所)

17:15 〜 18:30

[AHW23-P02] 千葉県房総半島南部に自然湧出する塩水の地球化学的性状とその起源について

*安原 正也1、稲村 明彦2、馬淵 遼太郎3、李 盛源1、森川 徳敏2 (1.立正大学地球環境科学部、2.(国研)産業技術総合研究所活断層・火山研究部門、3.(株)アウトソーシングテクノロジー)

キーワード:深部起源塩水、塩水上昇、河川水、混合、塩化物イオン、同位体

日本列島の内陸部や山間部には,高濃度の塩水が自然湧出する地点が全国で多数確認されている(たとえば,安原ほか,2006).放射性廃棄物の地層処分との関係から,近年このような塩水すなわち深部起源水の地理的分布,地球化学的性状や起源,さらには塩水の上昇プロセスやそのフラックス(上昇量)が注目を集めているところである.千葉県房総半島南部の安房丘陵にも,神余弘法井戸(館山市)や湯の谷(富津市)をはじめ,このような塩水の湧出地点がいくつか報告されている.そこで本研究では,2005年と2019年に実施した調査結果に基づき,神余弘法井戸と湯の谷で自然湧出する塩水の地球化学的特性と起源を検討するとともに,同地域における塩水(深部起源水)の上昇量の推定を試みた.その予察結果を報告する.

千葉県指定の有形民俗文化財でもある神余弘法井戸(直径1.7 mの浅井戸)は巴川中流の標高20 m付近に位置しており,やや黄色を帯びた塩水(塩化物イオン(Cl-)濃度;5,100〜5,800 mg/L; 1〜4 m3/day)が井戸枠の上端を越えて巴川へとオーバーフローしている.また,湯の谷(標高30 m前後)では,小河川に臨む比高4 m程度の小崖の途中の2箇所から,Cl-濃度1,000〜1,300 mg/Lの塩水が3 m3/day程度湧出している.塩水の起源については,地域の地質発達史や水質のトリリニアダイアグラムから判断すると,地層堆積時に取り込まれた海水が地下深部での長期の続成作用によって変質したものである可能性が高い.地域の天水ラインから明らかに外れる酸素・水素同位体比(神余弘法井戸:-31‰δD;-6.4‰δ18O,湯の谷:-39‰δD;-5.9‰δ18O),10-5オーダーという低いLi/Cl比,また地殻起源ヘリウムで代表される低い3He/4He比とも整合的である.このような地下深部に存在する変質海水が,東北東〜西南西方向にのびる断層や背斜・向斜構造に規制されて地表付近まで上昇してきたものと考えられる.

続いて,河川のCl-濃度調査結果に基づき,神余弘法井戸ならびに湯の谷において,それぞれの周辺部も含めた地域全体における塩水上昇量の推定を試みた.その結果,神余弘法井戸とその周辺地域では2019年11月には約120 kg/dayのCl-が深部からもたらされており,これを神余弘法井戸と同じCl-濃度を有する塩水に換算した場合,深部起源水の上昇量は約24 m3/dayと推定された.一方,湯の谷とその周辺地域での深部起源水の上昇量は18 m3/day程度(2005年3月)と推定された.