日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR04] 第四紀:ヒトと環境系の時系列ダイナミクス

2021年6月5日(土) 17:15 〜 18:30 Ch.09

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 高解像度環境解析研究センター)、奥村 晃史(広島大学大学院文学研究科)、里口 保文(滋賀県立琵琶湖博物館)

17:15 〜 18:30

[HQR04-P07] 伊豆半島南部,蛇石大池湿原における過去約30,000年間のテフラ層序

*渡辺 樹1、鈴木 毅彦1、石村 大輔1 (1.東京都立大学大学院 都市環境科学研究科)


キーワード:湿原堆積物、クリプトテフラ、蛇石大池湿原

近年,湖沼・湿原堆積物コアを用いてテフラ層序を詳細に明らかにする研究が国内外で実施されており,テフラのより正確な分布や年代が示され,火山噴火史研究に貢献している(たとえばMcLean et al. 2018, 2020; Albert et al. 2018, 2019).しかし,日本国内に目をやると,このようなコアの研究事例は近畿から中部地方に集中している(Nakagawa et al. 2012; 竹村ほか 2010; 長橋ほか 2007など).偏西風に運搬された西南日本の第四紀火山に由来する多くのテフラが分布すると期待される東海から南関東沿岸地域でもこうした研究は意義深いと考えられるが,高精度なテフラ層序の構築に適した湖沼・湿原堆積物が保存されている地域は限られる.そこで本研究では,伊豆半島南西部の蛇石大池湿原に着目した.ここでは西方から飛来するテフラの検出が可能であることに加え,近年,小林ほか(2020)や村田ほか(印刷中)などによりテフラ層序の構築が進む伊豆諸島の新島や神津島が南方50〜60 kmに位置し,両島を給源とするテフラを追跡することも可能である.本研究では,蛇石大池湿原における,肉眼では層として識別できないクリプトテフラ(Lowe and Hunt 2001)を含めた詳細なテフラ層序を明らかにすることを目的として,2020年9月に掘削されたボーリングコア(JIS コア,コア長12 m)を使用し,粒度分析・構成粒子組成分析・テフラ分析(火山ガラスの屈折率測定,主成分化学組成分析)を実施した.とくに火山ガラスの含有率,角閃石類の含有率,火山ガラスの形態分類を主な指標として,テフラ起源の粒子が多く存在する,テフラ粒子濃集層準の認定を試みた.

JISコアを構成する主な堆積物は,湖沼や湿原で堆積したと考えられるシルトであり,降下テフラや土石流等により堆積したと考えられる粗粒堆積物が挟在する.テフラ分析の結果,天城カワゴ平テフラ(Kg, 3,151-3,126 cal yrs BP: Tani et al. 2013)と姶良Tnテフラ(AT, 30,078±96 cal yrs BP: Smith et al. 2013)の2層のテフラが肉眼で確認された.さらに,7層のテフラ粒子の濃集層準から9種類の火山ガラスが確認された.これらから判別されたクリプトテフラは,広域テフラである鬼界アカホヤテフラ(K-Ah, 7,307-7,196 cal yrs BP: McLean et al. 2018)に加え,本地域で新たに発見されたテフラとして,上位から新島宮塚山南部テフラ(Nj-Mts,5.5 ka: 小林ほか 2020),新島式根島テフラ(Nj-Sk, 8 ka: 小林ほか 2020),大山笹ヶ平テフラ(DSs, 29,837±96 cal yrs BPまたは29,830 cal yrs BP: Albert et al. 2018)または大山東大山テフラ(DHg, 28,895±72 cal yrs BPまたは28,888±72 cal yrs BP: Albert et al. 2018)に対比できる可能性のあるテフラ,ATより下位の伊豆諸島起源のテフラがあげられる.

Nj-MtsやNj-Skに関しては,本州に分布することがはじめて明らかとなった.したがって,JISコアは伊豆諸島起源のテフラの分布や噴火の規模,様式を検討する際に伊豆半島における模式の1つとなりうる.また,従来報告されていたDSsとDHgの分布の東端は琵琶湖である(竹村ほか 2010).したがって,本研究によりDSsまたはDHgいずれかの分布域が東側に約250 km拡大し,その分布主軸は給源から東南東方向である可能性が高いことを示すことができる.以上のように本研究では湿原堆積物を連続的に分析し,複数の指標によってテフラ粒子濃集層準の認定を行うことで,伊豆半島南部における過去約3万年間の高精度なテフラ層序を示すことができた.