日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-CG 地球生命科学複合領域・一般

[B-CG04] 地球史解読:冥王代から現代まで

2021年6月4日(金) 17:15 〜 18:30 Ch.18

コンビーナ:小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、加藤 泰浩(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源センター)、中村 謙太郎(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)

17:15 〜 18:30

[BCG04-P03] シリカ温泉堆積物に発達する縞状組織の周期および成因

*高島 千鶴1、奥村 知世2、角縁 進1、狩野 彰宏3 (1.佐賀大学 教育学部 理数講座、2.高知大学 海洋コア総合研究センター、3.東京大学 理学系研究科 地球惑星科学専攻)

キーワード:シリカ堆積物、縞状組織、シアノバクテリア

ミネラル成分を多く含む温泉は,湧出後に鉱物を析出する.その温泉堆積物の中には,先カンブリア時代に海洋で堆積した縞状堆積物と成分や堆積組織が類似しているものがある.鉄に富む温泉堆積物は縞状鉄鉱層,炭酸塩に富む温泉堆積物はストロマトライトのモダンアナログとして研究されている(e.g., Takashima et al., 2011, Okumura et al., 2011).本研究ではシリカを主成分とする温泉堆積物の縞状組織の周期と生成過程を明らかにする.
鹿児島県指宿市あるたまて箱温泉の源泉湧出口は2つあり,1つは上流に位置する塩田から流れるもので,シリカ温泉堆積物は湯元から下流に向かって傾斜のある扇形型状に形成されている.もう一つは,下流に設置されたパイプから吹き出すものである.パイプの下では,パイプからの温泉水と上流からの温泉水が合流し,シリカ温泉堆積物の厚さは薄く,地面に平行に沈殿している.
まず,塩田流路の中流堆積物は薄片観察にて金属が多い有色層とフィラメント状微生物が確認される白色層がmmオーダーで繰り返す縞状組織が見られることがわかっている.電子顕微鏡観察では,全体的に鉱物に被覆されたフィラメント状の微生物が観察され,鉱物が密集した緻密層と鉱物沈殿が少ない孔隙層がmmオーダーで繰り返していることがわかった.また予察的であるが,塩田から流れる流路にて堆積場にタイルを設置し堆積速度を見積もったところ,137日間で厚さ約1mm堆積していた.また,夏の時期に堆積した部分は有色層,秋から冬にかけて堆積した部分は白色層であった.
下流の堆積物については,常時温泉水に浸からない部分がある表面が緑色の堆積物と常時温泉水下にある表面がピンク色の堆積物の分析を行った.
ピンク色堆積物は非常に緻密で硬く,層状に有色層,白色層が認められる.電子顕微鏡で観察すると,鉱物で被覆されたフィラメント状微生物を多く含む孔隙層と微生物が少ない緻密層が約1mmの間隔で繰り返していることがわかった.おそらく,それぞれ塩田流路堆積物の白色層と有色層に相当すると推測される.緻密層の中にはさらに細かい幅50-120ミクロンと幅10 ミクロンの縞状組織と結晶成長が確認できた.堆積物のToluidine Blue染色により,堆積面に平行に有機物が認められた.蛍光顕微鏡で観察すると,堆積物表面に光合成細菌が存在することがわかった.また元素マッピングは,有色層に鉄やマンガンが多いことを示す.
緑色堆積物は約1cmのコブ状の突起を持つ表面をしており凹凸が激しい.電子顕微鏡および蛍光顕微鏡で観察するとコブ状の表面はフィラメント状光合成微生物で覆われていることがわかった.元素マッピングによると,表面付近のコブ状に鉄やマンガンが多いことが判明した.
堆積速度実験より,一年間堆積速度は約2.7mmと計算できる.この値は堆積物の数ミリ単位の有色層と白色層の縞状組織とおおよそ一致する.シリカ温泉堆積物に見られる数ミリ単位の縞状組織は,堆積実験の結果より季節変化を表していると考えられる.夏に金属を多く含む有色層,夏以外の季節に白色層が形成される.堆積物表面には光合成細菌が存在したこと,白色層には微生物が多く,夏の有色層には少ない.このことから,日差しの強い夏の時期に光合成細菌は負の走光性を示し堆積物内部に存在し,日差しが弱い時期に堆積物表面に出てきていると推測される.白色層は菌体自体が核として鉱物を付着させている.一方,有色層には金属が多く,結晶成長しており,フィラメント状微生物は少ないが有機物が確認されている.このことから,ミクロン単位の縞状組織は微生物自体では代謝生成物であるEPSが金属付着や結晶成長を引き起こしていると考えられる.また,有色層には100 ミクロン単位と10ミクロン単位縞状組織が観察されるが,堆積速度実験の結果から10 ミクロン単位は日周期の可能性がある.
<参考文献>
Takashima et al. (2011) Bacterial symbiosis forming laminated iron-rich deposits in Okuoku-hachikurou hot spring, Akita Prefecture, Japan. Island Arc, 20, 294-304.
Okumura et al. (2011) Microbial processes forming daily lamination in an aragonite travertine, Nagano-yu hot spring, Southwest Japan. Geomicrobiology Journal, 28, 135-148.