日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS12] 惑星火山学

2021年6月5日(土) 09:00 〜 10:30 Ch.02 (Zoom会場02)

コンビーナ:野口 里奈(新潟大学 自然科学系)、下司 信夫(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、諸田 智克(東京大学理学系研究科地球惑星科学専攻)、座長:野口 里奈(新潟大学 自然科学系)、下司 信夫(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、諸田 智克(東京大学理学系研究科地球惑星科学専攻)

09:00 〜 09:15

[MIS12-01] 衝突数値計算による月線形重力異常の構造と形成年代への制約

*西山 学1、並木 則行2、杉田 精司1 (1.東京大学、2.国立天文台)


キーワード:月、重力異常、衝突

NASAの月周回探査ミッションGRAILによって高分解能の重力場データが得られ、100 km以上線状に伸びた正の重力異常が見つかっている。これは地下に周囲よりも密度の高い貫入岩体が存在していることに起因しているとされ、過去に月表面が引っ張り応力を受けていたことを示す証拠として考えられている。このような応力場は過去に月が膨張した際に形成された可能性が高いことから、貫入当時の応力場の影響を強く受ける岩体形状やその形成年代を制約することで、膨張時の月の熱史に制約が与えられると考えられる。これまで重力異常のインバージョンから岩体の深度等が制約されているが、従来の計算手法では実際よりも深い位置として計算されてしまう可能性がある。また、これまで岩体の形成年代はクレーターとの層序関係から求められていた。しかし、Crisium盆地で切られた線形重力異常でのみ定性的に議論がなされており、他の線形重力異常について定量的に検証されていない。そこで今回はRocheクレーターとRowlandクレーターについてケーススタディを試みた。

今回、重力異常直上にクレーターが形成される影響を衝突数値計算コードiSALEを用いて見積もり、重力異常の原因となる貫入岩体の深さと年代について制約を試みた。ブーゲー重力異常値に釣り合うように貫入岩体の深さ・幅を様々に仮定し、実在するクレーターを再現する隕石衝突をその上でシミュレーションした。クレーター直下の貫入岩体の変位をトレースすることで、衝突後の重力異常値を計算できる。これを実際の重力異常データと比較し、直上のクレーターとの対応から、重力異常を説明しうる貫入岩体の深さを制約した。またクレーターと貫入岩体の層序関係から、クレーター年代から線形重力異常の形成年代を制約した。

Rocheクレーターは線形重力異常の形成後に起きた衝突の例である。線形重力異常はRocheクレーターを北西―南東方向に切るように存在しているが、クレーター内部の重力異常値が外部に比べて約40mGal低い。これがクレーター形成に伴う地殻掘削による影響だとすると、岩体が深さ10 km以浅まで貫入していたと考えられる。この値は従来の見積もりである20 kmよりも浅く、貫入岩体はこれまで考えられていたよりも表面近くまで上昇していた可能性を示唆する。また、線形重力異常はRocheクレーターの形成年代より古く、Nectarian以前に形成されたと考えられる。次にRowlandクレーター近傍の線形重力異常はRowlandクレーターのリムで止まっており、クレーター内部には続いていない。線形重力異常形成後にRowlandクレーターが形成された場合、クレーター内部で既存の線形重力異常を完全に消去することはできない。むしろ、Rowlandクレーターの存在が線形重力異常の水平方向の伸展に影響を与えたと考えられるため、この重力異常はNectarian以降に形成された可能性が高い。本発表ではこのような数値計算と実際の重力異常の対応関係から、線形重力異常の形成年代と可能な構造について議論を行う予定である。