日本地球惑星科学連合2021年大会

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[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-SC 社会地球科学・社会都市システム

[H-SC05] 地球温暖化防⽌と地学(CO2地中貯留・有効利⽤、地球⼯学)

2021年6月4日(金) 17:15 〜 18:30 Ch.11

コンビーナ:徂徠 正夫(国立研究開発法人産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門)、薛 自求(公益財団法人 地球環境産業技術研究機構)、愛知 正温(東京大学大学院新領域創成科学研究科)、今野 義浩(東京大学)

17:15 〜 18:30

[HSC05-P02] 地中貯留技術への利用に向けた塩濃度が超臨界二酸化炭素の流動特性に及ぼす影響の実験的検討

*外野 圭太1、秋月 信1、愛知 正温1、大島 義人1 (1.東京大学)

キーワード:二酸化炭素地中貯留、超臨界二酸化炭素、塩濃度

近年、地球温暖化対策として、二酸化炭素地中貯留技術が注目されている。貯留層として、二酸化炭素圧入後に超臨界状態を保持できる800 m以深の地層の中でも、世界各地に存在し農業・工業的に価値が低い高濃度塩水を含む、多孔質岩石からできている深部帯水層が適していると言われている。二酸化炭素の圧入のみであれば、海外や日本で実証実験がなされているように現行技術で実現可能であるが、既往研究において帯水層が持つ地下水の塩濃度が二酸化炭素の流動特性に影響を与えうるという指摘が存在する(Sokama-Neuyam、2019)。既往研究では塩の析出のみの影響を考察するため、海水に比べて高い濃度の塩水における二酸化炭素の流動特性が報告されている。一方、日本の深部帯水層のほとんどは海水以下の塩濃度であるため、海水以下の塩濃度について二酸化炭素の流動特性を測定することが求められている。また、貯留地によって深層貯留層の塩濃度が異なるので、貯留地選定の段階で塩濃度による影響の知見があれば貯留地選定の最適化に寄与することが考えられる。よって本研究では、塩濃度が超臨界二酸化炭素の流動特性に与える影響の実験的検討を目的とする。
研究方針としては、塩水で飽和した岩石に超臨界二酸化炭素を圧入したときに、岩石から流出した二酸化炭素量や塩水の量・濃度を把握する実験装置を設計し、作成した実験装置を用いて複数の岩石に超臨界二酸化炭素を圧入して流動特性を測定、比較した。また、二酸化炭素圧入後の岩石断面を観察することで塩濃度が流動特性に与える影響を検討した。
流動特性を観察するために作成した実験装置の概要図を図Aに示す。図A実線部のラインは二酸化炭素が流通するラインで、点線部のラインは圧力をかけるための水が流通するラインである。二酸化炭素は二塔のシリンジポンプによって10 MPaで連続圧入され、バルブCを通り加熱部分で40℃となり超臨界状態となる。岩石は側面をシールしており、岩石下部から超臨界二酸化炭素が流入し、岩石上部から流出する。出口部分の水流量は20 mlメスシリンダーで、二酸化炭素流量は積算流量計で測定した。実験は以下の手順で行った。1.塩水で飽和させた岩石を実験装置に置き、シールして一日静置する。2.岩石内部に圧力をかけるための水を流入した後、二酸化炭素流入口から塩水を5 ml/minで1時間程度流す。3.実験装置本体部分を水圧と二酸化炭素のラインに接続し、バルブA、Bを開け、バルブCを閉じて背圧弁までのラインを10 MPaの超臨界二酸化炭素で満たす。4.背圧弁を10 MPaで流体が通るように調整する。5.バルブAを閉じたすぐ後にバルブCを開けて、岩石へ二酸化炭素を流す。
実験で用いる岩石は、複数の岩石を用いて相対浸透率曲線の比較による流動特性の差を検討するために、均一材料とみなせる、砂岩を模したガラスビーズの焼結体(以下模擬砂岩と表記、Berge、1995)を用いた。他の実験条件は、飽和水の塩濃度を0–0.4 mol/L、塩の種類を塩化ナトリウム、岩石の間隙圧を10 MPa、岩石の拘束圧を20 MPa、温度を40℃と設定し、超臨界二酸化炭素を流量2 ml/minで模擬砂岩に流通し流体流量と差圧を測定した。岩石出口部分の流体流量は、測定部分で得られた常温常圧での流量を、岩石出口部分と測定部分の時間差と圧力、温度差を考慮して算出した。塩濃度が二酸化炭素の流動特性に及ぼす影響を検討するために、岩石出口部分の流量と差圧からダルシーの式を用いて相対浸透率曲線を計算し、複数の飽和水塩濃度条件下で比較した。また、実験後の模擬岩石断面を走査型電子顕微鏡で観察した。
飽和水塩濃度0、0.2、0.4 mol/Lにおける実験の結果から、ダルシーの式を用いて相対浸透率曲線を計算した結果を図Bに示す。水飽和度が低くなると相対浸透率が大きくなるという傾向がみられた。また、塩濃度が高くなると相対浸透率は大きい値を示す傾向がみられ、塩濃度が高くなると二酸化炭素が通りやすくなることがわかった。
塩濃度が高くなることで二酸化炭素の流動特性に影響を与えうる要素は、塩の析出(Sokama-Neuyam、2019)と接触角変化(Arif、2016)の二つが考えられる。塩濃度が高くなると超臨界二酸化炭素、塩水、岩石間の接触角が大きくなり、キャピラリー圧が小さくなることで相対浸透率が大きくなる。対して塩が析出すると二酸化炭素の流動経路をふさぐことで相対浸透率が小さくなると予想される。本研究では塩濃度が高くなると相対浸透率は大きい値を示す傾向がみられたため、接触角変化の影響が塩の析出による影響より大きいことが示唆された。
電子顕微鏡で二酸化炭素流通後の模擬砂岩断面を観察した結果、塩濃度が高い条件においてほとんどの塩化ナトリウムは細長い形状で析出し、立方体の形で析出して二酸化炭素流路をふさぐものは極めて少ないことがわかった。この結果は、今回の検討条件においては塩の析出は二酸化炭素の流動特性に影響を与えないことを示唆している。