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[G01-03] 活火山のない地域における火山防災教材 〜神戸垂水日向遺跡中の鬼界アカホヤ火山灰〜
キーワード:広域テフラ 、鬼界アカホヤ火山灰 、垂水日向遺跡 、火山防災教育
垂水日向遺跡から採取された火山灰(鬼界アカホヤ火山灰)の構成粒子の大部分は,長さ1㎜未満の新鮮な火山ガラスであるため,実体顕微鏡を用いた観察が容易である。そこで周辺に活火山がない神戸においても,かつて火山活動が身近に及んだことを実感させるために,本試料を教材とした授業を大学生に行った結果,火山に対するイメージが変容し,火山災害への防災意識の向上が見られた。
近年,地震や台風や豪雨そして火山爆発などの大規模災害が多発し,改めて自然へ畏怖の念を持つと同時に,今後の災害に向けた防災教育の必要性を痛感する。2017 年の小中学校の新学習指導要領の告示で,防災を含む安全に関する教育が導入され,学校現場で実践するための教材の開発が急務となった。筆者らはかつて大学生の自然災害に関する関心度を知るために,地震災害,気象災害,火山災害という三つの自然災害について,自らの生活の中でどの災害が脅威になりうるかの調査を行った。その結果は地震災害,気象災害,火山災害の順であり,火山災害に脅威を感じている学生が最も少ないことが判明した1)。そこで周辺に活火山がない神戸においてもかつて火山活動が身近に及んだことを実感させる目的で,1997 年に垂水日向遺跡から採取されたアカホヤ火山灰2)を火山防災教材として,大学生を対象に実践授業を行った。因みにこの火山灰層は鬼界カルデラを起源とする広域テフラであるが,淘汰度がよく微小な火山ガラスからなることが目視でも確認できる。この火山灰を超音波洗浄後に実体顕微鏡で観察すると,斑晶鉱物は見られずほとんどが0.3 ~ 0.5㎜の無色透明の火山ガラスの破片からなる3)。これら火山ガラスはバブルウォール型に分類され,高粘性マグマの噴出によるものである4)。
そして上記の火山灰中の火山ガラスの形態観察と分類を行い,実習前後での「火山に対するイメージの変化」を調査した3)。その結果神戸大学「地学実験B」(2018年)の理系選択者6名中5 人が「変化度2:少し変わった」,1人が「変化度3:大いに変わった」と回答した。それらの理由は,「火山灰を吸い込んで窒息死というのを,物をもやした灰のような柔らかいもので息が詰まるイメージで考えていたが,灰に突き刺さりそうな火山灰を見てかなり深刻なイメージに変わったから」「火山ガラスを観察して火山からどんなものがでてくるか細かく見られたことで,火山を身近に感じられたから」「カルデラ噴火という単語を始めて聞き,周期的にそろそろ起こってもおかしくないということを知ったから」などであった。それぞれ火山灰の危険性を感じたり,火山活動を実感したり,大規模災害の可能性について言及するなど,学生の捉え方は様々であった。しかし垂水日向遺跡中のアカホヤ火山灰を観察した結果,神戸から500㎞以上離れた南九州で発生したカルデラ噴火により,神戸に火山灰が降下した事実を認識し火山災害のイメージを深めた。さらに大阪府立大学「地学実験」(2019年)の理系選択者15名に調査を行ったところ,同様に火山灰のイメージを深め,火山災害への危機感を募らせたことが分かった。これらのことから垂水日向遺跡中のアカホヤ火山灰は,活火山が存在しない地域における火山防災教育に向けて貴重な教材であると思われる。
引用文献
1) 佐藤鋭一・香田達也(2020),大学生への自然災害の脅威調査〜北海道と大阪の比較〜,日本地学教育学会第74回全国大会 オンライン大会講演予稿集,41-42.
2) 神戸市教育委員会・神戸市スポーツ教育公社(1992),神戸市垂水区垂水・日向遺跡,第1,3,4次調査(日向地区・陸ノ町地区) ,286p.
3) 香田達也・佐藤鋭一(2020),火山のない地域における火山防災教材-垂水日向遺跡中の鬼界アカホヤ火山灰-,防災教育学研究 1. (1).
4) 町田洋・新井房夫(1978),南九州鬼界カルデラから噴出した広域テフラーアカホヤ火山灰,第四紀研究17. (3). 143-163.
近年,地震や台風や豪雨そして火山爆発などの大規模災害が多発し,改めて自然へ畏怖の念を持つと同時に,今後の災害に向けた防災教育の必要性を痛感する。2017 年の小中学校の新学習指導要領の告示で,防災を含む安全に関する教育が導入され,学校現場で実践するための教材の開発が急務となった。筆者らはかつて大学生の自然災害に関する関心度を知るために,地震災害,気象災害,火山災害という三つの自然災害について,自らの生活の中でどの災害が脅威になりうるかの調査を行った。その結果は地震災害,気象災害,火山災害の順であり,火山災害に脅威を感じている学生が最も少ないことが判明した1)。そこで周辺に活火山がない神戸においてもかつて火山活動が身近に及んだことを実感させる目的で,1997 年に垂水日向遺跡から採取されたアカホヤ火山灰2)を火山防災教材として,大学生を対象に実践授業を行った。因みにこの火山灰層は鬼界カルデラを起源とする広域テフラであるが,淘汰度がよく微小な火山ガラスからなることが目視でも確認できる。この火山灰を超音波洗浄後に実体顕微鏡で観察すると,斑晶鉱物は見られずほとんどが0.3 ~ 0.5㎜の無色透明の火山ガラスの破片からなる3)。これら火山ガラスはバブルウォール型に分類され,高粘性マグマの噴出によるものである4)。
そして上記の火山灰中の火山ガラスの形態観察と分類を行い,実習前後での「火山に対するイメージの変化」を調査した3)。その結果神戸大学「地学実験B」(2018年)の理系選択者6名中5 人が「変化度2:少し変わった」,1人が「変化度3:大いに変わった」と回答した。それらの理由は,「火山灰を吸い込んで窒息死というのを,物をもやした灰のような柔らかいもので息が詰まるイメージで考えていたが,灰に突き刺さりそうな火山灰を見てかなり深刻なイメージに変わったから」「火山ガラスを観察して火山からどんなものがでてくるか細かく見られたことで,火山を身近に感じられたから」「カルデラ噴火という単語を始めて聞き,周期的にそろそろ起こってもおかしくないということを知ったから」などであった。それぞれ火山灰の危険性を感じたり,火山活動を実感したり,大規模災害の可能性について言及するなど,学生の捉え方は様々であった。しかし垂水日向遺跡中のアカホヤ火山灰を観察した結果,神戸から500㎞以上離れた南九州で発生したカルデラ噴火により,神戸に火山灰が降下した事実を認識し火山災害のイメージを深めた。さらに大阪府立大学「地学実験」(2019年)の理系選択者15名に調査を行ったところ,同様に火山灰のイメージを深め,火山災害への危機感を募らせたことが分かった。これらのことから垂水日向遺跡中のアカホヤ火山灰は,活火山が存在しない地域における火山防災教育に向けて貴重な教材であると思われる。
引用文献
1) 佐藤鋭一・香田達也(2020),大学生への自然災害の脅威調査〜北海道と大阪の比較〜,日本地学教育学会第74回全国大会 オンライン大会講演予稿集,41-42.
2) 神戸市教育委員会・神戸市スポーツ教育公社(1992),神戸市垂水区垂水・日向遺跡,第1,3,4次調査(日向地区・陸ノ町地区) ,286p.
3) 香田達也・佐藤鋭一(2020),火山のない地域における火山防災教材-垂水日向遺跡中の鬼界アカホヤ火山灰-,防災教育学研究 1. (1).
4) 町田洋・新井房夫(1978),南九州鬼界カルデラから噴出した広域テフラーアカホヤ火山灰,第四紀研究17. (3). 143-163.